黄色い小人とドブ色の旅人
お子様に読み聞かせられるお話を意識しております。
ある所に小人たちが住む原っぱがありました。
厳しい冬ももうすぐ終わり、そろそろ春が訪れようかというある日の事です。
赤い小人が言いました。
「やっと冬が終わる。これで枯れ木ばかりのつまらない景色とはおさらばだ」
青い小人も言いました。
「春になれば花も咲く。美しい原っぱが見られるぞ」
緑の小人も言いました。
「木々も茂るだろう。やはり春は緑豊かでないと」
楽しくお喋りしていた三人ですが、その内ケンカを始めてしまいました。
赤い小人が怒鳴ります。
「やはり色は赤に限る。赤は元気の出る色だし、花も赤が一番美しい。料理に使う火だって、赤ではないか」
青い小人が反論します。
「いいや、青色が一番だ。青は落ち着いた良い色だ。皆の好きな湖の色だって、美しい青ではないか」
緑の小人も反論します。
「いやいや、緑が最も美しい。冬を終えた原っぱを思い出せ。葉も草も全て緑ではないか」
三人とも、自分の色が一番だと言って譲りません。
その日は結局、皆ケンカ別れしてしまいました。
翌日の事です。
──コンコンコンッ。
誰かが、赤い小人の家の扉を叩きます。
「おや、誰だろう?」
赤い小人が扉を開けると、そこにはとても汚い格好をした小人が震えて立っていました。
赤い小人は悲鳴を上げます。
なんとその小人は元の色が分からない位、ドロとホコリと砂まみれなのです。
「すみません、私は旅をしている小人です。どうか少しだけ休ませて下さい」
外はまだ冷たい風がピューウと吹いています。
赤い小人は首を横に振りました。
「冗談じゃない。こんな汚い奴を入れたら、部屋が汚れてしまう。隣の青い小人の家に行け」
そう言って、赤い小人は赤い毛布だけ渡して扉を閉めてしまいました。
旅人の小人は赤い毛布を被って、青い小人の家の扉を叩きます。
──コンコンコンッ。
「ふむ、お客かな?」
扉を開けた青い小人は、汚い旅人の小人を見て悲鳴を上げました。
「すみません、私は旅をしている小人です。どうか少しだけ休ませて下さい」
くさい臭いが立ちこめます。
青い小人は怒りました。
「ふざけるな! そんな臭いで家に入られたら、部屋が臭くなる。裏に住む緑の小人の家に行ってくれ」
そう言って、干しブドウを詰めた青い鞄を投げつけると扉を閉めてしまいました。
旅人の小人は赤い毛布を被り、青い鞄を抱えて、緑の小人の家の扉を叩きます。
──コンコンコンッ。
「ほう、一体誰だろう」
扉を開けた緑の小人は垢だらけの旅人の小人を見て悲鳴を上げました。
「すみません。私は旅をしている小人です。どうか少しだけ休ませて下さい」
ボロボロの旅人の小人に、緑の小人はそっぽを向きます。
「ダメだダメだ! そんな垢だらけの奴とは、知り合いになりたくない。隣の黄色い小人の家に行ってくれ」
そう言って、緑の葉っぱタオルとハーブの香りのする石鹸を押し付けて、扉を閉めてしまいました。
旅人の小人は赤い毛布を被り、青い鞄と、緑のタオルと石鹸を抱え、黄色い小人の家の扉を叩きます。
──コンコンコンッ。
「あれ、お客さんだ!」
扉を開けた黄色い小人は、疲れ果ててフラフラになった旅人の小人を見て悲鳴を上げました。
「すみません。私は旅をしている小人です。どうか少しだけ休ませて下さい」
「それは大変だ」
黄色い小人は慌てて旅人の小人を部屋に招き入れます。
旅人の小人はようやく暖かい部屋で休む事ができました。
温めた花の蜜を飲みながら、旅人の小人は何度もお礼を言います。
黄色い小人が聞きました。
「どうして旅をしてるんだい?」
「私は汚い色の小人で、いつもバカにされていました。居場所を求めて仕方なく旅をしている内に、本当に汚くなってしまったのです」
「それは気の毒に。……そうだ!」
黄色い小人は、旅人の小人の汚れを落としてあげようと思いました。
さっそく、彼が干しブドウを食べている間にお風呂の準備を始めます。
家の前に大きなタライを二つ置き、たっぷりのお湯を沸かしました。
「何から何まで申し訳ない」
黄色い小人は遠慮がちな旅人の小人をタライに入れ、ザンブ、ザンブと洗います。
お湯はあっという間に黒くなってしまいました。
「丁度良い、これを使おう」
黄色い小人は、旅人の小人が持っていた石鹸で、ゴッシ、ゴッシと洗います。
何度もお湯を入れかえると、やがてドロドロだった旅人の小人は、ハーブの香りのする小人になりました。
「久しぶりにサッパリしました」
旅人の小人は、緑の葉っぱタオルで体を拭きながら笑います。
綺麗な体になった旅人の小人は、灰色とも、茶色とも言えない、何とも微妙な苔のような色をしていました。
黄色い小人が聞きます。
「君は何色小人なの?」
