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白い灰と祈りのパラドックス

作者: 雨蜂

神は7日で世界を作った。


俺はおふくろからそういわれてきた。だから俺は食前の祈りを忘れなかったし、日曜日には教会に通って感謝の祈りを捧げていた。知り合いのクッソたれが俺の妹に手を出そうとしてそいつを殴り殺しかけた時も祈りを忘れなかった。


そして人間は7日で世界を壊した。


「死ぬべきときに死ねない恥を知ってるか?ジョン」


足元にある石灰で埋め尽くされた死体を見ながらつぶやく。いくつかの死体は皮膚が真っ黒に変色していたが、石灰の白さで隠されている。まるで女の化粧だ。


人間の皮膚が真っ黒になり死んでいく病気。俺には良く分からねえが人間が調子に乗ったせいで神様がお怒りだと占い師のばばあは言っていた。


「いつからそんなセンチになったんだ?お前は黙ってその魔法の粉を床にまく。世界は救われる。それでオールハッピーだ。てめぇのナイーブなガラスの心について語る余裕はねえ。分かるか?」


世界が死の灰におおわれてから数年の時が過ぎた。世の中をハッピーにすると叫んでいた領主たちはみな死んでいったか、自分たちの城に閉じこもって”幸せに”暮らしているだろう。


「この世は金と権力がある奴は生きて、何もない奴は死ぬだけなんだ。お前なら分かるだろ?ジョン」


俺は”幸せに”暮らせなかった。金も権力も無かったからだ。俺が領主に「城に入れてくれ」といったとき、あいつは横にいた妹を見ながらこう言いやがった。


「金の代わりはあるのか?」


妹は何も言わなかった。俺も何も言わなかった。そして俺たちは城から去った。ただそれだけさ。


それから俺たちは”魔法の粉”を撒く仕事で生計を立てた。金も権力も無かったからだ。でも妹は違った。妹は”権力”を求めた。俺のためだった。


「死ぬべきときに死ねない恥を知ってるか?ジョン」

「知るかよ。俺はもう死んでんだぜ?」


そう言って、足元にあるジョンの死体は大きく笑ったように見えた。遠くから衛兵が集まってくる姿が見える。彼らが守るべき領主は足元で死んでる。白い石灰に赤い色が綺麗に残っていた。背中にいる妹の温かみはとうに消えている。


「妹を迎えに行かないとな」


そうつぶやいた男の右手は赤く染まっていた。

世界はまだ救われていない。


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