25話 『きっとどこまでいっても僕は戦士になれない』
そこから約半年の間、僕は師匠に戦い方を教わった。
母親を失った悲しみが完全に消えたわけではなかった。だが、それを感じさせないほどその日々は忙しく、楽しかった。何より師匠が寂しさを感じさせてくれなかった。
どんな時も隣にいてくれた。厳しさの中に優しさが、冷徹さの中に温かさが確かに存在した。
ゆっくりと目を開ける。
室内は目が暗闇に慣れていなかったら何も見えていなかっただろうと思えるほどに暗かった。
その暗さが自分の中に潜む弱さをむき出しにする。
もうその師匠は存在しない。絶望に呑まれた僕を救い出してくれた、弱いままの僕を鍛えてくれた、寂しさを感じていると決まって僕の隣にいてくれた、「君は戦士になれる」と言ってくれた、師匠はもういない。
僕が戦士になるのはやはり無理なのだろうか。
僕が守る側に立つのはやはり無理なのだろうか。
あの日決意した想い、あの日の誓いが揺らぐ。
あの人は師匠ではない。そんなことは分かっている。
だとしてもあの今にも燃えだしそうなほどに真っ赤に輝く髪、その堂々とした立ち振る舞いが、どことなく感じるその雰囲気が師匠と重なる。
自分をこちら側の世界に引きずり込んでくれた、絶望の淵で苦しんでいたときに救ってくれた、希望を与えてくれたその人に姿が重なる。
その重なった姿が僕の想いを否定した。
無理だといった。
何一つ言い返せなかった。
その通りだと思った。
シレーヌさんには僕は必要ない。それどころか彼女にとって僕は足を引っ張る存在でしかない。
あの戦いで薄々感じてはいた。
適性を持ち、能力を授かった彼女はもうすでに僕よりも強い。
あの戦いでは一度も見せていなかった技を出したからかろうじて勝てた。
おそらく次にもう一度戦ったら負けるのは僕の方だろう。
そんな僕に彼女を指導する資格などない。
この世界にはそれぞれ人にあった役割が生まれた時から与えられているのだろう。
彼女は選ばれた人間で僕は選ばれなかった人間。
絶対に越えることのできない境界線。
守られるものと守られるもの。
涙は出なかった。
悔しかった。
僕でも人を救えると、師匠が僕に言ってくれたように言ってやりたかった。
でも言えなかった。
納得してしまったから。
そして思ってしまったから。
僕には人を救えることが出来ないと。
確かに心が折れた音がした。