「前はドブ色小人と呼ばれていました」
「それはひどい」
黄色い小人は彼の事を「旅小人さん」と呼ぶことにしました。
すると黄色い小人たちの元に、赤い小人、青い小人、緑の小人がやって来ました。
すっかり見違えた旅小人の姿に、三人の小人は目を丸くします。
そしてバツが悪そうに旅小人の前に並びました。
「家に入れてやれなくて、悪かった」
赤い小人が大きなクルミの欠片を差し出します。
「機嫌が悪くて八つ当たってしまった」
青い小人が大きな青い寝袋を引きずります。
「失礼な事を言ってすまなかった」
緑の小人がハチミツの入ったビンを渡します。
「こんなに沢山、ありがとうございます!」
感激する旅小人の手を、三人が引っ張りました。
「もっと良いものを用意した」
三人の小人が案内した場所には、木の板で出来た長方形の小屋が建っていました。
「家だ!」
黄色い小人と旅小人が驚きます。
三人の小人が照れ臭そうに言いました。
「屋根裏と床には干し草が敷いてある」
「すきま風もない」
「三人で作った」
これだけ立派な小屋なら、暖かく、ゆっくり休めます。
旅小人は大喜びで飛びはねました。
「お礼に、私の旅の話をお聞かせしましょう」
「それは良い」
旅小人の話を聞くため、この日の夕食は皆で黄色い小人の家に集まって食べる事になりました。
旅小人の話はどれも面白く、想像もつかないような大冒険ばかり。
美味しい木の実を食べながら、皆すっかり仲良しになりました。
赤い小人が言いました。
「お前は良い奴なのに、バカにされるなんてとんでもない。そうだ、赤い服を着ると良い。綺麗な赤なら、バカにされないだろう」
青い小人も言いました。
「それなら青い服を着ると良い。最も美しい青なら皆が羨ましがるだろう」
緑の小人も言いました。
「いやいや、着るなら緑の服が一番良い。きっと皆が癒されて、バカにする奴はいなくなる」
黄色い小人も言いました。
「皆の色も好きだけど、ぼくは黄色が好きだな」
四人の小人がそれぞれの色をすすめるので、旅小人は困ってしまいました。
体は一つしかありません。
せっかく皆がすすめてくれた服を、全部着る事は出来ないのです。
「私のために考えてくれてありがとう。でも、きっと、私には綺麗な色の服は似合わない」
旅小人はしょんぼりして小屋に入っていってしまいました。
「綺麗な色が似合わないなんて、そんなひどい話はないよ」
黄色い小人達は悲しい気持ちで一杯です。
「何としても、彼に似合う一番綺麗な色を見つけてやろう」
「それが良い」
「そうしよう、そうしよう」
四人の小人は、ヒソヒソ、ヒソッと内緒の相談を始めました。
翌朝。
朝日がのぼると、旅小人はスッキリ、パッチリと目覚めました。
美味しい食事と暖かい小屋のおかげで、とてもよく眠れたのです。
元気になった旅小人は身仕度を済ませ、また旅に出る事にしました。
お世話になった四人の小人に挨拶に行こうと、小屋を出ます。
「おや、皆さん、おはようございます」
小屋の前には四人の小人が並んでいました。
黄色い小人が元気に挨拶します。
「おはよう! あれから僕達、考えたんだ」
赤い小人が胸を張ります。
「皆が一番綺麗だと思う色を全部混ぜた色こそが、最も綺麗な色なんじゃないかという話になった」
青い小人も誇らしげに言います。
「旅小人に綺麗な服をあげようと、皆で好きな色を用意して、服を染め上げた」
緑の小人も負けじと言います。
「一番綺麗な赤、青、緑、黄色を混ぜて染めたら、なんと! こんな色の服に染まったのだ」
その言葉を合図に、黄色い小人が一着の服を差し出しました。
その服は灰色とも、茶色とも言えない、何とも微妙な苔のような色をしていました。
赤い小人が笑います。
「皆の一番の色を混ぜた、最も綺麗な色は、この旅小人の色だったのだ」
青い小人が手を叩きます。
「この一番綺麗な色の服を旅小人に贈ろう」
緑の小人が提案します。
「居場所がないなら、このままこの原っぱに住むと良い」
黄色い小人が旅小人の肩を叩きます。
「君はドブ色なんかじゃなくて、混ぜ色の小人だったんだね」
旅小人、いえ、混ぜ色小人はワンワン泣きながら服を抱き締めました。
「生まれて初めて綺麗だと言ってもらえました。初めて自分の色が好きになれそうです」
こうして、原っぱに新しい住人が増えました。
四人の小人達の家から少しだけ離れた場所に建つ、長方形の平たい家。
混ぜ色小人の新しい家です。
その家の隣には、赤い小人達が建てた小屋が残っています。
小屋は、原っぱを訪れる旅人やお客さんを泊める宿として、たまに明かりが灯るのです。
小人の住む原っぱはいつでも平和。
五人の小人は今日も仲良く、ケンカしたり、楽しくお喋りしながら暮らしているのです。