13話 『僕は女性の怖さを実感する』
、「カルナくん!」
ギルドに着き、真っ先に僕に声をかけてくれたのはギルド職員のマリーさんだった。
「おはようございます、マリーさん。」
「おはよう。昨日は大丈夫だった?ちょっと忙しくて話せなかったんだけど…。」
昨日はギルド職員全員が大忙しだった。それはシレーヌさんとクエストを終え、ギルドに訪れたときも同様であった。
だからいつも面倒を見てくれているマリーさんも僕まで手が回らなかったのだ。
(確か、ボス級モンスターが出たとか言ってたような…)
でもそんなことを気にしていても仕方がない。
それよりもマリーさんに真っ先に報告したいことがあった。
「大丈夫ですよ。それに僕も自分でパーティを組めるようになりました!今日もその人と修行するんです!」
マリーさんにはずっとお世話になっていた。そしてこれからもお世話になるだろう。
そんな彼女に、自分にも一緒に戦ってくれる戦士ができたと、そして修行をつけてほしいと頼まれるほど頼られていると報告したかった。そして安心させてあげたかった。
「へぇー…、それってどういう人なの?」
マリーさんは少し顔を曇らせながら僕に訪ねてきた。
きっと、その人が僕のことを罠にはめようとしているのではないか、ということを疑い、僕を心配してくれているのだろう。
実際に前にもそんなような経験をしたことがある。
それでもシレーヌさんは大丈夫だろう。彼女の意志は本物のはずだ。
「シレーヌさんという人です。大丈夫ですよ。とてもいい人だと思うので。」
「ほんとかなぁ…」
「大丈夫ですって。ほんとにいい人で―」
「カルナさん!遅れてすいません!」
マリーさんと会話をしているとシレーヌさんが慌てた様子で走ってきた。
「いえ、全然大丈夫ですよ。あ、マリーさん、この人です。シレーヌ・ヴァーグさんです。シレーヌさん、こちらはギルド職員のマリーさんです。」
お互い初対面であろう二人にそれぞれを紹介する。
それに僕が口で何回も説明するよりも実際に見てもらった方がマリーさんも安心するだろう。
「は、はじめまして。シレーヌ・ヴァーグといいます。」
「はじめまして。ギルド職員のマリー・プラネットと申します。いきなりぶしつけですが、今回はどうしてカルナ氏とパーティを?」
マリーさんはその整った顔立ちのまま、だけど戦士がモンスターを狩るときのような鋭い目つきでシレーヌさんに質問していた。
あ、あれぇーー。マリーさん、シレーヌさんを見て、一層警戒してないか?
「え、えっと、カルナさんに戦い方を教えてもらいたくて…。」
その答えを聞いたマリーさんは驚きを隠せないでいた。
「え、カルナ氏がシレーヌ氏に?シレーヌ氏は戦士では?」
「そ、そうなんですけど…。」
一瞬驚いたマリーさんであったが、それでも攻撃の手を緩めない。まるでわが子を守る母親のような姿であった。
シレーヌさんはそんなマリーさんに完全に圧倒されている。
「マリーさん落ち着いてください。僕から説明しますから。実は―」
このままではシレーヌさんが!と思い、僕が代わりに事情をマリーさんに説明する。
「なるほどねぇ、それで…。」
「はい、だから大丈夫です。安心してください!」
「まぁカルナくんがそこまで言うなら…。」
マリーさんはまだどこか不満げだったが、一応は納得してくれたらしい。
「ほんとにカルナ君は甘いなぁ。特に女の子には。かわいいもんねぇー。」
「いや、そんなんじゃないですよ⁉」
誤解は解けたはずなのに、また違う誤解をしてないか⁉
ていうか今日のマリーさんいつもと違くないか⁉機嫌が悪い?
「ふーん、どうなのかなぁー?」
「だから、ほんとに違いますよ⁉」
いつの間にか責められているのがシレーヌさんから僕に変わっていた。
お、恐ろしすぎる……
「あ、あの…、そろそろいいですか…?」
僕が攻撃されているときに今度はシレーヌさんが助け舟を出してくれた。
これが本当の助け合いということなのかもしれない。
「これは私たち二人の問題なの。シレーヌ氏は少し黙ってようね?」
あれぇー、マリーさん⁉ほんとにどうしちゃったの⁉
「ギルド職員ってこんなに怖いんですか…?」
シレーヌさんが怯えたように小さい声で尋ねてくる。
「い、いやぁ、いつもはもっと優しいんだけど…。」
僕もこんなマリーさんは初めて見た。女性を怒らせると怖いって聞いてたけどここまでとは。
ていうか、そもそも僕怒られるようなことしたっけ⁉
「二人で何話してるのかなぁー?」
ひ、ひぃっ!すいません、すいません、すいません、すいません。
「なーんて、冗談よ。私はギルド職員ですから仕事に私情は挟みません。」
えぇ…、じゃあさっきまでのはなんだったんですか…。
「それでは、シレーヌ氏、カルナ氏、我々ギルド職員は心よりあなた方の帰還をお待ちしております。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
マリーさんはさっきとは別人のように上品に、そして一流のギルド職員のように対応して見せた。
「は、はい…、行ってきます…。」
「…い、いってきます…。」
あまりのギャップに僕もシレーヌさんも動揺せざるを得なかった。
ほんとに今日のマリーさんはどこか変だ。
マリーさんは整った顔に美しい笑みを浮かべている。それでもなぜだろうか。とても怖い。
ここにいてはいけないと僕の中の生存本能が言っている。
「い、いこう!シレーヌさん。」
「は、はい!」
そういい、僕らはギルドを後にした。
「はぁ。」
マリーは二人が去ったあと、一人心が晴れないでいた。
おそらくシレーヌという戦士は彼を騙そうとは考えていないだろう。
だから一時は安心した。だがすぐに別の感情が込みあがってきた。
彼にパートナーとも呼べる存在ができて、喜ぶべきことであるのだろう。
だが、なぜか素直に喜べなかった。あの戦士がまだまだ未熟で彼が危険な目にあうかもしれないからだろうか。
いや、でも危険なのはいつもと同じだ。ではなぜか。わからない。
何度考えてもわからないので彼女は考えるのをやめた。きっと単純に彼のことが心配なのだろう。
「気を付けてね…。」
マリーは自分の中で出た結論を無理やり納得しようと誰にも聞こえないように小さくそう呟いた。




