真夜中のタオル
その夜、ボクは眠れずにいた。
別に何かが気になっていたからではなくて、ただたんに眠れなかっただけ。
ボクはベッドの上で、低い天井をぼぉぅっと見つめていた。すると、頭のななめ右上にある窓を……何かがトトンって、たたいたんだ。
最初は風かと思ったんだけど……どうにも違うと思い始めた。
なんか例えるのは、むずかしいんだけど……消ゴムが当たっているような柔らかい音。
ボクは不思議に思って、30センチ四方の、その窓をのぞいてみた。
「あ!」と声をあげちゃったけど、そんなにおどろくことじゃない。
だって窓をたたいていたのは、ただの細長いタオルだったんだから。
タオルはボクをみると、白い体をクネクネさせて、よろこんだ。
外は真っ暗で、なんだか寒そうだったから……ボクは仕方なく、窓を開けて中に入れてやった。
「いや〜、すみませんねぇ」
タオルは100センチぐらいの体をヒラヒラさせて、どこにあるとも知れぬ口でそう言った。
「いいよ別に。それより、なんかよう?」
ボクは頭を掻きながら、そう答えた。
「あのですねぇ、サイトウさんちを知りませんか?」
タオルが伸びやかで毛羽立った体を、くるりくるりとひねって言う。なんか首をかしげているみたい……もしかしなくても困っているのかもしれない。だからボクは、サイトウさんちを指さして
「あれだよ」と教えてあげた。
サイトウさんは、真向かいに住む謎の人。頭をキンキラリンにしていて、いつも違う女の人を連れている。お父さんはサイトウさんのことを、よく『チンピラ』と呼ぶ。
チンピラって何だろう?
珍ピラフの略? なんだそれ……。
よくわからないけど、お父さんはチンピラがキライみたい。
「いや〜ありがとうございます」
タオルは頭を何度も下げながら外へ出て行った。表情はわからないけど、体のヒネリ具合からして喜んでいるのだとわかった。
ボクは窓を閉めて、タオルに手を振ってからベッドに入った。
良い事をしたあとは、気分まで良くなる。
それからは、ぐっすり……朝まで眠りの底をただよった。
翌朝ボクは、うわぁんうわぁんという、パトカーのサイレンで目が覚めた。
なんでも、サイトウさんが死んでしまったらしい。コウサツ……って何だろうね?
ボクは、何となくタオルが気の毒になった。サイトウさんは、何時に死んだんだろう?
タオルはサイトウさんに会えたのかな……。