恐怖
その絵は、俺の通っている学校の屋上に似た物で、柵を超えた所に一人の少年が、自殺を試みようとしている場面が描かれていた。
「これ……もしかして俺? 」
特徴的な髪、第二ボタンだけ外された制服、そしてあの日の俺と一致する状況。
髪なんかはいつも先生に早く切れ、なんて言われてたっけ。
それで俺がそんな校則ありませんよ、と言って無理やり話を終わらせていたような……。
でも、そんな事は一ヶ月以上前の事だ。
ここに来てからの時間の経ち方は、異常なほど早く感じられる。
俺自身がこの時間を好ましく思っているからなのだろうか。
「その絵は歩呂良くんかもしれないし、違う人かもしれません。だから、答えは君が見つけるんだよ」
考えを遮るようにもう一度、答えを探せと言われた。
どんな答えなのか、どんな答えを見つけたら正解ないのか。
それ以前に、その答えに明確な正解と不正解があるのだろうか。
「質問なんだけど」
「なんでしょう? 」
「答えを探すに当たって、俺に何の得がある? どうやって答えを探す? 正解の答えを見つけた所で彩史さんに何がある」
「質問攻めですね」
「誰のせいだろうね」
彩史さんはハァと短く息を吐くと
「そもそも、歩呂良くんは自分がどんな状況にあってるか知ってますか? 」
俺の理解力が無さすぎたのか、少し苛立ち始め右足を床に何回も小さく叩きつけている。
でも、何の説明もなしに今までの事を理解できる人なんていないだろう……と自分のせいではないと必死に脳に訴える。
「分かるわけないだろ。今でも全く理解できてないんだから」
「いや、ここの歩呂良くんじゃなくて。現実の歩呂良くんの事ですよ」
「は? 」
思わず口から勝手に言葉が零れる。
今のってどういう事だ?
まるで、俺がもう一人存在しているかのような……。
そこまで考えて、手足に妙な違和感があることに気づく。
「……」
痛みがない。上下左右に動かしても骨が悲鳴をあげることは無い。
骨が折れていないのだろうか?
包帯に手をかけ、時計回りに巻いていく。
――傷はなかった。
後遺症も見当たらない。
そんな中、
「そろそろ気づきましたか? 」
一人だけが頬に指を当てて微笑んでいた。
嬉しそうで、なんだか期待されてるみたいで嫌だった。
「現実の俺はどうなっている? 」
こんなにおかしい事が続けば嫌でも実感してしまう。
――ここは夢の中なんだと。
俺は眠っているはずなんだって。
どんな場所か分かった今、俺が1番知ってて、1番知らない質問をしたかった。
俺の真剣な様子が伝わったのか、彩史さんも表情を強ばらせる。
「はい、いいえで答えても? 」
俺はこくりと頷いて、
「俺は死んでいるのか」
疑問形ではない。
自分に、そして現実の歩呂良という人間に言い放った。
彩史さんの表情は変わらず、考え事をしているようだった。
沈黙は約1分ほどだろうか。
これほど間があるなら答えは明白だろう。
学校の屋上から飛び降りたんだ。
相当運が良くなければ、生きることは不可能に近いはず。
だけど……なんだかな。
ここの居心地は良くて、毎日が楽しくて、時間を忘れてしまって……。
生きていたいって頭の片隅では思っていたのかもしれない。
でも、それが叶わなかったら?
本当に死んでいたら……
答えを聞くのが怖くなった。
ここから逃げ出したくなった。
でも――
「いいえ」
答えは意外にもあっさり返ってきてしまった。
皆さん、2020年もお疲れ様でした!
小説の投稿が完全に不定期になってしまって申し訳ございません。
ですが、2021年の目標は週1〜2の期間で投稿したいと考えています(テストなどの関係)
なので、これからもこの小説をよろしくお願いします。




