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・・・  作者: 青斗輝竜
28/51

残り4日。

5月30日 土曜日。




……四十九日まで後4日。





ーーーーーーーーー




ーーーーーー




ーーー


時計の針は午前10時過ぎを指しており、俺が起きてから約2時間がたった。


だと言うのに……


「あはははっ」


今、この病室はとても賑やか……というかとてもうるさい。


まだ午前中だというのに彩史さんがいるからだ。


「お前……ずっと暇だったんだな」


彩史さんには聞こえてないみたいだったが絶対に暇だったとしかいいようがない。


俺たちが彩史さんの『本当の姿』を知った次の日からこれだ、俺たちに気を使ってくれてたのかもしれないけど……


「彩史さんって本とか読んだりするんですか? 」


「う〜ん……皆があんまり読まないようなのはいっぱい読んでたなぁ」


そんな二人の会話が聞こえる。二人ともずっと笑っていて四十九日のことなんて忘れてるみたいだった。


そもそも彩史さんは四十九日のことを知っているんだろうか?


でも幽霊なら俺たちの話を聞いててもおかしくない……そう思い、彩史さんに四十九日のことを教えるのはやめることにした。


「どんな本なんですか? 気になります! 」


花優が目をキラキラさせながらあまり起こせない体を前かがみにする勢いで(前かがみはできてないけど……)彩史さんに質問していた。


「えっとですね〜……それはね〜」


何故か恥ずかしそうに頬を赤らめながら彩史さんが言うのを躊躇っていた。


まさか…………!


そう思った俺はすぐに彩史さんにだけ見えるように手招きをしてこちらに呼ぶ。


彩史さんは俺の手招きに気づくと花優にちょっとすいません……と言って俺の方に来てくれた。


俺は近くに来た彩史さんにちょっとしゃが……小さくなってくれと言って、花優に聞こえないようにして……


「お前が読んでる本って……あれか? あの〜、保険の教科書に出てくると男が喜ぶやつをもっとリアルに書いてよくコンビニのトイレの前の本棚に並んでるあれか? 」


「えっ!? ち、違いますよ! あ、コンビニには並んでるか……でも違う本ですよ! 」


俺の説明で伝わったらしく、両手をブンブン振って否定していたのを見るとなんだか簡単に信じることができた。


「二人でコショコショ話なんてダメですよ! 私も混ぜてくださいよ〜」


「これは花優のためにやってることなんだから混ざっちゃダメなんだ! 」


「え〜……私も聞きたかった……」


む〜と頬を膨らませた花優を見て、彩史さんが、お話の続きをしましょうかと言って花優の側まで行ってまた話を始める。


「歩呂良くんも何か話しましょうよ〜」


花優にそういわれて、なぜか嬉しくなり俺も会話に入ることになった。


……それから2時間ほど話しているうちにお昼の時間になった。

軽く看護師さんとも話をしたがやっぱり看護師さんには彩史さんのことが見えてなかったみたいだった。


午後1時頃。


お昼も食べ終えて皆でテレビを見たり手を使ったゲームなんかをして時間を潰していた時……


「こんちわ〜」


突然、ドアの方から声が聞こえてきて、そこにいたのは悲羅義だった。


「今日も来たのかよ……」


「あったりめぇだ! 彩……史さん……が……いるんだ……から……」


いきなり悲羅義が持っていたバックを落としてある方向に指を指した。


……その方向は俺でも花優でもなければ、悲羅義には見えるはずもない彩史さんの方向に向いていて…………


「……え? 」


そこにいる全員が同じことを思い、皆の視線は彩史さんの方にいった。


「悲羅義……お前、彩史さんのこと見えてるのか? 」


悲羅義は驚きすぎて開いた口が塞がらなかったのか口を半開きにしたまま、ものすごいスピードで頷いていた。


「俺……見えてる……。彩史さんのこと見えてる……」


だんだん悲羅義の手が震えてきて……泣きそうな、嬉しそうな、そんな中途半端な表情になっていた。


「まさか、いなくなってからも彩史さんのことが見えるなんて……」


彩史さんがいなくなってから今日までのことを思い出してしまったのか、今にも泣き出しそうな声で呟いていた。


彩史さんは……ビックリして戸惑っていてあたふたしていた。


そんな二人の曖昧な関係が面白くてつい……


「あははっ」


笑いを堪えきれずに思いきり笑ってしまった。

それにつられてしまったのか隣の花優もクスクスと笑っていて悲羅義と彩史さんは困惑していて何が何だかよく分かってない顔をしていた。


「悲羅義くん……この場所を『楽しい』と思ってくれてありがとうございます。そのおかげでこうして彩史さんを見ることが出来ているんですよ」


花優が、悲羅義にそういうと悲羅義は少し照れながら浅いお辞儀を何回もしていた。




それから俺たちは4人でくだらない話をして盛り上がったり軽いゲームをして遊んでいた。

彩史さんと悲羅義は昨日のことなんてすっかり忘れて……まるで二人の空間だけのように二人で笑いながら話していることが多かった。


……そんな様子を見た俺と花優もなんだか嬉しくなって……


ずっと笑っていた


ずっと、ずっと。


こんな日が毎日続けばいいのに。


そう思ったくらいに。






それでも時間が経つのだけはものすごく早くて……

もう街は暗くなっていく時間になっていた。


「明日も……来るから」


悲羅義が突然そう言って、皆が帰る雰囲気が更に濃くなっていき、


「今日はもう、戻りますかね……」


悲羅義に続き、彩史さんがそういって今日は解散することになった。


「それじゃあ……」


彩史さんが先に立ち上がり、お先にと言って帰っていった……。


帰る後ろ姿を3人で見送った後に悲羅義も


「それじゃあ、俺も帰りますかね」


持ってきたバックを持って帰る準備をした時に……


「あ……」


花優が何かを言いかけたが悲羅義には聞こえなかったようで、俺たちに手を振って帰っていった……。


いつもは静かな病室だが、今の病室はいつもより静かでなんだかとても寂しかった……


「もう、一日というものが終わるんですね……」


「そうだな……」


顔を見ないで二人で呟きあってから、5月30日の残りの時間をゆっくりに感じながら過ごした。


明日はもっと楽しい一日なる。


楽しい一日にさせる。


……今日、この病室にいた4人が全く同じことを思った。


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