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微妙に尾を引く決着

マーロウさんは、リオーダン殿下に斬殺されて――即死だった。


あんな状況だと、速攻、現場斬殺も止むを得ないのだとか。ヘタに戦闘を長引かせると、捕縛する側の犠牲者が増えかねないし、わたしたちの身柄保護も覚束なくなるから。


マーロウさんの死体は、指示を受けた衛兵たちが担架に乗せて、速やかに運び去って行った。検死するんだそうだ。ディーター先生は多忙だから、別の上級魔法使いが立ち会って調べると言う。


いずれにせよ、短い時間だけバーサーク化していた――『狼男』だった――魔法ではありえない事。後ほど届いた検死結果の報告書には、やはり、『原因:爆速バーサーク化ドラッグ』という風に記されていたのだった。


*****


わたしたちは、気が付いてみると、頭のてっぺんから足の爪先まで七色の極彩色でペインティングされていて、まだブクブク言っている七色の泡を頭に乗せている――と言う奇想天外な格好だった。『炭酸スイカ』の爆発の余波を食らったせいだ。


わたしの、七色の極彩色の迷彩と化した顔面、クレドさんを何とも言えない表情にさせていた。リオーダン殿下でさえも呆れ返って、あからさまに溜息をつくと言う反応を寄越して来たくらいだ。


――どうせ、わたしは、こんなドジだよ!


幼児な尻尾だし、童顔で平凡顔だし、噴水に真っ逆さまに落ちて溺れるし、何も無い所でつまづくし、魔法能力は無いし、『炭酸スイカ』の泡を頭に乗っけて走り回ってるし……!


大魔王化していたグイードさんも、チェルシーさんの奇抜な格好を改めてマジマジと眺めて、大いに毒気を抜かれたみたいなんだよね。元々、名門の令嬢として育っていたチェルシーさんは、普段は、家でも外でも、上品でオットリとした淑女っていう人だったみたいだから、余計に。


グイードさんの、『新しい道化師スタイルを発明したのか?』という呟きコメントには、ビックリさせられた。あの四角四面な人が、こういうユーモア感覚を隠してたなんて、ホントに意外だよ。チェルシーさんとグイードさんが、夫婦として長続きしているのが不思議だったけど、何か納得できた。


――そう言えば。


グイードさんたちが何で、わたしたちが此処に居るのか分かったのかと言うと、病棟に詰めていた『下級魔法使い資格』持ちの、衛兵さんたちのお蔭。


要警護なチェルシーさんに関しては、元々、常時レベルの監視魔法が付いてたそうだ。そのチェルシーさんの位置情報が病棟の敷地から失せた時点で、すぐに魔法による追跡が始まっていた。


わたしたちは、闇オークションのパンフレットや魔法陣の解析図など、集めていた資料や作成していた資料を『貴重品』として総合エントランスの受付に預けていたんだよね。衛兵の問い合わせに応じて、その資料が受付から即座に提出された物だから、行き先がすぐにバレたと言う訳。


――まぁ、すぐに外出がバレた事は、結果的には良かったと言えるかも知れない。あんな風に、事態がスピード展開するとは思わなかったし。


わたしが金融魔法陣や転移魔法陣を解析した事は、『寝食を忘れるほど集中していたのなら納得』なんだそうだ。ただ、『魔法の杖』無しで、手書きで『正字』を構築していた件については、『魔法使いコースに居たのか?』と、割と驚かれた。


――『正字』スキル、そんなモノなのか。『正字』関連のアルバイトの実入りが良いのも、何となく理解できる。



そして、目撃証言を含む現場検証が始まった。


ちなみに、転んだ拍子に脚を痛めたチェルシーさんは、グイードさんに片腕抱っこしてもらっている状態だ。


チェルシーさんを片腕抱っこしている時はグイードさんは大魔王化しないそうで、脇に控えている部下も落ち着いた様子で、私とヒルダさんの目撃証言――マーロウさんがチェルシーさんの目の前でバーサーク化した件――を報告している。


