閑話 火が灯る
火が灯る。
怒り、憎しみ、絶望、憎悪、嫉妬、黒い感情が渦巻くこの世界で、火が灯る。
はじめは単純な世界であった。
知性を身につけ、他の種よりも頭一つ抜きんでたヒトという種はかつてないほどの繁栄をもたらした。
その種は生活の豊かさを、種としての繁栄を、ただひたすらに追い求めた。
他を助け、他に助けられる。他を支え、他に支えられる。そして、他を愛し、他に愛された。
いつからだろうか。種としての繁栄よりも「個」の発展を望むようになったのは。
種よりも個、個人の繁栄を。他を蹴落としてでも個を。
支え合いが蹴落とし合いに、愛情は憎悪に。
知性は感情を生む。感情は個としての自覚を生む。個の自覚は競争を生む。その競争は互いに高め合い、切磋琢磨するような綺麗なものではなかった。
他を騙し、陥れ、自らの手を悪に染めようとも、自身が一番であればよかった。
一番であればそれが正義になったからだ。一番が正しい。一番上に立つものがすべて正しい。
どんなに卑劣でも、それが悪だとしても、上に立ってしまえば関係なかった。
それが種としての限界であった。
知性を身につけた故の弊害、感情を持つが故の障害。
集団の中で個を自覚したその時がその種の終焉であった。
絶えることのない争い、とめどなく流れ出る血。
最も賢いと思われていた種は最も愚かな種であったのだ。
知恵を身につけ、考え、考え、考え抜き、初めて、自然淘汰を覆したその種は自らの手で崩壊していく。
自身よりもはるかに大きく、凶暴な武器を持った種を知恵を用いて倒してきたその種は自らの手で滅んでいく。
では、どうする。
ある者は考えた。どうすればもう一度種を再興できるか、どうすればもう一度繁栄を築けるのか、どうすればもう一度ヒトが一つになれるのか。
だから、私は火を灯す。
ヒトに根付いた欲深さと汚さはぬぐえない。ならばその汚さが見えなくなるほど明るく、眩しい光で照らせばいい。
その炎で、導く先導者になればいい。
この汚れた世界にも、ごくわずかではあるが、存在する。
あぁ、この代も駄目だった。彼女は強く、芯の強い戦士であった。誰よりも平和を望み、他を愛していた。それでも駄目だった。
もう何代と続けてきただろうか。何代と見届けてきただろうか。その度に火が消えそうになった。
それでも消してはならない。この炎だけは消してはならない。長い年月を経て、同胞とも呼べるだけの力を持つものもできた。だがならない。この火だけは絶やしてはならない。
自らがどれだけ傷つこうとも、自らを犠牲にしても、ヒトのためという強い想いを持つ者に。
その想いが世界を照らせるように。
もう一度その想いで世界が溢れるように。
それがヒトに残された最後の希望なのだから。
今日もどこかで誰かが殺されている。誰かが泣いている。誰かが助けを求めている。
ならば助けなければならない。戦わなければならない。自身の命を天秤にかけ、他人のために脅威に立ち向かわなければならない。
それが純潔な、真の戦士であるのだ。




