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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
1章 『灯火』
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プロローグ

数ある作品の中からこの作品に目を通していただきありがとうございます。

初めは少し退屈かもしれませんか、それも後々…ということでどうか辛抱強く読んでいただきたい。

面白くできるように頑張りますので。

では。

 

その時、火が灯った。

 目の前には文字通りの地獄が広がっている。辺りを覆っていた木々は氷漬けになっている。その原因だと言わんばかりにその広がった空間の中心から冷気が発せられていた。

 その中心には一体のモンスターと呼ばれる生物がいる。

 そして、その存在を前に絶望するしかなかった。

白い毛皮で覆われたその身体には赤い液体が飛び散っており、特にそのものの武器ともいえる牙と爪は赤く染まっている。

 強靭な牙を持ち、涎をたらしている口と、見られただけで身体が硬直してしまうほどの鋭く、赤い瞳をもつその顔は見上げなければ見ることが出来なかった。

 ある少女はただ、逃げることしか出来ず、自身は、逃げることすらできなかった。

 生に抗い、思考を巡らせ、剣を振るう。それでも届かない。遥か上の存在を前に何もすることが出来ない。仲間も、自身の夢さえも守れないのだ。

 その生物の咆哮は空気を震わせ、場を凍らせた。周囲の緑と同じように身体が氷で覆われる。体温が徐々に下がっていくのが分かる。いや、それ以前に息ができない。その氷の中で確かに想った。


どうしてこうなったのだ。


 どれだけ後悔しても、どれだけ呪っても、なにも変わらない。その氷が身体を震わせている。身体の震えは寒さだけのものではない。目の前に広がる絶望に、目の前に差し迫っている死に、恐怖していた。

 どれだけ格好をつけて、仲間を逃がそうと、人の本能からは逃れられない。人が最も恐怖するその瞬間には誰しもが無力になる。生を捨て、死を受け入れる。生業としてきたその剣を握る右手すら、今では思い通り動かせない。

 思えばいつもそうだった。心のどこかで誰かに助けてもらうことを期待していた。守るものは何もないと勘違いして、身を投じてきた。それは常にあったのに。

僕が想い続けてきたものはこの程度のものなのか。こんなものなのか。


本当にそれでいいのか。

僕が憧れ、目指した姿はこれか。


 刹那、ある一人の戦士が脳裏に浮かぶ。気高く、凛々しく、強かった一人の戦士の姿が脳裏に浮かぶ。どれだけの絶望を前にしても常に戦い続けていた一人の戦士の背中が浮かぶ。

 選ばれないからなんなのだ。才能がないからなんなのだ。

 僕に足りていなかったものは、才能でも、仲間でも、強さでもない。ただ、戦うものとしての、そこに身を置き続けるものとしての覚悟なのだ。

 選ばれなくてもかまわない。与えられなくてもかまわない。選ばれないのなら、与えられないのなら、何も持っていないのなら。自分で得ればいい。

 僕は何度でも地を這い続ける。


 その時、火が灯った。





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