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表と裏の時系列(中)

――かつての奴隷妻だった『風のキーラ』ほどに強い『宝珠メリット』には、出会う事は出来なかったが。


強制的な『宝珠メリット』効果が失われると共に、『奴隷妻』としての賞味期限が尽きる。


サーベルは、『奴隷妻』賞味期限が尽きたウルフ少女たちを、奴隷マーケットに捨てて行くと言う事を繰り返した。『使用済み』の印として、むごたらしい『奴隷の烙印』を、胸の中央に焼き付けたうえで。



さすがに、その悪辣非道ぶりが、他の奴隷商人たちの機嫌を徹底的に損ねる事になった。


そもそも『宝珠メリット』持ちの若いウルフ女――特に媚薬に反応しやすい未婚のウルフ女は、高く売れるのだ。それを次々に『媚薬漬け』にされ、むごたらしいまでの『奴隷の烙印』を胸の中央に刻んだ、いわば『キズ物』にされては、たまらない。


いわゆる『媚薬中毒』がひどくなればなる程、危険な程に強い効果を持つ媚薬で無いと反応しなくなる。強烈な媚薬は、バーサーク化につながりやすい。目の前でバーサーク化された場合、自分が殺される前に、自衛のために殺さなければならない。『宝珠メリット』どころでは無いのだ。



かつてはビジネス仲間だった奴隷商人たちからの、そろっての裏切り。


すなわち、匿名の集団通報によって。


遂に『風のサーベル』は、前々から『マーケット荒らし』が問題視されていた卑劣極まる奴隷商人たちと共に、老レオ皇帝の名の下、お縄になった。そして、『タテガミ完全刈り込み』の憂き目にあった。



自業自得のゆえなのだが。サーベルは、そう受け取らなかった。


――裏切った奴隷商人たちには、まとめて、倍返しレベルどころでは無い、超絶的なまでの報復をしてくれる。


――最も高貴なる大貴族として名を連ねる自分に、『タテガミ完全刈り込み』などと言う最大の屈辱を味わわせてくれた老レオ皇帝には、特に、最大限の絶望を与えてやる。


前々から、強大な《雷攻撃エクレール》使いとして名を馳せていた『雷神』こと、サーベル。


そのサーベルの手元には、方々の古代遺跡から出土した品をまとめた、大型の《雷撃扇》があった。ただし、35橋。古文書によれば、36橋が揃った時に、地上最強と言うべき完全な武器となる事が分かっていたが――


――完全な《雷撃扇》では無いから、大型モンスターを倒すレベルの《雷攻撃エクレール》しか発動できない。愛用している古代の《宝玉杖》と変わらない威力。



ウルフ王国『茜離宮』が、アルセーニア姫の急死を受けて、揺れていた頃。


タテガミの無いレオ族と化した『風のサーベル』は、目のくらむような大金でもって牢番を買収し、死刑囚の刑務所を早々に脱獄。悶々としながらも、秘密の隠れ家に潜伏を続けていた。


すぐに、流れが変わった。


かねてから手先を介して泳がせていた赤ランジェリーのバニーガールが、《水の盾》サフィールの情報を各方面から入手して来た。サフィールの身体特徴と、1日の行動パターンを。特に、1日の行動パターンが――《風の盾》ユリシーズの庇護下を離れるタイミングが判明したのは、大きい。


サーベルは満を持して、イヌ族とネコ族とウルフ族から成るヒャッハーなコソ泥たち8人を、『勇者ブランド』魔法道具と大金で釣って、《水の盾》サフィールの拉致誘拐プロジェクトを立案し、実行した。



――それが、かの、運命の日だ。


太陽は、いつものように西の地平線に接触し始めていた。


後宮の都への侵入は、容易だった。しかるべき筋に、『雷神』サーベルにひれ伏す協力者どもが何人も居るのだ。


対モンスター型となっている巨大な軍事施設。総・金剛石アダマント造りだ。



――ガランとした、広大な大広間の中――



金剛石アダマントの一枚板の真ん中に、紫金しこんのウルフ少女『サフィール』が、確かに居た。


若い未婚のウルフ女を見た時のチェック習慣として、サーベルは、シャンゼリンからコッソリと聞き知っていた《召喚》用の名前、『水のルー』を口にした。


――ウルフ闘獣『水のルー』! そこへ直れ!


紫金しこんのサフィールは、反応した。金剛石アダマントの一枚板の真ん中で、ギクリと身を強張らせて、直立不動になった。



――やはり、老レオ皇帝の《水の盾》が、シャンゼリンの『闘獣』だったのだ!


最高位の《水の盾》が――『イージス称号』持ちの《盾使い》が――毒ゴキ1匹で、思いのままになる戦闘奴隷!



風のサーベルは、歓喜した。


引き連れて来ていた8人のコソ泥たちに合図して、あらん限りの『勇者ブランド』魔法道具を一斉に起動させた。


サフィールの身に的を絞って、《火矢》、《水砲》、《風刃》、《石礫》を一極集中する。


不意打ちの一撃ゆえ、普通の魔法使いなら、あっと言う間に粉々になって死ぬ。


だが、さすが、《水のイージス》だ。紫金しこんのサフィールは、ギリギリのところで強大な防御魔法を発動し、単身、防ぎ切ってのけた。フラフラしながらも。


サフィールがフラフラした隙を突いて、サーベルは、得意の《風魔法》を発動し、死刑囚の拘束衣をサフィールの身に巻き付け、拘束した。かねてから準備していた、魔法の拘束具を頭部にハメた。


