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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
1章 『灯火』
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29話 『技でも、思考でも、越えられないものがあるのが現実だ』

 格好つけすぎたかな、ふとそう感じた。

 もう恐怖はなかった。そこには死しかなかった。

 ほんの数秒前、その怪物は叫んだ。叫んだと思った瞬間右腕が凍っていた。

 もうふらふらだ、意識もとびそうだ。

 よくやったじゃないか。

 この人生いろいろあった。たくさんのものを失い、得てきた。

 それでいいじゃないか。よくやったよ。


 ―そんなわけあるか!


 まだだ!今ここで死んだらこの怪物がシレーヌさんに追いついてしまう。それだけはいやだ。

 彼女だけは死なせない。

 母親と師匠を除いて、僕が何の適性のない人間と知りながら初めて僕を戦士と呼んでくれた人。

 僕を慕い、師匠にしてくれた人。

 必ず、何としても守らなければならない。

 今なら母さんの気持ちがわかる。

 可能性に託し、未来を信じること。

 僕は彼女の師匠だ。

 僕から見ても彼女には才能がある。これからもっと強くなり、多くの人を助けるだろう。

 ならば、彼女の未来を守ることこそが僕が、師匠として最後にやるべきことなのだ。

 そしてそれが僕のあり方だ。

 もう曲がらない。誰に何と言われようと、どれだけ否定されたとしても守ってみせる。

 もう大切のものは失わせない。

 あぁ、やっとわかった。やっと答えが出せた。ずっと僕の心の奥底にあり、ずっと僕の原動力になっていた、壮大で、幼稚で、愚かな、それでも捨てられなかったこの想い。

 この想いは本物だ。

 気付くのが遅すぎたかもしれない。いやきっと遅すぎた。もっと自分の想いを全面に出し、堂々と言えていれば何かが変わったのかもしれない。

 馬鹿だな、僕は。まだだろ。まだ間に合うだろ。ここで彼女を救う。この想いが確かにそこにあったと、示すために。たとえ命を落としたとしても。

 短剣を左手に持ち替える。そして思考をフル回転させる。

 考えろ!考えることでしか勝機を見出せないのなら!考えつくせ!

 残りの爆発玉はあと3つ。右手は凍り、身体はボロボロ。状況は最悪。

 それでもやるしかない。

 相手の行動パターンを予測する。

 攻撃手段を自身の身体を利用した突進と氷攻撃。

 どれも当たれば即死。

 そして僕の勝利条件は出来るだけ時間を稼ぐこと。

「はは…、笑えない状況だよ、ほんとに…。」

 思考がまとまる。その思考のもと身体を動かす。もうボロボロの身体を。この想いをのせて。もう長い間口に出していなかった。これが本当の想いかもわからなくなっていた。

 だが、目の前に死が近づき、その場に守りたい人がいる、そんな状況で改めて感じたこの想い。自身を支え続けたこの想い。


「僕は、戦士になる…!」


 まず、爆発玉を一つ投げる。

 投げた玉は見事命中し、爆発する。その際に発生した煙に乗じて少し対象から離れる。

 離れた位置から剣を構える。そして、回転を始める。

 幾度となく練習したこの技。回転すればするほどその速さは増し、威力が上がる。

 この怪物に傷をつけるには初速じゃだめだ。

 ある程度回転した後でなければ傷はつかない。その技は今まで達したことのない最高速度に達する。


《連撃》!


 自分の全てを相手にぶつける。

 その攻撃は相手の足をえぐる。

 その回転は相手に当たった後もスピードを増していく。次第にその厚い毛皮がはがれていく。


「うごぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉ!」


 初めてその怪物が痛みの雄叫びをあげる。


「まだまだ!」


 その傷ついた足に向かって、二つ目の爆発玉を投げる。

 爆発玉が命中し、その足で爆発が起こる。

 怪物はさっきと同じような雄叫びをあげた。

 このままいけば…!そう思った。思ってしまった。その相手がボス級であることを忘れ、このままいけば大丈夫だと思ってしまった。


「うごぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 その怪物が叫んだ。明らかな敵意を持って。

 瞬間、辺り一面が凍った。木も草も全てが凍り、新たな戦場が出来上がった。

 かと思うと、すぐさま突進してきた。


「ぐっ!」


 内臓が全て飛び出そうなほどの威力だった。

 僕が足を攻撃したのにはこの突進での即死を防ぐためでもあった。にもかかわらずこいつは氷で滑るのを利用してぶつかってきた。

 氷の上では摩擦が少ないため初速のスピードが維持されやすくなる。

 つまり、氷をはることで片足と傷ついた片足分のスピードを維持したまま突進できる舞台を作り上げたのだ。

 これがボス級。能力が使えるモンスター。

 即死は免れたものの意識が遠のく。身体の力が抜けていく。

 だめだ、まだ死んじゃいけない。まだ死ねない。守らなければいけない。

 そう思っても身体は動かない。意識が遠のく。

 そのモンスターは僕を見つめる。そして、何かを警戒するようにその能力を発揮する。

 そのモンスターは警戒していた。

 この少年の目はまだ死んでいない、と。ただの蟻同然としか認識していなかったこの少年が自身の最大の武器である氷を使わせた。

 だから、油断は禁物だ。とどめを刺すときは確実に。

 賞賛しようじゃないか。この少年を。自身を見ては逃げていくものばかりであったが、この少年は立ち向かってきた。

 少しは楽しめた。だがそれもこれで終わりだ。

 余すことなく自身の力を出す。

 そして、少年は氷漬けとなった。

 少年の目は氷の中でもまだ諦めているようには見えなかった。

 だがそれももう無意味だ。

 その怪物は少年に背を向け歩き出そうとしていた。


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