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・・・  作者: 青斗輝竜
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飛躍

「――大丈夫かな……」


遠くで誰かの声が聞こえて暗闇の中で体を揺らす。


布の擦れる音がした。

俺は今どこにいるのだろうか。

目を開こうとするも瞼は重く、視界に光が差すのに随分と時間がかかった。


「……ん」


俺が最初に見たものは白い壁のような物。

眠っていた体を起こすとそれが天井で俺はベッドに寝かされている事が分かった。


「あ、起きた!」


声と同時に少女が俺の顔を覗き込んできた。

まるで、駄々を捏ねた子供がおもちゃを買ってもらった時のような笑顔を浮かべて。


「急に倒れたけど大丈夫……?」


「えっと、あんまり思い出せないんだけど」


「ま、いっか。ちょっと待ってて」


そう言うと加流瀬さんは早足に部屋を出て行った。

扉の向こう側からはドスドスと大きな足音が聞こえてくる。

なんだか聞き慣れない音だったが不思議と懐かしい感じで、自然と口角が上がる。


数秒経ち、足音が聞こえなくなったのと同時に俺はゆっくりと上体を起こし軽く伸びをした。


「んっ……と。さて、どっちが夢の世界なのだろうか? 」


ただ天井を見つめ、ポツリと言葉を零す。


約一ヶ月前、俺は病院で目を覚ました。

けれど、再び俺は知らない場所、知らない人物の前で起きてしまった。


あの医者のような格好をした――

そうだ。


来橋とか言ってた気もする。


俺はあの人に右手を触れられた瞬間、意識が遠のいた。

一瞬で眠る事ができる薬なんかをどこかに打たれたのだろうか。

――それはまた起きたら聞こう。


今はこの世界のことを調べた方がいいかもしれない。


彩史さんも来橋とかいう人も、こちらが夢の世界と言っていたので、それは本当なのだろう。


気になるのはそこじゃないんだ。

まあ、気にはなるのだけど取り敢えずは置いておこう。

何故、俺が両方の世界の記憶を持ち合わせているのかという事。


どちらかの記憶がうる覚え、もしくは夢だったから内容が思い出せない――とかだったら予想は付く。

が、そうじゃなかった。


両方を鮮明に思い出せるのだ。


明晰夢めいせきむというものかもしれない。


でも、夢の続きなんて簡単に見れるものだろうか……。


それに俺は夢をコントロール出来ない。


「いや、待てよ? 」


俺がこの世界を夢だと分かった時、何かを願った事があったか?


思い通りにさせようとした事なんてあったっけ?


これが俺の夢なら、何かをコントロール出来るのでは?


そうと決まれば――


まずは雰囲気を出す所から始めよう。

俺は右手を思い切り突き出し、左手で右の手首を掴む。

そして右手を開いたり、閉じたりを繰り返した。

血の巡りを早くさせ、全ての力を腕に込めるイメージ。


最後には魔法を使うようなイメージをして――


「空を飛びたい! 」


一階には聞こえない程度で叫んだ。


……一人だとはいえ、恥ずかしい。

もうこんなことはやめよう。

こんな方法かは分からないし。


その刹那、遠くからドタバタと大きな音が近づいてきて……。


「喉乾いたでしょ!? 」


物凄い勢いでドアが開けられた。


驚き過ぎて一瞬飛び跳ねるくらいに。


「……ぁ」


「ん? もしかしてまだ具合悪い? 」


心配そうに顔を覗き込んできたが、違うんだ加流瀬さん。

人間、驚きすぎると本当に声が出なくなるんだ。


「だ、大丈夫だ。ちょっとビックリしただけだから」


「それならいいけど。……はいこれ」


水の入ったコップを差し出される。

俺はそれを受け取り、口に運んだ所で――


「毒なんか入ってないよ」


加流瀬さんがえへへと笑う。


俺はその笑顔を横目で見ながら口に水を含んだ。


カラカラになった喉を水が涼しい流れのまま降りていき、口の中には余韻だけが残り、脳がリフレッシュされた。


「ありがとう。生き返ったよ」


「そ。それなら良かったけど、大丈夫なの? 」


「んー。倒れた時の記憶とかないんだよなぁ」


「心当たりとかは? 」


「あのお茶に毒、それか睡眠薬が入っていたとしか……」


「入れてないからね!? 」


溜息を着きながら加流瀬さんがベッドに腰をかけ、貧乏ゆすりを始めた。

そのせいでベッドがギシギシと音を立てて反発する。

――無意識だろうか。

何でもいいけど……。


「てか、さっき私が来た瞬間飛んでたよね」


真面目な顔で加流瀬さんが俺の顔を覗き込んでくる。


「は? 」


その言葉を聞いて俺は背筋が凍った。

……飛んでた?

俺が?

確かに空を飛びたいとは言ったけど、俺の記憶にはない。

でも、本当に飛んでいたとしたら、やっぱり明晰夢だと分かっているから俺が夢をコントロール出来るのか?

それって凄い事じゃないか?

つまり、俺に出来ない事は無い……?


「具体的にどうやって飛んでたんだ? 」


加流瀬さんは人差し指を頬に当てながら、少し考えると貧乏ゆすりを止めた。


「なんかねー」


俺は固唾を飲む。


「うん」


「驚き過ぎて1.2センチくらい飛んでた! 」


どうやら俺は、全知全能にもなれなければ夢をコントロールする事すら出来ないらしい。

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