前編
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
早速、今年早々に読んで頂き、ありがとうございます。
前々から告知していました通り、『お正月特別編』を投稿致します。長くなりましたので、前後編に分けました。
本日は前編を、明日に後編を、更新することにしました。明日もよろしくお願いします。
これは、双子姉弟が、日本に来たばかりの頃のお話。
北城家は、父の仕事の都合で、欧米に住んでいた頃がある。双子である『夕月』と『葉月』は、ここで生まれた。
父の仕事が忙しく、また母も慣れない環境と育児で、天手古舞いであった。
だから双子は、生まれてから一度も、日本に行ったことがなかったのだ。
夏休みは、日本に住んでいる父方の祖父母が、毎年会いに来てくれる。また、自分達家族だけで、バカンスに行ったりしていた。
クリスマスは、日本に居る両方の祖父母から、クリスマスプレゼントが毎年送られてくる。知り合いのパーティに出席する以外は、主に家族だけで過ごす。
冬休みやお正月は、父の仕事のパーティにお呼ばれして、わいわいと賑やかで忙しい日々を過ごすことが多いのだ。
生まれた時から住んでいるので、欧米人の友達もいた。いや、例え居なかったとしても、双子にとっては、2人でさえ居れば、何も問題がなかったのだが…。
ある頃から、日々母の目を盗んでは、双子で入れ替わりをしており、皆を欺いては、其れなりに楽しんでいた。お互いに成り切る為に、よりそれらしく振舞う為に、双子の演技力はどんどん増していく。
双子が4歳の頃、「日本に一時帰国する。」と、両親から話があった。北城家が欧米に渡ってから、初めてのことである。
「今年のお正月は、日本で過ごすよ。」と両親から説明されても、双子は何も思わなかった。2人にとっては、自分達の生まれた国ですらない。
自分達一家が日本人であることは、理解していたのだが。ただ、それだけのことであった。双子にとって、2人で共に居られれば、どこでもよかった。
両親がいない世界に行きたい、と思った事はあったぐらいで…。
ただ日本に着いた後は、双子にとって、見慣れた風景とはあまりにも違う色々な事に、興味が湧いていた。
風景も、人間も、建物も、食べ物も、全く違っているように見えた。
双子は久しぶりに、入れ替わる事以外で、心から楽しんだのだ。
日本に帰国してから、次の日には、父方の祖父母の家に、初めて遊びに行った。
毎年、祖父母には会っていたが、他の親戚には会ったことがなかったから、大歓迎されることになった。父方の祖父母の家は、昔ながらの日本住宅で、木造建築の古い造りの住宅に、双子は興味深々である。
「おっ!お前達が、噂の双子の姉弟だな?初めまして、だな。俺は、お前達とは『はとこ』の関係だ。宜しくな。」
突然、双子に話しかけて来た男性。2人にとっては、『はとこ』に当たる親戚の男性だった。すらっと背が高く、割と整った容姿をしている。
双子は、日本語は問題なく喋れるが、流石にまだ難しい日本語の言葉は、あまり詳しくなかった。だから、この男性の話す『はとこ』の意味が分からなかった。
不思議そうに男性を見上げる双子に、男性は「ああっ!」と何かに気付いたように声をあげる。
「そうか、まだ『はとこ』は難しいよな?『はとこ』というのは、お前達のお祖父ちゃん、つまり惣元じいさんの姉が、俺のお祖母ちゃんなんだよ。」
「『いとこ』とは、どう違うのですか?」
「おっ、『いとこ』か。お前達の父親と、俺の父親が『いとこ』だよ。だから、俺達はその『いとこ同士』の子供って訳だ。」
双子の1人、姉が質問して来た内容に、男性は『いとこ』は知っていたのかあ、と感心する。しかも、自分の説明に、もう理解したような素振りだ。かなり頭が切れると聞いていたが、これは予想以上だな。
この双子、見事にシンクロしてやがるな。もしかして、役割分担でもしてるのか?いや、幾ら何でもこんな幼い子供が…。考え過ぎだな。
男性がそう感じても、仕方がないだろう。正しく、その通りなのだから。
双子は、自分達も混乱しないように、役割分担を各々担っている。但し、2人で話し合って、決めたことではないのだが…。
どんな時でも2人は、お互いの気持ちが分かり合えている。こんな簡単なことぐらいでは、話し合ったりする必要がないのである。
「俺は『本田 愛彦』。今は大学生で、20歳だ。お前達の名前は?」
「私は、姉の『北城 夕月』と申します。2月に4歳となりました。よろしくお願い致します。」
「僕は、弟の『北城 葉月』と申します。同じく4歳になりました。よろしくお願いします。」