わたしたちと『狼男マーロウ』が追いかけっこしていた、滅茶苦茶なジグザグのコースの記録は、『炭酸スイカ』による極彩色のペインティングのお蔭で、すぐに済んだ。衛兵さんの駆け足のスピード、半端ない。


――『炭酸スイカ』連続投球の腕前を披露した謎の少年は、いつの間にか姿をくらましていた。


あの少年、どうも訓練隊士とかじゃ無いみたい。訓練隊士は、今は強化合宿の真っ最中で、この時期に此処に居るのは有り得ないのだそうだ。一体、何処の誰だったんだろう。


倉庫の屋根を次々にジャンプして回りつつ、これ程の数の『炭酸スイカ』を全てシェイクして投げまくり、『狼男』に全て命中させてのけた。


――という事実は、グイードさんばかりで無く、クレドさんやリオーダン殿下をも感心させていた。衛兵部署の忍者部門にスカウトしたいくらいの才能なんだって。確かに、忍者っぽい少年だったもんね。


*****


わたしたちは、問題の倉庫に改めて入った。


下級魔法使いの資格を持つ衛兵たちの手によって、倉庫に掛かっていた錠前がチェックされる。


わたしが直感した通り、この錠前には、マーロウさんの『魔法の杖』直通の秘密アラートがセットされていた。成る程、わたしたちが錠前を開錠して倉庫に押し入った時、マーロウさんが即座に気が付いた訳だよ。


その錠前には、更に、《緊急アラート通報》の魔法を妨害する、ごく小さなサイズの魔法陣が転写されていた。この辺り一帯で《緊急アラート通報》が出来ないようにする仕掛けだと言う。


こういう非合法な品々は、闇ギルドでは普通に扱ってるそうだ。押し込み強盗ビジネス用の魔法道具セットらしい。


チェルシーさんとヒルダさんが青ざめながらも、『マーロウ室長って、こういう所、すごくシッカリしてたよね』と呟いている。色々考えると、わたしたちって、ホントに運が良かったみたい。


わたしが倉庫に持ち込んでいた、あの台車――床の上に転がった空コンテナには、まだボウガンの矢が突き刺さっていた。その近くに、異様に大きなボウガンが横たわっている。見るからに重厚長大なボウガンだ。わたしの身体サイズを余裕で超えている。ビックリだ。


――こんなに大きなサイズだとは思わなかったよ!


マーロウさんは、こんな物、片手で軽々と振り回していたと言うのか。さすが貴種の血筋。そして、同じ貴種のリオーダン殿下が、やはり片手で軽々と持ち上げた。


近くに居た普通の衛兵が、そのボウガンを受け取る。片手では無理だったみたいで、『よいしょ』という風に両手で持ち上げている。そして、『丁度良い』と言う事で、わたしが持ち込んで来ていた台車に乗せると――如何にも重そうな『ドシャッ』という音がした。


――ウルフ族の男性の平均的な身体能力にもビックリだけど、その中でも貴種って、ホントに規格外だ……


リオーダン殿下が、秀麗な顔をしかめて、溜息をつく。


「あの尖塔から持ち出されていた『対モンスター増強型ボウガン』だ。マーロウ殿が持ち出していたんだな。――と言う事は――タイスト研究員をボウガンで殺害したのは、マーロウ殿だったのか……」


グイードさんの部下が、クレドさんと共に、ボウガンを動かして観察し始めた。そして「おッ」と声を上げた。


「矢をセットする部分に、マーロウ殿の血の匂いが残ってますよ。セットする時にバネが弾けて怪我したみたいですね。だから、証拠隠滅を兼ねて持ち出したんでしょう。このポイントだと、恐らく、左手の方を怪我しましたね」


脳内で、記憶が弾けた。そう。確かに、タイストさんが死んだ当日の、夕方の時点で、マーロウさんは左手を怪我していた。包帯を巻いていた!


