14話 『生物を殺すということ』
「じゃあ修行を始めましょうか。」
ギルドを出た後、僕らは昨日の草原に来ていた。ここで本格的に修行を始めていく。
といっても僕が戦士である彼女に教えられることは限られている。
その内容を考えるうえで彼女の能力を考えてみた。
そもそも、戦士とは一体何なのだろうか。戦士とは神様に能力を授かったもののことを言う。
つまり戦士とは神様から能力を授かることが出来れば誰でも戦士になれる。
だが、実際には誰でも能力をもらうことが出来るわけではない。神様の力は強大だ。
もし、自身の身体にあわない、自身の身体では制御できないほどの力を授かってしまえば、その力は暴走し、恐らく本人は死んでしまう。
いや、死ねればいい方かもしれない。もしそのまま死ぬことなく、暴走し続けることがあれば、その人はモンスターと化す。
その強大な力に自我を失い、殺戮兵器となってしまうのだ。
そのような事態を防ぐために編み出されたのが、適性検査であった。
自分が神の力を授かるのに相応しい器であるのか、それを検査するのだ。それがギルドで行われ、誰でも受けることができる。
適性はそれぞれ、火、水、風、地、光、闇の六つの属性に分かれる。
これは地上に召喚された神様の能力に対応している。そして適性が発現した属性を司る神のもとへいけば能力を授かることができるのだ。
ただしこれはあくまで基本属性である。
個性、生活環境、その他もろもろ全てが人格を形成するように属性も基本属性からその人にあったものへと変化していく。
例えば、水属性の神に能力を授かったとしても水属性ではなく、氷属性が発現したり、光属性が雷属性になったりなどその変化は多岐にわたる。
だから純粋な基本属性の能力を使える人は案外多くない。
「シレーヌさんの属性は水なんだよね?」
「はい、でもまだなんの技も使えなくて…。どうやったら使えるようになるんでしょうか?」
「えっと、じゃあ能力について詳しく説明するね。まず、能力を授かると基礎能力が大幅に上昇する。基礎能力っていうのは攻撃力、防御力、俊敏性、魔力のこと。それだけである程度モンスターとは戦えるようになる。」
これは基本中の基本だ。だからこそ、シレーヌさんでもハイウルフからあれだけ逃げることが出来たのだ。
「そして、能力の力に応じてEランクからSランクまで分類されている。はじめは皆Eランクからのスタートになる。そして、これがモンスターにつけられているランクに対応してる。EランクのモンスターはEランクの戦士が倒せるくらいの強さってことになってる。」
「なるほど…。」
そう、だからEランクのシレーヌさんがEランクに分類されているハイウルフに対して一対一の状況で逃げ回っていた、というのはかなりおかしいことなのだ。これは言わないでおこう。
「じゃあ、ランクを上げるにはどうすればいいんですか?」
さすが、シレーヌさん、これくらいは普通知っておかないといけないことのはずなのに何も知らない…。
ここまで知らないのは危険すぎる。今後どんな敵が現れるかもわからない。もちろんモンスターのランク付けはギルドが行ったものである。
つまり出会ったときにそのモンスターの力を把握しておかなかったために気が付かないうちに自分のランクよりも上のモンスターと戦っていた、ということは珍しいことではない。
何も優しくモンスターが「僕はEランクです!」なんて優しく教えてくれるわけではない。
そして自分のランクよりも上のモンスターと戦うのは自殺行為とおなじである。
一つのランクの間には越えがたい壁がある。かなりの大人数で戦えば勝てることがあるかもしれないがふつうは勝てない。
ではどうやってランクアップするのか。
「ランクアップに必要なのはレベルを上げること。」
「レベル?ランクと何が違うんですか?」
「えっと、レベルっていうのはランクのあいだにある数字のことで全員レベル1からスタート。レベル20まで上がるとランクが一つ上がる。つまり、レベル20でランクDに、レベル40でランクCになる。レベルが上がると基礎能力が上昇したり、技を覚えたりするってかんじかな。自分の能力値はギルドで測定できる。」
「ということは強くなるためにはレベルを上げればいいってことですよね?でもレベルってどうやって上げるんですか?」
「それは、経験だね。自らの身体を鼓舞し、限界まで使う。そうすればレベルは自然と上がっていく。手っ取り早いのはモンスターと戦うことかな。」
これくらいが基本的な説明だろうか。最低限これくらい理解しておけば一応何をすればいいかわからない、という状態には陥らないだろう。
「なるほど…。カルナさんは物知りですね!」
「あはは…。」
いや、これくらいは知っておかないとまずいんだけどな…。実際、能力を授かっていないためにランクもレベルも存在しない僕ですら知ってることなんだから。
「じゃあ基礎的なことは教えたってことで次は実際にレベルを上げよう。といってもそんな簡単に上がるもんじゃないけどね。」
「そうなんですか?」
「そうだね、実際にランクを上げるのは何年もかかるっていうし、戦士の約半数がEランクとDランクって言われてる。」
「そ、そんなですか⁉」
そう、実際にランクを上げるのはとても難しい。それはレベルが上がれば上がるほどより難しくなっていく。
