万引き少女
気まずい空気に驚きを隠せず、固唾を呑む。
俺より10cmほど小さい背丈。
特徴的なワンピースは黒一色。
自分のサイズより2回りほど大きいのか、ブカブカすぎて袖口から手が出ていない。
フードを被れば全身真っ黒で、顔は全く見えなくなる。
……のだが、フードを被ってない今はダークブロンド色の短髪が特徴的で何とも明るそうな人柄だった。
この子が万引きを?
世の中何も信じられなくなりそうだ。
元からあまり信じていないのだけれど。
「あの、どうしました? 」
「やべ、忘れてた」
突然の出来事に動揺を隠しきれず、何故ここに来たのか忘れてた。
目の前の万引きをしたと思われる少女は、首を傾げると俺の背中の人物に目を向けた。
「もしかして私のせ……じゃなくて、怪我をしたんですか? 」
やはりあちらも覚えているようで、何かを言いかけようとしていたのが分かった。
これだけで、万引きした本人だと確信は得られた。
「この子、体が弱くて。さっき誰かとぶつかった時にいろいろあって熱が出たんだ。……休ませてもらってもいいか? 」
咄嗟に出てきた滅茶苦茶な嘘。
いろいろって何だよ。
ぶつかったらどうやって熱が出るんだよ……。
言った後に考えても取り消す事は出来ない。
俺自身、この子が万引き犯と思いたくないのだろうか。
少しでも罪悪感があれば入れてくれそう――と考えたのだが。
「……どうぞ」
願ったり叶ったりの答えが返ってきて素直に驚いた。
まだ、万引きをした事がバレてないと思ってるだけかもしれないが……。
その可能性も否定出来ないから俺達も知らないという事にしよう。
なるべく顔には出さないよう慎重に……。
「ありがとう! 助かる」
そうして家にあがらせてもらった。
「入って早々で悪いんだけど……。どこかで横にさせたいんだ」
「あー……。私の部屋でいいならベッド貸せるけど、ソファがいいならそっちでも」
「いや、ベッドでお願い出来るか? 」
「おっけい。付いてきて」
そういって階段を登っていく少女に後ろから付いていく……が。
階段の一段目を登った所で左脚に痛みが走った。
走り過ぎだろうか。
膝を曲げようとすると骨と筋肉が悲鳴をあげる。
「どうしたの? 」
「なんでもない。連れがずり落ちそうになったから 体勢を整えただけ」
「……そ」
愛想のない返事をするとそそくさと上がってしまった。
脚にはズキズキと痛みが走るが、彩史さんに比べたら全然平気だ。
今はとにもかくにも彩史さんを横にさせてあげるのが最優先。
歯を食いしばり、痛みを堪えながら階段を駆け上がる。
「痛ってぇー! 」
「わっ! ビックリした……」
二階に来た途端、やっぱり痛くて声にする。
横目に後ずさりする少女が見えたが気にしない気にしない。
「どこの部屋? 」
「こ、ここだけど……大丈夫なの? 」
「え? 何ともないけど」
「え。じゃあ、ただの突然叫び出した変人……」
「男だって辛いよ」
少女は頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべていた。
誤解は後で解くとして。
「入っても? 」
「ちょっと汚いけど、どうぞ」
扉を開けて中に入っていくのを追いかける。
「し、失礼します」
俺が入ったのと同時に電気が付く。
女の子の部屋に入るのなんて初めてじゃないだろうか。
普通だったらドキドキとかするんだろうが、状況が状況なので全く違う意味でドキドキしていた。
ちょっと汚いと言っていたが、ものすごく整理整頓された部屋で、机に勉強道具が出ているだけで特に散らかったりしていなかった。
「ここのベッドで横にしてあげて」
「う、うん」
手招きをされてベッドの傍まで来る。
ゆっくりと彩史さんを降ろすと、少女が彩史さんに毛布をかけてくれた。
「ありがとう……」
相当しんどかったのだろう。
小さな声で彩史さんが言った。
やっと横になれて安心したのか彩史さんの荒かった呼吸も今では静かな寝息に変わろうとしていた。
俺達も寝ている彩史さんを見ると安心して、顔を見合わせて笑った。
「さて……」
ふと、少女がため息混じりに言った。
そして、俺の目の前まで来ると――
「どうして君達がここにー? 」
さっきまでの可愛らしい笑顔が消え、気味の悪い笑みに変わってしまった。
やはりこの子は万引きをした張本人のようだ。




