目覚め
瞼に強い光を感じてゆっくりと目を開ける。
真っ白な世界。
どこを見ても何もないかと思い、目を細めて良く見てみる。
頭上には歯科医院で扱うような大きい電気が俺の視界を遮っていた。
「眩し……ってか、俺は……」
――確か加流瀬さんの家にいて、それで写真を見ていて……。
突然、意識がなくなった? それとも気絶したのか?
けれど頭痛はしないし、眩暈もしない。
そもそもここはどこだ?
俺の知っている場所じゃ……。
そこまで考えて違和感に気づく。
体が動かせない。手足に力は入らず、動かそうとすると激痛が走る。彩史さんを寝かせるために階段を昇った時、味わった痛みと似ている。
「……は? 」
自分の体を見て息が詰まる。
点滴がされてあり、体中は包帯で覆われていた。
起き上がることは出来ず、首を左右に動かす事しか出来ない。
何故こんな事になってるのだろうと考えれば理由は一つしかない。
前から思っていた疑問。
「夢……か? 」
以前、彩史さんが言っていた事を思い出す。
この世界は夢なのだと。
俺は植物人間になっていると。
夢なのに今まで約1ヶ月、(現実では分からないが)一回も目が覚めたことはなかった。
それが何故今――。
「花優……? 」
自分の左側に顔を向け、いつも彼女がいる方に話しかける。
返事はない。
隣のある筈だったベッドもない。
ここには俺以外誰もいない。
彩史さんの言う、俺と花優の夢が覚めたのなら会えると思ったが違うようだ。
ため息を吐きながら、また頭上の異様に大きい電気を見つめる。
現実に戻ってきた……という事は本当に俺の自殺は未遂に終わったのだ。
馬鹿らしくて思いきり笑いたくなるくらい、自分が滑稽だ。
でも、それとは別に安堵している自分も心なしかいた。
それが何故かは分からなかったけど。
「おはよう……目覚めはどうだい? 」
足音と共に穏やかで落ち着いた声が近づいてくる。
やがて俺のベッドの横までしていた足音は消え、白衣を着た背の高い男性が現れる。
「よくはないですね……」
「そうか。まあ、長い間夢の中だったしね」
口元までしか見えないが、包容力のある優しい人のように思えた。
この人が俺を助けた……いや待て。
そんな事はどうでもよくて。
どうして俺が夢を見ていた事を知っている?
一体誰なんだこの人は……。
「何故、夢を見ていた事を貴方が? 」
背の高い男性は俺が質問をすると顎に手を添え、何かを考えると――
「夢の事を覚えているんだね。歩呂良くん? 」
俺の質問には答えず、その人は俺の答えを待つように、ニヤリと口角を上げる。
内心では話の通じなさそうな人だと思いながらも口にはせず、深いため息を吐き――
「覚えてます。何もかも……それで? あなたは何故俺が夢を見ていた事を知っているんですか? 」
「あぁ……失敬失敬。私はここで楽園を作っている者だ」
「……楽園? 」
そうだ、と背の高い男性は首から下げていた名札のような物を俺に差し出してきた。
『幸夢楽園製作者 来橋良治 』
それは聞いた事も、見たこともないヘンテコなものだった。
ただ、この人は悪い人ではない……と信じたい。




