後編
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
早速、今年早々に読んで頂き、ありがとうございます。
昨日に引き続き、本日も『お正月特別編』の後編を投稿致します。前編はいかがでしたでしょうか?
短編として書いていますので、いつもよりは長めの作品を心掛けました。
(まさか2部に分かれるとは…。)
本編を読んでいなくても、分かるようなお話にはなっていますが、本編後に読んで頂くと、より分かりやすいかと思います。
宜しければ、本編の方もよろしくお願いします。
これは、双子姉弟が、日本の自宅の庭で遊んでいた時のお話。
四条家でのお正月も、無事終えた次の日、北城家の自宅の庭で、双子の2人は、朝早くから大燥ぎしていた。生まれてから初めての、日本でのお正月。
折角だからと、両親は庭で餅つきを始めたのだ。
海外では、専ら餅つき機の機械で、両親がお餅を作っていた。だから、これは2人にとっては、初めての経験だったのだ。
杵と臼を初めて見たのもあって、物珍しさからお手伝いを買って出た。
日本に来てから、初めての経験ばかりで、双子はとても浮かれていた。毎日を、とても楽しく過ごしていた。
常と違って、男の子だからとか女の子だからとか、全く言われることもない事に。
暫くして、お隣の窓から覗いている女の子に、漸く2人は気が付いた。
お隣同士になる前から、親同士は知り合いだったようで、手紙のやり取りもしていたそうだが、当然子供同士は会ったことがない。
早速、母が正月の挨拶がてらに、隣の子供達に声を掛けに行く。序でに、つきたてのお餅をお土産に。その頃には、窓から女の子の姿は消えていた。
目が合って、恥ずかしかった様子である。暫くして、あの女の子だけではなく、その子の兄という男の子も、一緒にやって来た。
見た目では、女の子は自分達より小柄な少女である。母は、子供達を置いて、その場から去って行く。
女の子は自分達より1歳年下で、男の子は自分達の2歳年上だった。
女の子とは反対に、男の子は、年齢よりもしっかりした感じの少年だった。
どうやら、少女は恥ずかしがり屋のようで、双子の母がいなくなると、兄の後ろに隠れてしまう。それでも、双子が気になるようで、チラチラと覗き見ている。
兄の方は、にっこり笑って挨拶して来る。兄も妹も、日本人離れした外見である。
超が付くほどの美形兄妹だ。
双子はすぐに、この兄妹はハーフかな、と気が付いていた。兄弟の余りにもの外見の美しさに、内心酷く驚いていた。
欧米で暮らしている自分達でも、こんなに綺麗な顔の子供は、中々見たことがなかったのだ。
「初めまして、こんにちは。僕は『九条 朔斗』と言います。仲良くしてくれると嬉しいな。」
「…わたくしは、…みかこ、です。…あの……よろしくおねがいします…。」
「私は『北城 夕月』と申します。こちらこそ、仲良くして下さいませ。」
「僕は『北城 葉月』です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
兄の後ろでもじもじしていたが、「自分であいさつしないと、だめだよ。」と兄に忠告されて、恥ずかしそうに挨拶する。
こうして、4人は仲良くなった。但し、大抵は夕月と未香子、朔斗と葉月で遊ぶことが多いけれど。時々は、4人で遊ぶこともあるけれど。
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それから毎年のように、お隣同士、クリスマスやお正月を一緒に過ごすことが、北城家と九条家の慣例になっている。
特に子供達は。今年も、4人でクリスマス会を行い、そしてお正月も。
「明けましておめでとうございます。夕月、今年もよろしくお願いします。…葉月もよろしくね。」
「明けましておめでとう。夕月、葉月、今年もよろしく。」
「明けましておめでとうございます。朔斗さん、未香子、今年もよろしくお願いします。」
「明けましておめでとうございます。朔兄、未香子、今年もよろしく。」
