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ショートショート9月~2回目

マッチ!

作者: たかさば

……マッチングゲームって知ってる?

同じ色の玉を三個つなげると、球が消えるってやつ。


あれに、どっぷりハマった私。


つまらない日常をかえてくれた、夢中になれるゲーム。

時間を忘れて、熱中できるゲーム。

うるさい親を無視して、没頭できるゲーム。

友達なんかいなくても、ゲームさえあれば、幸せ。


朝から晩まで、玉を揃えて、消して。

三個以上で消しては、テンション上げて。

何度も連鎖しては、歓喜の雄叫びをあげて。


歩きスマホで、道路に飛び出しちゃって。


まさかの工事中の穴にはまって、打ちどころが悪くてご臨終。


ヒビの入ったスマホに手を伸ばすも、すり抜けちゃって。せっかく、七連鎖してたのに、ご褒美アイテムのガチャも引けず。


死んじゃったことより、ゲームの続きができないことを、嘆き、悲しみ。


なんでマッチできないの?なんで次のステージに行けないの?なんでシークレットまであと二玉だったのにこういうことするの?開発者ともスペースでお話したのに、トップアスリートにもなったのに、アップデートも近かったのに、攻略本も出ること決まったのに、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……!


ちょっと、後悔?憤怒?しすぎちゃった、みたい。



……おかしなことに、なっちゃった。



「あ、黄色、発見!あっちの黄色と合わせて…、よし、右から黄色がくれば!」


フワリフワリと、宙に浮く私が見つめる先には、頭の上に、カラフルな玉をのせた、人、人、人、人……。


私は、黄色い玉の乗ったおじさんを、手前の交差点に移動させた。信号の向こう側から渡って来るのは、黄色い玉の乗ったおじいちゃん。

右の方から、黄色い玉をのせた学生さんが自転車でやってきた。


3つの玉が、横一直線に、並んだ。


────ピコーン!


軽快な音が鳴って、黄色い玉が、消えた。


────しゅっ!


微かな音がして、おじさんと、おじいちゃんと、学生さんが、消えた。



私、マッチで、消せるようになったんだ、人を。



……はじめはね、頭の上に、見たことある玉が乗ってるなあって、ボーッと見てたんだ。


ある時、たまたま、色が揃ったのを見かけたんだ。

ちょうど、歩いてきた人の色が、信号待ちして立ち止まっていた人たちと同じだったんだよね。


あ、同じ色が3つ揃うな、そんな風に思ったら。


懐かしい、マッチの音が聞こえてきて、テンション、上がった。


「え?……うそ!」


人が、消えたのを見て、テンション、下がった。


頭の玉を三個揃えると、人が消えちゃうって知った。

すごく、怖くなった。


でも、その瞬間、頭のなか?に、消えた人たちの人生が、流れ込んできた。

なんというか、走馬灯みたいな、やつ?