2人は物凄く丁寧な挨拶をし、とても綺麗なお辞儀をした。
それに対し、男性は「よろしく。」と、苦笑いしながら挨拶を返す。
「この年齢で、この態度はヤバいな。しっかりし過ぎだろうが。」と、思いながら。
今の2人の服装は、それぞれ男女らしいもので、一目でどちらが姉で、どちらが弟だと分かる服装である。今も、母の目が光っているのもあり、日本に来てからは、一度も入れ替わっていなかった。
それよりも2人は、この『はとこ』である男性を、興味深く観察していた。
自分達のことを、受け入れられるかどうかを、見定める為に。要するに、自分達の味方かどうかを、探っているのだ。
「何とお呼びすれば、良いでしょうか?」
「好きなように呼んでいいよ。あ、そういえば、お前達の両親からは、『ヨシ』と呼ばれてるな。」
「では、『ヨシ兄様』と呼ばせて頂きますね。」
「僕は、『ヨシ兄さん』と呼ばせて下さい。」
「ああ。お前達は『ゆづ』と『はづき』と呼ばれているらしいから、それでいいか?」
「「はい。ヨシ兄様 (さん)。」」
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お正月の日、今度は『四条家』の分家のお祖母様に、家族揃って挨拶に行く。
四条家も親戚が集まっていたが、少数であり、また静まり返っていた。
四条家の家は、北城家とは全く違っていた。外観も家の中も、全てが洋風で部屋も広々していた。北城家との余りの違いに、双子は興味深げに眺めている。
玄関に入ると、お手伝いさんが出迎えてくれて、1番始めに、主のいる座敷に通された。そこでは、この家の主である『四条 ゆきゑ』が待っていた。
そして、再会して早々に、嫌みのような挨拶を受けることになる。
「お久しぶりですね。何年ぶりかしらね?」
「お久しぶりです、お母様。日本に帰って来るのは、5年ぶりになります。」
「あら、もう5年?長いようで、短かったものね。そう、5年も会っていないのね。道理で孫が大きくなる訳ね。」
「…長い間、留守にしていまして、申し訳ありません。私がどうしても仕事の都合で帰れないので、見百合1人で、子供達を日本に連れて行くのは、無理だと判断したのです。」
「ですから、お母様に私達の所に来て頂けたらと、何度もご連絡致しましたでしょ?いつ来て下さるかと、待っておりましたのに…。」
「あら、そうだったかしら?でもね、見百合さん。私が外国になど、不慣れな場所に来いと仰るの?」
「「………。」」
双子の両親は、どんな時も毅然としていたが、ゆきゑの前ではあたふたしている。
普通こんな時なら、「お父さんとお母さんを虐めないで!」と幼いながらに訴えるのだろうが、この双子は違っていた。
2人共、お祖母様であるゆきゑの態度に、「あのお母様が、何も言い返せないなんて。」と、感心しているのだ。
流石、噂のお祖母様だなあ、とジーッと、3人の遣り取りを見つめていた。
「あら、貴方達が、双子の『夕月』と『葉月』ね。こちらにいらっしゃい。」
双子の意味ありげな視線に、気が付いたのか、お祖母様が2人を呼ぶ。
2人は呼ばれた通り、「「はい。」」と従って側に行く。
今度はお祖母様が、意味ありげに双子を見つめる。見比べるようにして。
お陰で3人は、黙ったままじっと、互いを見つめ合うことになる。
傍で見ている両親、親戚連中は、この状況に心の中でハラハラしていた。
お祖母様は、この双子に、何を言い出す気なのかと…。
双子の両親『悠一郎』と『見百合』は、双子の性格をよく知っている。
お祖母様に意味もなく逆らったり、下品な事をしたり、何かとんでもない事を言い出したり、という子供ならではの無邪気さがない、と理解している。
だから、余計心配でもあった。逆に気に入られないかと…。
「決めましたわ。貴方達、これから私が色々と稽古をつけましょう。週に2~3回は、こちらに通いなさい。よろしいですね?」
「「…はい、お祖母様。分かりました(わ)。」」
両親の嫌な予感は、命中した。ゆきゑは、これ以上ない程の満面の笑顔をして、双子達に話し掛ける。ほぼ命令である。
双子達は落ち着いた様子で、受け答えしていた。双子に初めて会った親戚には、どう捉えていいのか、全く理解できずにいる。
2人が、お祖母様を怖い人と思って、逆らえなかったのではないかと、心配していたのである。お祖母様に気に入られて、可哀そうにと同情してもいた。
反対に、両親はがっくりである。見百合は、元々お祖母様にこれ以上関わられたくないと、色々厳しく躾をしたのに、逆に気に入られてしまった。