今日は元旦なので、初詣に行くことになっている。未香子が、もじもじと恥ずかしそうに、新年の挨拶をすれば、朔斗も同じく双子に挨拶をする。
今日は、2人共揃って、お正月らしい晴れ着を着用していた。
対して、双子の方も新年の挨拶を、姉、弟の順で礼儀正しく行う。四条家お祖母様直伝の賜物と言ったところか。いや、この双子は元々礼儀正しく育てられている。
礼儀の面では、九条兄妹よりも遥かに優れている。
そして、北城姉弟の方も今日は晴れ着である。姉は勿論、女性用の晴れ着だ。
今日は、母やお祖母様の目が、しっかりと行き届いているのだからね。
流石に、こんな日に男性用の晴れ着は、絶対に無理であろう。
今日は、これから4人揃って、この辺りでは一番大きな神社に出掛けるのだ。
九条家の運転手が、車を出してくれることになっている。
朔斗が助手席、後ろの席に葉月と女子2人が座る。夕月を真ん中にして。未香子が、楽し気に話し始める。3人は相槌を打ったりして、聞き役になっていた。
神社に到着すると、4人はまず初詣をしに行く。車から降りた途端、周りの人々が注目する。神社でお参りをしていても、近くに居る人達の目は釘付けだった。
それはそうだろう。4人共、気が付かないようだが、九条兄妹は兎も角、北城姉弟も十分、目を引く存在であるのだから。
初詣を終え、一通りお参りを済ませてから、未香子が、おみくじを引きたいと言い出したので、そうしようという話になった。
ところが、各々おみくじを引いてみると…。皆、おみくじの内容を見て、一喜一憂状態である。何が書かれているのかな?
「わぁっ!私の運勢、最悪!」
「どれどれ…。本当だね。『凶』とは…。僕のと交換しようか?」
兄は、神社で引いた未香子のおみくじを、覗き込む。そのおみくじを見た途端、妹に激甘な朔斗が、自分のおみくじを差し出した。
しかし、「お兄様の運気を悪くするのは、嫌ですわ。」と言って、妹は首を振る。
兄はそれでも、「妹の運気の方が大切だよ。」と譲らない発言である。
「未香子、よく見てご覧なさいな。全体の運勢が『凶』という事で、何も全てがそうではないのです。」
「そうだよ。僕も夕月も『中吉』だけど、悪い事も書かれているよ。」
北城姉弟は、未香子のおみくじを覗き込み、励ますように優しく諭す。姉はいつもの男口調ではなく、お淑やかな口調で。弟は、若干ぶっきら棒な言い方だけど。
照れ臭くて、態とこういう言い方しか、出来ないのだろう。
「ホントだわ!恋愛運は最高だもの!」
「そうだね。そういう意味では、僕の方が良くないかもね。」
かなり落ち込んでいた妹も、恋愛運さえ良ければいいと、言いたげな口調である。
恋愛運の欄だけ、最高の運気と記載されていたのだ。もう満面の笑顔である。
兄が交換しようとしていたことさえ、忘れてしまったかのように。
その妹の姿を、暫し傍観していた兄も、漸く交換は諦めたようだった。
兄のおみくじは、全体運は『吉』だけど、妹が望んでいる恋愛面は、中々報われない、と記載されていたのだから…。
「う~む。今年も進展は望めないな。」と、諦め顔のようであった。
「まあ、お兄様。…恋愛面だけ、辛辣な事が書かれてますわね。」
「…そうだね。おみくじを気にしている訳じゃないけど。不甲斐ないよね?」
「「「……。」」」
復活を遂げた未香子が、兄のおみくじを覗き見て、素直な感想を言う。
恋愛面の辛辣さに、少々悲し気になった兄の言葉に、この場の全員が黙り込む。
3人共、この言葉に思い当たる事実を、何となしにでも知っているので…。
常にフォローに回る夕月も、流石に何も言い返さないし、言葉も掛けないでいる。
そして双子の葉月も、以下同文という雰囲気である。
葉月の場合、下手なことは言えないのだ。本気で、敵に回したくないので。
そして、妹の未香子も、何も言い返せない。自分が、兄の足を引っ張っている自覚が、あるからこそ…。ごめんなさいね、お兄様。私のせいね。
私がいなければ、お兄様に色々と面倒をお掛けすることは、なかったのに…。
