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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
1章 『灯火』
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7話 『少年が戦士になるとするならばそれは』


「ここは…?」


 目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。

そこまで高級そうではないものの確かにいいベッド。僕の家にあるものとは比べることすら失礼に当たるかもしれない。

あたりを見渡しても心当たりはない。

というか僕、たしか…。

そんなことを考えているとすぅすぅという音が聞こえてくるのに気付いた。

何の音だ?というかなんか足の方が重いような…。


ひっ!


そこにいたのはマリーさんだった。妖精のように整った顔立ちが寝息を立てながら気持ちよさそうに眠っている。見たところによると僕の看病をしてくれていたらしい。僕の身体中には包帯が巻かれている。心なしか身体がまだ痛んでいるように思われる。

いや、痛みなんかどうでもいい。それよりも―

なんてかわいいんだ。うむ、サポーターになってから死にかけの毎日だったからたまにはこんなラブコメ的なものもいいかもしれない。

すると、じっと見つめすぎていたせいかマリーさんが目を覚ます。


「んー…。ん?」


「あ、おはようございます、マリーさん。」


 うん、ちょっと寝ぼけた顔もかわいいなぁ。

 そんなことを思っているうちにマリーさんの表情が見る見るうちに変わっていく。

 安心した表情、泣きそうになる表情、かと思ったら今にも怒りが爆発しそうは表情に。


「カルナくん‼」

「は、はい⁉」

「どうして怪物の森林なんかに行ったの!」

「そ、それは…。」


 答えられなかった。マリーさんは本気で心配してくれている。そんなの一目瞭然だった。


「ごめんなさい…。」


 謝るしかなかった。本気の相手には本気でぶつかるしかない。だから今の気持ちを素直に伝えるほかない。


「…。」


 目を瞑る。この後どれだけ怒られてもかまわない。それだけのことをしたんだから。

 だが、マリーさんは怒らなかった。その代わり優しく包み込むように僕を抱きしめた。


「へ?」

「本当に心配したんだから…!戻ってきてくれてよかった…!」

「本当にごめんなさい。」


 温かった。僕のことをこれほどまで心配してくれている人がいるということが温かった。

 今だけ、今だけはこの熱に身を委ねていいのかもしれない。

 そう思ったのも束の間、僕を引き離し、その怒りを露わにした。


「そもそも!なんで怪物の森林なんかにいったの⁉私が出した課題は『ゴブリン三体撃破』よね?ゴブリンは別に怪物の森林じゃなくてもいいでしょ?まず能力を授かっていない状態でハザードスポットに踏み入れることがどういうことか分かってる?私は君の能力を考慮したうえで考えて―」


 その後約一時間、体感時間ではそれ以上、マリーさんの説教が続いた。


「まぁ言いたいことはこのくらいかな。」


 いやいやマリーさんどんだけしゃべるの。普段のギルドにいるときからは想像もつかないほどのスピードでとてつもない量をしゃべっていたんですけど。


「なに?反省してないの?」

「い、いえ!心の底から反省しております!」

「まぁいいけど…、これからは絶対立ち入っちゃだめだからね!」

「はい…。」


 マリーさんは呆れた顔で、それでも警告するような強い口調で制してきた。


「はい、お説教はおしまい!じゃあ今後の話をしよう。強化特訓は続ける?」

「続けたいです!」


 愚問だった。確かに今回は死にかけた。だけどそれはどのクエストであろうと同じ事。難易度は関係ない。僕にとってはいつでも命懸け。なら、少しでも成長できる道を選びたい。たとえそれが茨の道であろうとも。

 それにあの時、もう駄目だと思ったとき、何かの声が聞こえた気がしたんだ。何かがいつもと違う気がしたんだ。だから―


「分かったわ。じゃあ今回も私が考えてきたものをやってもらうね。わかっているとは思うけど怪物の森林には入っちゃだめだからね?」

「もちろんです。それはもう、はい、わかっています。」


 マリーさんそれ本日何回目ですかどんだけ信用されてないんですかまあわからなくもないんですが。きっとマリーさんはいいお母さんになるようなるだろう。


「はぁ。まあじゃあとりあえず傷を治して。とりあえず話はそれからね。」

「あの、ずっと聞きたかったんですけど」

「ん?なに?」

「ここどこですか?」

 …‥

 ギルドの医務室らしいです。マリーさんが笑いながら教えてくれました。「いまさらその質問?」とか言ってましたけど質問する隙を与えてくれなかったのはあなたですからね?



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「やっと扉を開けたか。」


 男はそう呟いた。

 その男は亡霊であった。

 もう何年の時を生きているか分からない。その男自身にできることなどなにもなかった。だからこうしてさまようことしかできない。

 そんな男の生きる目的はその経過を見守ることだけだった。幾千の時代のなかでその力は受け継がれてきた。その行先を見守ることが生きる目的であった。

 そして、この時代はイレギュラーともいえる。

 これほど弱々しいものにあの力を授けるなど何を考えているのだろうか。

 だが、一概に決めつけてはならない。

 少年は命を賭したのだ。自身の成長のために。

 まだ足りない。

 覚悟が、命の灯が、その身に宿す想いの炎が、足りない。

 その男はもう期待などしていなかった。

 もうすでに事態は人の手に余るものになっているのだ。

 世界は破滅に向かうほかない。

 その破滅を防げるとすれば―


「とんだ戯言だな…。」


 その声は空に消えていった。

 男は歩き続ける。ここがどこかも分からぬまま。





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