それなりに人生を送った人。

幸せな人生から転落した人。

ずっと小さな不幸せが付きまとっていた人。

幸せが続くと思っていたのに突然終わった人。

努力が実らなかった人。

誰かに人生を狂わされた人。


……みんな、最後は、悔やんでいた。


この、人通りの多い交差点を行き交うのは、死者たち、だった。


消えることで、成仏できてるのかなと、思った。


はじめは、偶然同じ色が並ぶのを見ていたんだけれど。


「ああ…、あのお兄さんがこっちにくれば、そろうのに!」


青い玉をもつお兄さんが、離れていくのに苛立ったわたしは、手を、伸ばした。


「え?…うそ!動かせる!」


自由に動き回る人の、頭の玉に触れると、自由に動かす事ができると知った。


私は、人を動かして、玉を、消すことに夢中になった。


玉の色は、人生の色だった。


黒は、闇に染まって死んだ人。

白は、病気を恨んで死んだ人。

赤は、他人を妬んで死んだ人。

青は、悲しみに包まれて死んだ人。

緑は、自分を失くして死んだ人。

黄色は、自分の過ちに気がつかないで死んだ人。


他にも、いろんな色があり、たまにしか現れないレアな色もあった。


成仏できない、かわいそうな人たちを、どんどん、消した。


まるで、救世主にでも、なった気分だった。


さ迷う魂を、救っているような気がした。


……自分の間違いに気がついたのは、一人のおばあちゃんを消した時だ。


幼いときから、孤独に付きまとわれた、かわいそうな、おばあちゃん。

一人でいい、自分と共にいてくれる誰かが欲しい。

そう願い続けて、孤独に人生を送った、おばあちゃん。


走馬灯の姿を見て、はっと気がついた。


この、おばあちゃんの、若い頃の、姿。

……見覚えが、ある。


人に人生を狂わされた、おじさんの走馬灯に出てきた女性だ。


人助けだと思って、容赦なく消しまくっていた私は、消した人が、初めからいなかったことになる事を、知った。


後悔するような人生を送るのであれば、はじめから生まれなければ良かったのだという、究極の、救い。


悔やんだ誰かは救われたかもしれないけど、また、別の悔やむ誰かを、生み出している。


……ああ、だから、この交差点には。


悔やむ人たちが、いつまでたっても、あふれているのか。


消そうか、消さないでおこうか、悩むようになった。


安易に人を消せなくなった私は、玉の色を絶妙にずらしながら、集めるようになった。


……一人消したら、また一人、新たな人が。


人を消さないように、同じ色の玉が集まらないように、整頓する事にした。

ゲームをやりこんでいたからか、同じ色を二個づつかためて、並ばせていく。

……いざとなったら、連鎖で一気に消せるように。


どんどん、交差点が、埋まってゆく。


積み上げゲームのように、交差点がいっぱいになったら、ゲームオーバーになると思っていたのだけれど。


いつまでたっても、ゲームオーバーには、ならない。


みっちりと埋まる、交差点をみて、途方に暮れた。


ここまで積み上げてしまうと、連鎖する勇気が、出なくなったのだ。


一気に消せば、一気にここに来る人が増える。


自分のしでかした事に、恐怖を感じた。


逃げ出したくなった。


人たちが見えない場所に行こうと、空を飛んだ。


だけど、どれだけ飛んでも、違う場所には行けなかった。

人たちの、カラフルな玉の、見えない位置には、行く事ができなかったのだ。


逃げられない。


私は、この、人が溢れる場所で、他人の後悔を昇華し続け、他人の人生を弄び、他人の人生を見せつけられ、自分の人生を送ることもなく、ここで、永遠に……。


「あ、あああああああ!」


頭を、抱えて、叫んだ、時。


指の先に、つるりとしたものが、触れた。


私の、頭の、上に。

玉が、乗っている。


私は、プレイヤーでありながら、ゲームのパーツでもあったようだ。


玉を手に取る事はできず、色を確認することはできない。


けれど、私は、この玉の色を知っている。


なぜ、こんなところに来てしまったのか。

なぜ、こんなところで頭を抱える事になったのか。

なぜ、こんなところを抜け出せないのか。


自分が消えたら、ここにいる人たちも消える。

自分が消えたら、ここにくる人たちも消えるかもしれない。


カラフルな玉は、連鎖消しできるように積み上げられている。


連鎖の、着火となる玉の色は、……黄色。


私は、黄色い玉を頭の上にのせたおばさんとチビッ子の横に、並んだ。


────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────連鎖ボーナス!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────連鎖ボーナス!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────連鎖ボーナス!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────連鎖ボーナス!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────ピコーン!

────連鎖ボーナス!

────ハイスコアボーナス!


ボーナスを、付与します!


夢をゲット!

目標をゲット!

学びをゲット!

思いやりをゲット!

縁をゲット!

逆行をゲット!



誰もいなくなった、交差点を見ながら、私は……。




「ほのか!あんまり頑張りすぎないで!いくらテスト前だからって、根詰めたらダメなんだよ?!」

「うん、あと一頁で終わるから。」


小さい頃、見知らぬお姉さんに転んだところを助けてもらった私には、夢がある。


テキパキと怪我の手当てをしてくれた、お姉さんのようなお医者さんになることだ。

何かあったとき、行動できるような、りっぱな大人になりたい。

困っている誰かを、助けてあげたい。


私は、その夢を叶えるために、日々邁進しているんだ。

……よし、今日のノルマ、達成!

下に行って、お母さんのごはんたべよ!


「あ、お姉ちゃんきた!」


自室から出て、階段を降りていくと…、テーブルでスマホゲームをしている妹が声をかけてきた。


「もう!ゲームばかりして!来年は中学生なんだよ、もう、いいかげんゲームは卒業したら?」


最近スマホを買ってもらった妹は、このところマッチゲームにはまってるみたいなんだよね。

同じ色を3つ揃えて消すやつ?


私も、スマホを買ってもらったばかりの頃、一時期ゲームにハマりそうになったから、気持ちはわからないでもないけど。

小学校卒業と共に、ゲームの類いは全部卒業したんだよね。

仲良しが歩きスマホして足の骨折っちゃったから、怖くなったっていうか。


「わかったー、これ五連鎖したらやめる!」

「もう!」


テーブルの上には、おにぎりののった、お皿。

お母さんが作っておいてくれたみたい。


「いただきま~す!」


ぴっちり海苔の巻かれたまんまるおにぎりが、3つ。

全部たべちゃお!……おいしい!


「お姉ちゃん、それ全消ししたら、宿題教えてね!」


スマホを閉じた妹にお願いをされた、私は。


おにぎりをかじりながら、にっこりと笑顔を、むけた。


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― 新着の感想 ―
[一言] そういうゲームハマりましたね。私がハマったのは4つ繋げるやつでしたけど。今でも大会とか、開かれているんでしょうね。 人の魂でやったら、そりゃたの、いや、よくないですね。 でも、なんかハッピ…
[良い点] ぷよってますね。ぷよ [気になる点] くそう。やたら具体的にイメージできてしまいましたなんて事を [一言] おえーいハッピーえんっd
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