だからCランクになれれば一流と言われている。
この世界に現時点で、Bランクは数十人、Aランクは数人、Sランクに至っては歴代で片手で数えれる程度と言われている。
だからほとんどの戦士たちが途中で自らを鍛えるのをやめ、現状で満足してしまう。戦ってもどうせレベルは上がらないと。
だがそれは違う。少なくともレベルという概念に縛られず、ただひたすらにモンスターと対峙してきた僕はその考えは間違っていると思っていた。
戦闘で得られるものはそれだけではない。
「じゃあ今からモンスターと戦ってもらう。」
僕はシレーヌさんに指示を出す。ここからが本格的な修行の始まりだ。
「えぇ⁉いきなりですか⁉そんな急には無理ですよ…。」
やはり思った通りの反応。
「大丈夫。最初は一番弱いモンスターから始めるから。まずはスライムから。」
「スライムですか?それなら行けると思いますけど…。」
「じゃああっちの森の方へ移動しよう。そっちの方が出やすいと思うから。」
「は、はい!」
僕たちは森の方へ移動する。すると早速スライムが出てきた。
「シレーヌさん!このスライムを倒してください!」
「分かりました!」
彼女も意気込みはあるようだった。シレーヌさんと一体のスライムが対峙する。
「よし…。いきます!」
彼女は短剣を構え、戦闘態勢に入る。
「はぁぁぁぁ!」
シレーヌさんがスライムに向かって走り出し、その短剣を振り切る。
しかし、その一振りは宙を切った。見事な空振りだった。
「シレーヌさん!目を開けてください!よく見て振れば当たります!」
「は、はい!」
しかし今度は腰が引けてまともに剣を振れていない。
「もっと腰を引いて!」
その後も一つ直すと、一つ駄目になる、をずっと繰り返し、数十分後にやっと一体倒すことが出来た。
「はぁはぁ、やりましたよ…!何とか一体倒せました。はぁはぁ。」
息切れをしながらシレーヌさんが嬉しそうに報告してくる。
スライム一体に数十分…。いやでもはじめてモンスターを倒したんだ。ここは褒めて伸ばそう。
「はい!はじめてモンスターを倒しましたね!少し休憩したらもう一体いってみましょう。」
「分かりました、やってみます…!」
その後時間はかかるもののシレーヌさんは何体ものスライムを倒した。
その中で一つ気になることがあった。
「あの…、シレーヌさん。モンスターを殺すことを躊躇っていませんか?」
「っ、ど、どうしてですか…?」
この反応は恐らく当たっているだろう。
「モンスターの攻撃を避けるところはだいぶ良くなってきていてスムーズにできるようになってきているんですけど、攻撃するときだけ動きがぎこちなくなってるんです。」
そう、シレーヌさんがスライムを倒すのに時間がかかる理由、それがこの攻撃時のぎこちなさだった。
そのせいで上手く攻撃が当たらない。
はじめはただできていないだけだと思ったが、回避が上達していくのにもかかわらず、そのぎこちなさだけは何回やっても改善されなかった。
だとするならば、そこに働いているのは心理的理由、つまりモンスターを殺すことに対する抵抗があるのではないかということだった。
「そうですか…。はい、実は何かを殺すっていうことが怖くて…。モンスターも生きてるわけじゃないですか。だから…。」
「……。」
「変ですよね…、モンスターを殺すのに抵抗があるなんて…。」
これもなり立ての戦士には珍しいことではなかった。何かを殺すこと、たとえそれがモンスターであったとしても一つの命を終わらせることには変わらない。だから抵抗があるのは仕方がないことだ。いや、むしろそれが正常の人間にとっては普通なのかもしれない。
だが、それは重大な欠点であった。
モンスターとの戦いにおいて一瞬の迷いが命に係わる。だからここで僕は彼女に対して心を鬼にして言わなければならない。
「いや、別に変なことではないよ。でもね、その迷いが自分の命を奪うことになる。自分の命だけならまだましな方かもしれない。その迷いのせいで守りたかった人が、本当は救えた人が死ぬかもしれない。だからモンスターと戦うときは覚悟しなきゃいけない。自分が殺される覚悟と、相手を殺す覚悟だ。」
「相手を殺す覚悟…。」
ちょっと言い過ぎたかもしれない。ましてやサポーターにこんなことを言われるのはいやかもしれない。
それでも今は師と弟子の関係だ。
彼女は今後ものすごい戦士になるかもしれない。だからこそその可能性を伸ばすためにも言わないといけない、そう思った。
いや、でも‥‥言い過ぎたか?偉そうにしすぎたかもしれない。
「いや、でも、あれだよ、初めてにしてはいいほうだとおもうよ‥‥!」
「……。」
は、反応がない…。やっぱり偉そうにしすぎたか?そーだよね、だって僕はサポーターでシレーヌさんは戦士だもんね。ごめんなさい。
「……いい……。」
「え?」
「かっこいいです!やっぱりそうですよね!生半可な覚悟じゃだめですよね!殺さる覚悟と殺す覚悟…。頑張ります!」
「う、うん…。わかってくれたみたいでよかった…。」
まさかの反応。シレーヌさんの行動や反応は予測できない…。
でもわかってくれたみたいでよかった。
おそらくだが、彼女は恐らく一流の戦士になるだろう。彼女の真っすぐさ、真剣さを見てなぜかそんな気がした。