――あれ、古代遺物の室内装飾の分解研究をしていた時に、怪我したんだ、なんて言ってたけど……!


チェルシーさんとヒルダさんも、同じ記憶を思い出したみたいで、ハッと息を呑んでいた。


「確かに、マーロウ殿は左手に包帯を巻いていたな。喉笛を噛み切られた衛兵の死体の目撃証言を取っている時に、私も気付いた」


グイードさんが不機嫌そうに呟く。


「古代遺物の攻撃魔法の解析は彼の専門だった――うっかり怪我するとは、奇妙な事もあるものだと思ったが。みずから作った死体の状況を、『耳』と『尾』も含めて、さも無関係の目撃者であるかの如く、証言してのけるとは……大した演技力だ。レオ帝国担当の外交官になれば、その才能を十全に生かせたものを」



――その後も現場検証は滞りなく進み、問題の倉庫が闇オークションと接続している取引ルートだった事も証明された。こちらは、わたしが手書きで解析していたデータからも明らか。


アンティーク宝物庫から品々を盗み、闇で売りさばいて不正収入を得ていたのは、マーロウさんだった。


タイストさんは、まさか上司のマーロウさんが犯人だとは思っていなかったみたいなんだけど、ヒルダさんを問い詰めるくらいには、『幾つかの品が紛失した』と言う事実をつかんでいたんだよね。だから、これ以上追及できないようにと、マーロウさんに殺されてしまった。


タイストさんは下級魔法使い資格を持っていて、下手したら、マーロウさんの犯罪の証拠を発見しかねなかったし。


アンティーク部門の同僚たちの証言によれば、普段から、マーロウさんとタイストさんは食事を共にする関係だったと言う。


マーロウさんは、タイストさんとヒルダさんの口論が始まった時、近くに居て、その内容を間違いなく聞き付けていた筈だ。いみじくもメルちゃんが言ったように、マーロウさんは、即座にタイストさんを消す事を決めたのだろう。


最初のボウガンの一矢は全て手動で、確実にタイストさんを殺せるように狙いを付けていた。


その後は自動で、尖塔に常備されていた矢の在庫が続く限り、連続セット発射が続くように仕掛けていた。タイストさんだけじゃ無くて、他の人も同時に犠牲に――と言う風にしておいた方が、『森の中に木を隠す』と同じで、真相をごまかせるから。


殿下たちは、たまたま、そこに居ただけだったんだけど。


ああいう風に話が大きくなったから、マーロウさんとしては笑いが止まらなかったに違いない。そして、味を占めてしまったのかも知れない。


衛兵の死体を、あんな場所に大胆にぶら下げて置いたのも、『当の自分は疑われていない』と言う自信があったから――


*****


当座の現場検証が一段落し、チェルシーさんとヒルダさんとわたしは、病棟に戻った。


ヒルダさんは、相応の休養期間を取った後、再びアンティーク部署で仕事を再開する事になった。


チェルシーさんは、転んだ時に痛めた脚を詳しく調べた結果、骨にちょっとヒビが入っている事が分かった。身体の各所に打ち身やらアザやらも出来ていて、そのまま治療院に3日ほど入院して静養する事になった。


――最初にわたしが転んでしまったせいだ。ゴメンナサイ。



次の日、グイードさんがチェルシーさんのお見舞いがてら、マーロウさんの事件について新たに判明した事を説明しにやって来る予定だ。魔法による隠蔽工作が少なからず関わって来た事件なので、ディーター先生とフィリス先生も『茜離宮』での仕事に一区切りつけて、同席してくれる事になっている。


内容が内容なので、他種族も自由に出入りできる総合エントランスの方では無く、ウルフ族のみが入れる、特別ラウンジの方を使う。



そして当日。



わたしは前もってチェルシーさんが入っている部屋を訪れ、ラウンジからの呼び出しに対して、スタンバイする事にした。


チェルシーさんの部屋の扉をノックして声を掛けると、すぐに扉が自動で開く。チェルシーさんが『魔法の杖』で、遠隔で開いてくれていると言うのは分かるけど、やっぱり、ビックリする。