最後に、後宮ハーレムの都の外に身柄を運び出す際に、腰まである長い髪が邪魔なので、やはり《風魔法》でもって、メチャクチャに髪を切った。


なおかつ、コソ泥の中にウルフ族の男たちも含まれていたので、そのウルフ族の野蛮な男どもが変にサフィールを《宝珠》と認識しないように、『茜メッシュ』を特に短く切り、更に黒色の染髪スプレーを掛けて、魔法で固定しておいた。



拘束具によって、『完全な人体』と化したサフィール。


そのサフィールから切り離された、まばゆいまでの紫金しこんの毛髪は、次々に暗いチャコールグレーに変色した。何故だ。青いサファイアを連ねた『花巻』を引っこ抜きながらも、サーベルは、一瞬、呆然とした。



その一瞬の、隙。


サフィールが『魔法の杖』を振るった。《防壁》を弾き飛ばし、反撃して来たのだ。サーベルは、大広間の端まで、吹っ飛ばされて行った。


一番端にある金剛石アダマントの支柱に頭を打ち付け、サーベルは朦朧としながらも、再び8人のコソ泥たちに、最大最強の攻撃魔法を発動するよう合図した。サフィールを、自力では動けなくなるくらいに、消耗させてやるのだ。


ヒャッハーなコソ泥たち8人は、『勇者ブランド』魔法道具を動かして、最大最強レベルの攻撃魔法を放った。


最大レベルの、四大《雷攻撃エクレール》――過剰殺戮オーバーキルの魔法だ。


それは、超大型モンスター《大魔王》の、超絶的に硬い装甲をすら、貫通するほどの強度だった。《大魔王》を一撃で粉砕できるレベル、とまでは行かないけれども。



だが、しかしながら――


この最大最強レベルの四大《雷攻撃エクレール》は、実にマズい選択であったのだ。


――《火雷》、《風雷》、《水雷》、《地雷》。


金剛石アダマントによって構成された、密閉空間でもある広大な大広間。


激烈な四大《雷攻撃エクレール》は、サフィールの立てた《防壁》を砕き、大きなダメージを与えながらも、大広間の壁にブチ当たった。



超大型の、しかも最大最強レベルの、四大《雷光》の乱反射が始まった。



恐るべき『雷電地獄』がスタートした。悪夢の始まりだ。


――サーベルも、8人のヒャッハーなコソ泥も、サフィールも、死体すら残さず、蒸発してしまう!


大広間に居合わせた全員の脳みそに、最悪の運命の結末が閃いた一瞬――


サフィールは、金剛石アダマントの一枚板が広がる大広間いっぱいに、《メエルシュトレエム》を発動した。


見事なラピスラズリ色の、大渦巻き。その要所、要所で、金と銀のエーテルが、巨大な火柱となって燃え上がっている。


――『雷電地獄』を作り出しつつあった、最大最強レベルの四大《雷攻撃エクレール》のエネルギーが、あっと言う間に呑み込まれて行った。更に、コソ泥たちに持たせていた『勇者ブランド』魔法道具に仕込まれていた魔法エネルギーまでが、巻き上げられて行く。



大広間いっぱいに展開したラピスラズリ色の巨大スパイラルの中で。


最大最強の四大《雷攻撃エクレール》は、四色の火花となって飛び散っていった。四色の火花は、それぞれ、通常のレベルの四大《雷攻撃エクレール》シリーズへと後退して行く。


通常の四大《雷攻撃エクレール》とは言っても、大広間全体に巻き起こっているのは、まさに全身を揺るがさんばかりの、激しい雷雨の嵐だ。


――《火》の雷光、《風》の強風、《水》の豪雨、《地》の震動――


サフィールの作り出した、ラピスラズリ色の『大渦巻き』は、膨大な数の攻撃魔法の乱反射を、精密に捕らえ続けていた。


――見る見るうちに、四大《雷攻撃エクレール》パワーが削れて行く。


その巨大エネルギーは、金銀のエーテルの火柱の燃料となり、壮大に浪費されている。


更に弱体化した四大《雷攻撃エクレール》は、通常の攻撃魔法へと、段階的にレベル降下して行った。


――《火矢》、《風刃》、《水砲》、《石礫》。



コソ泥たちは全員、『雷電地獄』から救われた。サーベルも含めて。


風のサーベルは、賢くも、避難するべく全力疾走した――生きて逃走に成功した。


その際に、運悪くも《メエルシュトレエム》に触れたサーベルの左腕の方は、ひじの位置まで、スッカリ干からびて取れてしまった。痛みも無く。体内エーテルを巻き上げられてしまったせいだ。


一方で、ヒャッハーなコソ泥たちは――全員、まばゆい金と銀のエーテルの炎に、ラピスラズリ色の《メエルシュトレエム》に、魅入られたように眺め続けるばかりだった。


実際、サーベルの目から見ても、それは壮烈なまでに強大な魔法であり、恐ろしくも美しい魔法だったのだ。


コソ泥たちは全員、逃げるのが遅れたため、《メエルシュトレエム》に吸い込まれて行った。何処までも深く澄んだラピスラズリ色に、金と銀の火柱に、体内エーテルを見る見るうちに巻き上げられて行き、干からびた死体となって行った。


そして、それは計算外のエネルギー量だったらしく、ラピスラズリ色をした魔法の中で、金と銀のエーテルは、暴発した。


左腕を失い、ヒィヒィ言いながらも、地下空間を脱走し続けるサーベル。得体の知れない予感に、背後を振り返る。



後ろから、畏怖すべき巨大な何かが――金と銀をした巨大な地割れと津波が、遥かなる星宿海より来たる敷波が、荒れ狂う永劫が、押し寄せて来る……!



大広間に広がる金剛石アダマントの一枚板は、粉みじんとなって吹き飛んだ。


巨大かつ壮麗な軍事施設は、原形を留めぬ瓦礫と化した。一瞬のうちにして。


地上最強の魔法事故――『バースト事故』だ。

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