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・・・  作者: 青斗輝竜
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別の始まり。

本に刻まれた名前は、この病院に来てから、俺が1番会話した人の名前だった。


何度、本を開閉しても名前の文字が変わる気配はない。


「本当に、花優が書いたのか? 」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。


そもそも、なぜ俺はこんなにも何かに怯えているのか。


彩史さんの態度が変わったから?


横目に見える花優の様子がおかしいから?


全く分からない。分からない事だらけだ。


「その本を書いたのは、厳密に言うと花優ちゃんじゃありません。ですが、本当の作者までは今、教えることはできません」


彩史さんにそう言われて、ホッと安堵のため息をつく。


彼女はいつもの喋り方、いつもの声のトーンに戻っていた。


「なら、これはどういうことなの? 」


本を頭上に上げて、彩史さんに見せつけるように左右に振ってみる。


すると、彩史さんはいつもの笑顔に戻ってくれた。


やっぱり、彩史さんはいつもの彩史さんのままでいて欲しい。


それの方が、見慣れているし、話やすい。


本当に心からそう思える人物だなと思った。




「――答えは君が見つけるんだよ? 」


「え? 」


それはほんの一瞬の出来事で……


後ろから不意打ちをくらったような感覚が襲ってきた。


言葉がナイフとして飛んできたような錯覚。


そして、確かに腕の中にあった本が上昇気流のような風に乗って天井近くまで上がっていき、すぐに手のひらに落ちる錯覚。


俺は唖然とし、そんな錯覚を目の前に、半開きになった口さえも閉じれなくなっていた。


けれど、瞬時に今起きた二つの錯覚が、この本の何かを変えたと確信出来るような出来事だった。


俺は、錯覚にとらわれた直後、ゆっくりと呼吸を整えて、彩史さんと本を交互に見た。


彩史さんの思惑通りだったのか、彼女は俺に、本を開け、と促してくる。


それに答え、一ページ、一ページ、丁寧に開いていく。


でも、一ページ目にあった作者の名前は変わらない。


……問題は次のページにあった。




「文字が、浮かび上がってる……? 」


中身をはっきり見た訳ではなかったので、確信はなかったが、そこには確かに、文章が綴られてた。


でも、それはやはり、弱々しい文字だ。


最初の見開きページの冒頭はなんだか既視感を覚える物語の始まり方だった。


物語自体は、少し読んだだけで分かるほど、暗い内容。


一人の少年がいた。けれど、少年はある理由で自殺を図り、学校の屋上から飛び降りてしまったが、運良く生き延び病院で目覚める、といった始まり方。


この物語の始まり方に別に文句を付けようとは思わない。


正直、物語を書くだけで凄いと思う。



……でも。


次のページに書かれている絵は、俺の学校の制服によく似ていた。

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