チェルシーさんは、部屋に付いている小卓の前に座って針仕事をしている所だった。


針仕事と言っても――それは魔法の針仕事だ。


刺繍にしても仕立てにしても、『魔法の杖』の動きに応じて、何本もの針と糸がハイスピードで飛んで行くから、仕上がりが早いんだよ。ポーラさんがメルちゃんのドレスをお直ししているのをチラッと見た時も、ビックリしてしまった。


名人の針仕事となると、50本くらいの針と糸が一斉同時に飛び回るそうだけど、ちょっと想像できない。


チェルシーさんは、わたしを一瞥するなり、「まぁ」と困惑の声を上げた。


「ルーリー、本気でそのセットそのままで、ラウンジに入る予定なの?」


――へ? この格好の事ですか? 患者服な生成り色のスモックのセット、何かマズかったですか?


昨日のチュニックとズボンのセットは洗濯に出してあるんですけど、まだ乾いてないし、あれ以外に街着は買っていなかったから、これだけで……『仮のウルフ耳』の方は幸いに防水と防染の加工があったので、ザッと洗っただけで、もう付けられる状態になりましたけど……


チェルシーさんは、わたしに椅子を勧めながらも、ハーッと溜息をついた。


「あぁ。抜かったわ。フィリスさんは良い娘さんだけど、魔法使いコースのガリ勉だったから、ソッチ方面は疎かったのよね。ルーリーも大いにソッチの類ね。メルちゃんの方が、ソッチ系が分かってるなんて、何とも奇妙な事だわ」


――済みません、どういう意味か分からないのですけど……?


「いつか素敵な男の子と鉢合わせなんかした時に、慌てたくないでしょう、と言ったでしょ?」


――あれは、『いつか素敵な男の子とデートする時に、慌てたくないでしょう』だったような気がするんですが。


チェルシーさんはイタズラっぽく微笑んで、意味深なウインクをして来た後、針仕事を続行した。


さすが『ドレスメーカーの助っ人さんもやっている』と言う程の腕前だ。素人目にも達者な針仕事だと分かる。


ふと見ると、チェルシーさんが今、患者服なスモックの上に羽織っているのは、チェルシーさんの自作と思しき、淡いラベンダー色の膝下丈の上着。チェルシーさんの柔らかな金髪と相まって、上品な雰囲気が感じられる。


派手なデザインでは無い――日常使いの品だ。涼しい季節になったら、付属のベルトを締めて外にも着て行ける感じだし、今だったら、夜間の防寒着にもなりそう。


針仕事自体は、ほぼ仕上げの段階だったらしく、すぐに済んだ。


「よし、出来たわ。ルーリーには昨日『正字』をいっぱい書いてもらったからね、御礼よ」


薄い青磁色の上着だ。付属ベルトも、ちゃんと付いている。


チェルシーさんが着ている物と同じ膝下丈タイプ。夜間の防寒着にもなるという意味では、同じ種類の品だ。でも、裾周りのデザインが違っていて、比較的、活動的な動きが出来るようになっている。


首回りのラインを彩る瑠璃色の小花刺繍が、ちょっとしたワンポイントになっていて、ナニゲに可愛い感じだ。


目をパチクリさせていると、チェルシーさんが『フフフ』と笑いながら、説明して来た。


「夜が冷えて来る頃になったから、ちょうど良いと思うわ。それに、ポーラさんがジリアンお嬢さんの結婚式に、ルーリーをお招きしたいと言ってたでしょ。その時にも着られると思うし。中庭広場の商店街は品揃えが豊富だけど、こういう、ちょっと気付いて気付かないような『さりげない品』は、少ないのよね」


――な、成る程。どうも有難うございます。

part.03「不穏な昼と眠れない夜」了――part.04に続きます

お読み頂きまして、有難うございます。

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