妹は、心の中で必死に謝っていた。
思わずシュンと悄気る妹を見て、苦笑いしながらも、妹の頭を優しく撫でる兄。
妹を宥める様に、と。妹の考えていることぐらい、お見通しだと言いたげに。
北城姉弟は、何も言わずに沈黙を貫く。
「僕こそ、ごめんね。何も、未香子が責任を感じることはないんだよ。」
「…お兄様。でも……。」
今にも泣きそうな妹を見て、兄も顔を顰める。
確かに理不尽だという想いは、確かに持っているのだけど、何も妹や他の人に対して、思っている訳ではないのだ。
一番に責めたいのは、他ならぬ自分なのであるのだから。
「未香子。君が、そんな悲しい顔をする必要はないんだよ。これは、僕自身の問題なんだ。」
「そうだね。朔斗さんは心の強い人だから、自分で解決するよ、必ず。」
「うん、そうだね。朔兄なら自分で乗り越える人だから。大丈夫だよ。」
兄の言葉に、今度は双子も同意してくる。
別に、無責任な言葉を言っているのではなく、相手を理解しているからこその言葉なのだ。信頼関係がないと、言えない言葉でもある。
朔斗は、このメンバーの中で、一番年上でもある。
その為と言う頃ではないのだが、誰よりも責任感が人一倍強い。自分自身を、何時も制している。そう、年下の北城姉弟、特に夕月よりも。
来年は、僕は大学生になる。一足先に、大人になる。
自分の気持ちを、もっと完璧に制御出来るようにならなければ、いけないな。
妹や彼らを意味もなく、心配させるとは…。
そう考えている朔斗だが、夕月も葉月も、既に気が付いていた。
彼が、自分だけを責めていることに。だから、彼の悲し気な表情の理由を、逸早く見抜いたのだ。
勘の良い双子姉弟は、元々、人の心の機微に敏い。
物心ついた時から、無意識に自分の立場を、心得ていたのだ。
その中で、双子は自分の役割に受け入れ、また時には抗ってもいた。
双子が、初めて帰国した時は、九条兄妹とは初対面だった。
日本では、初めて出来た友達でもあるのだ。
双子にとって、未香子は妹で、朔斗は兄のような、絶対的な存在なのである。
今までと違い、上辺だけの友達ではなく、友人と呼べるようなものになった。
彼らとは、心から笑い合ったり、本音も言える関係になれた。
そして、兄のような存在の朔斗に、絶大の信頼を寄せている。
双子にとって、九条兄妹は、ずっと仲良しでいたい友人である。
だから、朔斗が妹と離れると決意した時に、葉月も姉と離れることを決意した。
未香子には夕月が、朔斗には葉月が、側に居ることを、其々選んだ。
双子姉弟は、この兄妹の力に、各々がなろうと、協力することを選択した。
例え、その結果が、2人が離れることになろうとも。
どちらにしても、未香子の近くに居るのは、夕月だけの方がいいと…。
時間が経つにつれて、未香子の心の傷が塞がり始めて。
漸く、また4人で居ても、未香子から拒否されなくなっている。
あと、もう少しだけでいいから、このままの状態で居たいと心から願う、4人は。
この時はまだ、これからも4人一緒だと思っていた。まだまだ、この関係は崩れないと…。変わりたいと思いながら、変わる決心がつかないのだから。
だから、この関係が変わっていくとしたら、もう少し先のお話になるだろう。
『お正月特別編』はこれにて終了です。全編と合わせて、いかがでしたでしょうか?
面白く読んで頂けたのなら、幸いに存じます。
後編の内容は、引き続き初帰国後のお話が、前半となり、現在と言っても去年の出来事のお話が、後半となっています。
今回は、北城家と九条家の子供達のみのお話です。4人の様子を思い浮かべながら、書いた作品です。
『クリスマス特別編』と同様に、『お正月特別編』を制作出来て、感無量です。
子供の頃の話は、本編では出さない予定でしたので。後半の初詣は、今年版のような形で、本編でも似たようなお話がでるかもしれません。
まだまだ未定ですが。
では、次回は本編でお会いしましょう。読んで頂き、本当にありがとうございます。
※お話の進行は、第三者(筆者)視点で統一しています。