プロローグ
彼女は確かに見た。その師の雄姿を。確かに目に焼き付けた。
望みをかけ、全力で走った。それが自身にできる唯一のことだったから。それでも心のどこかでは諦めていた。もう無理、だと。
彼は不能であった。適性が発現せず、神に能力を与えてもらえなかった。
そんな彼があんな化物に敵うわけがなかった。そのはずだった。
だが違った。
彼女は奇跡を目の当たりにした。
いや、きっと奇跡なんかじゃない。彼が、想い続け、努力し続けた結果に違いない。彼の軌跡そのものだ。
彼の炎から目が離せない。彼の戦いが頭から離れない。あの戦いから数日たった今でも目を閉じればその暗闇に炎が灯る。忘れられない。忘れられる訳がない。
ただ単純に、その姿に憧れた。ただ単純に、悔しかった。あのとき逃げることしかできなかった、助けを呼ぶことしかできなかった自分が悔しかった。
やはり、間違っていなかった。私の目に狂いはなかった。生まれた時から恵まれ、何にも困らなかった。家系によって何の迷いもなく戦士になった。適性が発現し、当然のように能力を与えられた。何も不自由がなかった。
そんな私にこんな気持ちを抱かせてくれる。
悔しい。
もっと強くなりたい。もっと誰かを救いたい。もっと、もっと、もっと。
彼が助かったとき、安堵と、緊張からの解放で涙が出た。
私が何もできなかったというその事実を前にしたとき人知れず涙を流した。
もうあんな想いはしたくない。ただ彼に背を向け、涙を流しながら走りたくない。もうあんな想いを抱くのはいやだ。
彼の横で、彼と共に、本当の意味で仲間として戦士でありたい。
だから今日もモンスターを狩る。彼が歩んできた轍を踏みしめながら。ギルド職員の彼女に頼み込み、メニューも組んでもらった。
まだ、生きているものを殺すことに躊躇いがないといったら嘘になる。それでも狩る。
剣を使い、魔法を駆使して狩り続ける。
彼ほど純粋でも、真っすぐでもないけれど確かに心に宿したこの想い。
私はこの日初めて戦士になった。




