誰かが死んだと分かった時……人はそれを理解するのに多くの時間を必要としている。
「おい歩呂良ー、一緒に帰ろーぜー」6時間目が終わってから学活の時間になり皆が騒ぎ始めた頃。俺に話しかけてくるやつがいた。
「いいぜー」俺はそう返して帰りの準備をする。
名前は…田中。
帰りの準備をしてから先生の号令がかかり学活が始まった。
……日直でなければ何も聞かずに終わるのを持って後は家に帰るだけ。
何事もなく今日の学校も終わる……だけどそんな日常にも何か変化がないかなーなんて考える時もある。
日常なんて変わった所で違和感があるだけでしかないのに。
そんなことを考えているとそろそろ学活が終わりそうだった。
「起立」という日直の号令がかかって一斉に立って皆で「さようなら」といって今日の学校に幕を閉じた。
それから俺はゆっくりと立ち上がり田中と家が近くの奴らと遊びながら帰る。
……中学に上がり知らない奴らと友達と言うものになり毎日が楽しいなと感じるようになった一学期の始め。
勉強も簡単だし受験まで2年もあるし遊んでても許される……そんな時期。
俺は楽しいと思え始めてきたこの生活を変えたくはなかった。
「今日は何して帰るー?」田中がそういうと「石蹴って帰ろーぜー」そんな子供っぽい遊びかよ……と考えてるけど、まだ実際子供だから「いいね」「やろやろー」とつい皆で言って石を蹴って帰ったり別の日にはランドセルジャンケンではなくカバンジャンケンをしながら帰ったり……。
俺たちは皆で自分が蹴る石を決めて石を蹴りながら雑談をし帰った。
俺の家は中学から約30分離れた場所にある。話しながら帰ればすぐに着くようなもので……俺たちは「じゃあなー」「また明日」と手を振りながら別れる。今日も帰り道があっという間に終わっていて目の前には自分の家があった。
俺はカバンの中から鍵を取り出してドアを開け、「ただいまー……誰もいないけど。」誰もいないのに誰かがいたらいいなと一応ただいまと言ってみるが返事はない。
俺の両親は共働きで夜11時頃に帰ってくる。
だから俺は帰ったら平日以外はだいたい一人。
けど小さい頃からだから慣れてる……
帰ったら宿題をして作り置きされてるご飯を食べて風呂に入ってテレビを見たりゲームをしたり友達とメールをしたりして後は寝るだけ。
今日は友達と通話をしながらテレビゲームをした。
俺の家の周りにはあまり家がないから大きな声や少しくらい騒いでも大丈夫だから皆で騒ぎながらゲームをしてた。
…けど、すぐにもう寝る時間が迫っていた。
「そろそろ寝る時間だから今日はこんくらいにしとくわー」俺は通話を切りゲームの電源を切って歯を磨いて寝る前にトイレに行き布団に入った。
……今の時刻は11時30分ほど。
親には「11時前には必ず寝なさい」そう言われてたから俺は自分の部屋に行き眠りにつく。
中学に上がってからはかなり早く寝付くことができたので俺はすぐに寝た…………。
ーーーーーーーポーン
ーーーーーピンポーン
「すいませーん!!!」
そんな声が聞こえて俺は急いで起きる。
「こんな時間になんだよ……」俺は寝ぼけながらも近くに置いてあるスマホを見ると夜中の12時。さっきからチャイムの音もするし外がものすごく騒がしい。
……まるで……誰かが死んでしまったかのように。
俺はとりあえず起きて玄関を開ける。
すると……「警察ですが……夢似さんのお宅でよろしいでしょうか?」目の前にはパトカーやたくさんの警官。
俺はこの状況に理解できず困惑しながらも「そうですけど…」と答えた。
警官は俺が夢似ということが分かると2人の警官が確認しあい暗い顔になって……「大変申し上げ憎いのですが。」警官はそう言ってから少しの間黙って………「夢似さんご夫妻が……君の両親が、交通事故で亡くなられました。」……確かに警官はそう言った……俺にそう言ったのだ。
俺はその一言が……その言葉が全く理解できなかった。けど、時間は12時……本来であれば両親は帰ってきている。それに遅くなるなら電話をしてくる……けど、さっきスマホを見た時には両親から連絡はなかった……メールも届いてなかった。
それだけ…それだけで親が死んだとは限らない。
「何かの間違いでしょう親は多分……どこかの店にでも寄ってるんですよ。」
俺はそんなことしか言えなかった。
他に言うことなんてなかった。
何も考えるべきではないと思った。
けど、警官は……「この車に見覚えはありませんか?」一枚の写真を見せてきた。
それは確かに俺の両親が乗っているのもので……タイヤはパンク…ガラスは全て割れ、車はでこぼこになり破片が飛び散っていて……ナンバーも一緒だった。更に血らしきものが道路に飛び散っていて……。
……俺はそれを見た瞬間やっと分かった。
両親が…俺をこの世に産まれさせてくれた人が…
俺をここまで育ててくれた人が…
死んだんだと……
俺は一人置いていかれたのだと。
もう耳には何も入ってこなかった。
何を言っているのかも分からない。
俺はその場に膝から崩れ落ちた。
涙は出るし、警官は何を言ってるか分からない。なのにとてもうるさくて……頭がどうにかなりそうで……俺は玄関に入り鍵を閉め自分の部屋に戻ってうずくまった。
俺はなんでこんなに泣いてるんだろう……
そんな事の答えなんてすぐに出る。
1番大事な人が……1番大好きな人が突然目の前から消えたんだ。
そんな時にどうすればいい?
何をしたらいい?
「ああああァァァァァ!!!」気づいたら大声で叫んで泣いた。
「ーーーっ!」
俺は飛び起きて周りを確認する。
そこはただのベットで…「夢……か」自分の過去に起きたことが夢になって現れたらしい。
「ふぅー……」長い深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。時刻は朝の6時。
いつもよりかなり早く起きてしまったが二度寝なんてできるはずもなく俺はテレビを付けた。
朝なんてニュースしかやってなかったけどボーッとしながら見て夢のことなんて忘れようと思った。
でも、あれは夢でも夢じゃなくて……実際に俺が体験した過去のことを思い出しただけで……忘れることなんてできずに
「母さん……父さん……今も元気かな…?……天国から俺のこと……見てるかな?……こんな人間になっちまってごめんな。」
俺は天井を見ながら1人でそう呟いた。




