23話 『彼女はただ生きろと言った』
途絶えた意識の中で夢を見ていた。
暗く閉ざされた闇の中に僕はいた。
周りには何もない。誰もいない。
『かあさん?』
母さんの姿が見える。それを一生懸命追う。
だが、その姿はすぐに消えてしまう。
『みんな?』
村のみんなの姿が見える。それをまた、一生懸命追う。
だが、その姿はすぐに消えてしまう。
あぁ、暗い。寒い。寂しい。
助けてっ…!
『立ち上がりなさい。』
声が聞こえる。
あの時、あの炎にのまれる前に聞こえた声だ。
『絶望にのまれないで。負けないで。あなたにならできる。』
誰?誰なの?
その声と同時に忌々しい記憶も同時によみがえってくる。
痛めつけられる母さん。笑いながら痛みつける怪物たち。
再び絶望にのみこまれる。
そうだ、僕にはもう何も残されていない。そんな僕に何ができる。支えてくれる人も大切な人もいない。
いまさら何があるというのだろう。
いっそ、炎に焼かれればいい。
その炎に焼かれ、そのまま灰になってしまえば母さんのもとへ行けるかもしれない。
『待って!その絶望にのまれないで!』
うるさい!
誰なんだよ!お前は!
口では何とでもいえるだろ!負けるなだとか、あなたならできるだとか!
その先に何がある!
僕には…、俺にはもう何も残ってねぇんだよ!
僕は理解してしまった。
この世界の残酷さを。
何気ない日常を、大切なものをいとも簡単に壊すことのできる力を。
そして、自分の無力さを。
この世界は残酷だ。
力のないものは、力のあるものに全てを奪われる。
弱者は強者に平伏するしかない。
そして僕は力のない弱者だ。
僕が母さんを殺した。
僕がいなければ母さんは助かっていたかもしれない。僕に力があれば母さんを助けられていたかもしれない。
『それじゃあ、あなたのお母さんの死を無駄にする気?』
その絶望のさなかその声は容赦なく核心を口にする。
『あなたのお母さんがあなたを生かしたのはなぜ?自らの命を懸けてまで戦い続けたのはなんのため?』
心のどこかではわかっていた。
それでもその選択ができなかった。
『あなたのためでしょう!』
そんなことはとうにわかっていた。
『なら、生きなきゃ!あなたのお母さんの分まで生きなきゃ!』
生きるということが今すべきことだということを。
でも、その勇気がなかった。
また生きていれば多くのものを失う。たとえこれから先大切なものを得ようと、失ってしまう。
なぜなら、僕が弱者であるから。
それならば死んでしまった方が楽だ。
『なら、強くなればいいじゃない。もう何も失わないように、何も奪われないようにつよくなればいいじゃない。』
強くなれるのか、僕に?
あの怪物に立ち向かっていけるのか?
『ぐだぐだ考えてないであなたの想いは!あなたはどうなりたい!どう生きたい!』
僕は…、僕は…、
もう何も失いたくない。守りたい。
そのために強くなりたい!
強くなって大切なものを守れるようになりたい!
『なら、いまあなたがすべきことは何!もうわかっているんでしょう!』
僕がいますべきことは…
炎が僕を照らす。
あの黒く、炎でありながら暗く冷たい炎とは対照的に明るく全てを優しく包み込んでくれるように温かい炎。
その炎に手を伸ばす。
強くなりたいと願って。




