21話 『何気ない日常は突然に奪われる』
五年前
その日は初夏のよく晴れた日だった。
とても暑く、僕は水浴びをしていた。
母さんは昼食の準備をしていた。
他と変わらないいつもの日常。
その日常は突然に奪われる。ほかでもないモンスターの手によって。
ゴブリンの群れが僕の故郷である村をおそった。家は壊され、人は殺されていった。ゴブリンは単体での力はないもののそれを補うように備わった統率力と武器を扱える程度の知性を備えていた。
村はすぐに火の海となった。
ゴブリンたちが火を放ったのだ。
無慈悲な暴力、圧倒的な力によって壊され、潰されていく大切なもの。鳴り響く悲鳴。
これがモンスター。
弱冠十歳にしてモンスターの脅威をしってしまった。
ゴブリンといえばモンスターのなかでも最底辺に位置するモンスターである。そんな最底辺の存在に対してもなにもすることができない。
「母さんっ!!」
そう叫ぶことしかできなかった。
「母さん!戦士は⁉何で来ないの⁉こうゆうときに来てくれるのが戦士じゃないの⁉神様は⁉」
そう問う僕に母さんは諭すように語りかけた。
「偉大な戦士様がきっときてくれるわ。だからあなたは逃げて。そして生きて。」
「なんで⁉かあさんも一緒に行かないと!」
そういっても母さんは動こうとしなかった。
「母さんはね、足を怪我してしまったの。だから逃げれないの。」
といった。母さんの足を見ると広がった火によって焼かれていた。
あまりのひどさにうっ、とめをそらしてしまった。
「でも、でも…。」
それでも十歳の僕には母さんをおいていくことなんてできるわけがなかった。
「いやだっ、いやだっ。」
僕は動くことができなかった。もしこの時僕が先に逃げ、母さんが息をひそめていれば母さんがこの悲劇の根源に見つかることはなかったのかもしれない。
母さんが殺されることはなかったのかもしれない。
一瞬だった。
手に持った鈍器で母さんを殴った。何度も何度も殴られていた。動けない母さんを、正確には、恐怖で動けなくなっていた僕をかばっていた母さんをゴブリンは何度も殴り続けた。
「あ…っあ‥。」
僕は動けなかった。動けるわけがなかった。
「母さん…!」
何度も殴られ瀕死に近い母さんの唇が微かに動いた。
「は、早く…、に‥げて‥。あなただ…けで‥も‥。つよ…く、いき、て…。はぁはぁはぁ。
あ、あなたは、…はぁ‥誰よりも、やさしい…。その心が…あれば、絶対に、いきていける。人を、助けられる…。だから…生きて…」
涙がとまらなかった。
「いやだっ…!かあさん‥。」
『ギィギィギィ』
無慈悲な存在はそんな光景すらも笑って見ていた。そして傷だらけで生きているかもわからない母さんから、目線を僕に変えた。次はお前だ、と言わんばかりに。
「にげて…。逃げなさいっ!!」
「っ!」
明らかに出せることのできない声の大きさだった。最後の力を振り絞ってだした怒りだった。僕は泣きながら逃げ出した。
母さんを見殺しにするしかなかった。
「そう…、それでいいのよ…。」
母さんは走っていく僕を見ながらそう呟いた。
そして自身を苦しめ、すべてを壊した元凶と対峙した。