このままでは、「四条家の跡取りとして、夕月を。」と言い出し兼ねない。
そう思った見百合は、「今は一時帰国ですから…。」と、何とか断りを入れようとするのだが…。
「あら、それなら、貴方達夫婦が帰国時まで、うちで預かりましょうかね?」と、簡単に言い包まれてしまう。幾つになっても、母に勝てない見百合である。
ふと、双子の方を見る。そして溜息を吐いた。両親は降参するしかなかった。
その後は、お祖母様が所用で退席して行った。同じく挨拶に来ていた親戚達と、穏やかな会話が繰り広げられている。その間は、子供達も自由な時間となる。
そして双子姉弟は、部屋の片隅で密談中なのである。
「ねぇ、葉月。お祖母様は、何を教えて下さるのかしら?」
「そうだね。何だろうね?」
「「面白そう(ですわ)。」」
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「あなた達、とても仲が良いのね。」
2人の密談が終わった頃、誰かが話し掛けて来た。
2人揃って振り返ると、そこには自分達よりは、年上と思われる少女が立っていた。
少女は、2人のすぐ前に座ると、「どうぞ。」と言って、持っていたお菓子の籠を差し出した。
外見的には、双子に似た感じの顔をした少女だ。少し活発そうな雰囲気がある。
「わたくしは、『並川 志鶴』です。小学3年生ですの。よろしくね?」
「私は『夕月』と申します。今は4歳ですわ。こちらこそ、よろしくお願い致しますね。」
「僕は『葉月』です。同じく4歳です。姉と共に、よろしくお願いします。」
年上の少女が名乗れば、2人も名乗って挨拶する。
少女は、双子とは『はとこ』の関係だった。親同士が、従姉妹である。
少女は、双子に四条家の事を色々話してくれる。聡明で利発な子であった。
「さすがね。本家の血をうけつぐ子供は、ちがうわね。まだ4歳なのに、頭良すぎね。」
そう言って笑う。十分、この少女も頭がいいだろうに。何故か自分は、四条家本家ではないと言う。
「わたくしはね、四条家当主の旦那さんとお妾さんの間に生まれた、その人の子孫なの。その時の当主は、ゆきゑ大伯母様の母親なの。つまり、わたくしのお祖父様が、愛人の子供ということなの。ゆきゑ大伯母様は、義弟の子供と孫として、わたくし達家族にもよくして下さるけど、四条本家の血は受け継いでいないの。
だから、わたくしたちは、大伯母様やあなたたちとの血の繋がりはあっても、四条家の跡継ぎ問題には関係ないのよ。」
流石の双子も、自分達と血の繋がりはあるのに、全く四条家の血が入っていないと聞かされ、複雑な気持ちである。
まだ4歳でもあり、どう返答していいか、分からなかった。
「そんな顔しなくても、大丈夫よ。実はホッとしているの。だって、四条家は、元々女性が継ぐ家柄ですもの。本来は、ゆきゑ大伯母様が当主になる筈だったの。
前当主が認めない人を夫に選んで、一度四条家とは縁を切って、結婚されたの。
だから、今の四条家本家は、ゆきゑ大伯母様のお兄様が継がれたそうなの。
でも、そのお兄様の子供は男の子ばかりで、孫も男子ばかりなのですって。
ですから、見百合叔母様が、跡を継ぐお話もあったそうよ。」
「お母様は継がなかったのですね?」
「いいえ。継げなかったの。成人後すぐ結婚されて、海外に行かれたから。」
「お母様、上手く逃げたね?」
「ええ。だから、ゆきゑ大伯母様も、四条分家を名乗る許可をもらわれたの。
いつでも孫が継げるようにと…。つまり、夕月さんが継ぐ権利があるのよ。」
夕月が問う。母が継ぐ予定だったと聞き、嫌だったから継がなかったのか、と思いきや。結婚して海外に行ったまま、帰国しなかったのは…。今度は、葉月が苦笑しながら応答した。母は逃げるのも上手いな、という意味を込め…。
しかし、その後に意外な言葉が返って来た。夕月が継ぐ?四条家を?
2人は、顔を見合わせる。お祖母様の稽古には、勿論興味がある。
しかし、その稽古が、継ぐことになることに直結するのか、それとも…。
まだ、四条家の事を何も知らされていない2人は、何とも答えられなかった。
前編の内容は、初帰国時のお話が中心となります。親戚ばかりが出て来ます。
今回のお話で、今回の為の新キャラが出て来ましたが、本編の方で登場するかは未定です。
因みに、はとこ(またいとこ、とも言う)の関係である『志鶴』お姉さんです。
まあ、折角名前もつけたことですし、何処かでチョイ役でもいいから、出せたらなあ。
夕月達が16歳ですから、5歳年上なので、今は大学生か就職しているかですね。
※お話の進行は、第三者(筆者)視点で統一しています。