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表と裏の時系列(前)

リクハルド閣下の邸宅の、中庭に面した茶室で、秘密会談となった。


バーディー師匠が、最高位の《防音&隠蔽魔法陣》を展開する。相変わらず見事な手並みだ。


次に、かのタテガミの無いレオ族『風のサーベル』が白状した内容を記録したと言う、『3次元・記録球』がスピンを始めた。


ちょうど、空いている椅子の上に映像が再生されたものだから、そこで『風のサーベル』が胡坐を組んで白状している――という格好になったのだった。


*****


タテガミの無い――『タテガミ完全刈り込み』の刑を受けた年配のレオ族、非合法の奴隷商人『風のサーベル』は、これぞ典型的な貴種レオ族の大貴族、というべき人物だ。リクハルド閣下より少し年上。でも、ほとんど同年代と言える。


死刑囚が着用する濃灰色の拘束衣をまといつつ、鎖付きの首輪でもって、地下牢につながれているところなんだけど。金茶色の華麗なタテガミが正常に残っていれば、現レオ皇帝と言われても不思議じゃない程の迫力だっただろう。


その人相は、非合法の奴隷商人ならではの物か、凶悪な表情に歪んでいる。でも、若かりし頃の面影を確かに残している。剛毅さと色気を兼ね備えた、凛々しい顔立ち。年を重ねた今は、リクハルド閣下とも似通う重厚さが加わっていて、一層、威風堂々と言った風だ。


実際に若い頃は、今の老レオ皇帝と、皇帝の座を争う程の、高位のレオ王子だったそうだ。


レオ王に繰り上がる時に、『風のサーベル』は、正妻4人と側室3人を不当に扱った件で、候補から外されたと言う。ネコ族に対するヘイトスピーチの件と言い、正妻4人を皆殺しにした件と言い、とっても納得できてしまう。


サーベルの起こした女性問題などの数々のスキャンダルは、その巨大な特権でもって秘密裏の内に処理されていたから、部外者たちは何も知らない状態だったそうなんだけど――



――クレドさんの《暴風刃》で、クマ族の振りをするための『化けの皮』を含めて、全裸にされ。


バーディー師匠による返り討ちで、苦労してパーツを集めてのけた最終兵器《雷撃扇》を木っ端みじんにされ。


それでもなお。


何処から、これ程に意気が湧いて来るのかと不思議になるくらい、獰猛とすら言えるエネルギーに――権力欲に満ち溢れている。ギラギラとした両眼の表情を見る限りでは、正常な権力欲と言うよりは、むしろ、怨念に近い物なのかも知れないけど。


『あの黒毛のウルフ男2人を、まとめて此処へ連れて来い! リオーダンとクレドをな! この私を十重二十重とえはたえに騙すとは、返す返すも不逞な輩。せめてもの慈悲として、一太刀のもとに、きゃつらの首を、胴体から切り離してくれよう』


その威厳タップリの大音声の後、『風のサーベル』は、驚くべき真相を語り始めた。


*****


――元々、レオ大貴族『風のサーベル』の裏の顔は、非合法の奴隷商人だ。闇ギルドにおける顔は広い。


かつて、『奴隷妻』としていた紫金しこんのウルフ女『風のキーラ』が関わる流血スキャンダルは、隠密裏に処理されていた。


当時、4人の正妻を殺害したのはサーベル自身だったという事実も、都合よく捻じ曲げられた。


4人の正妻を殺害したのは、闇ギルドのウルフ女『風のキーラ』だと言う事になった。『他種族から来たハーレム妻』と言う立場をわきまえず、サーベルを愛し独占したいと思う余り勝手に嫉妬に狂って、サーベルの4人の正妻を殺した事になっていた。


サーベルは、純然たる被害者の顔をする事が出来たのだ。


そう言う訳で、サーベルは、レオ帝宮に日常的に出入りする堂々たる大貴族の1人として、レオ帝国の上層部の秘密情報を入手できる特権的な立場を維持し続けていた。


当然、ウルフ族出身の《水の盾》サフィールが、レオ皇帝の後宮ハーレムの都に献上されて来たと言う事実も、最初からつかんでいた。


その後、サフィールが急にノイローゼになったという事実も、ウルフ王国から派遣されて来ていた使節がサフィールを表敬訪問しているという事実も、既に承知の上だった。


使節のウルフ少年たちが、何処の何者なのかという身元情報も入手できた。どのルートを辿って訪問して来て、帰路がどのルートになるのかと言う、些細な情報までも。


当時、使節として派遣されて来ていた2人のウルフ少年たちは、いずれも将来、宮廷の貴公子となるのは確実な、高位の少年たちだった。ますます、好都合。



サーベルの陰謀の数々――ウルフ貴公子たちの取り込み作戦は、《水の盾》サフィール・レヴィア・イージスお手製の『道中安全の護符』の買い取りから始まった。


その不正な取引記録でもって、ウルフ貴公子な『クレド(正体はリオーダン殿下だったけど)』の弱みを握ったサーベルは、恐喝を繰り返して、ウルフ王国の中に、非合法の魔法道具の取引のルートを築いて行ったのだ。


初期の取引品は、紛失しても不思議じゃ無い品、関与しても余り罪の意識を覚えない品である。魔法文書フレーム、魔法の砂時計、魔除けの魔法陣。そして、《雷電シーズン》やモンスター対応の、魔法加工済みの窓ガラスなど。


かくして横領品の取引実績は、瞬く間に巨額となった。


リオーダン殿下は、『殿下』コースを駆け上がって行く有力な貴公子の1人として、使命感に燃えているところがあった。第二王子として『殿下』称号を得た後は、いっそう、その傾向が強まった。


いつしか。


『ウルフ王国の更なる強国化のために、《水の盾》サフィールをウルフ王国に取り戻したいだろう? もっともっと、金を稼がんとなぁ?』


そう誘い掛け続ける『風のサーベル』の罠に、ウルフ貴公子は、ガッチリとハマって行った。



――サーベルにしても、王子の地位に興味が無さそうに見える『クレド』が、何故に、あんなに誘いに上手くハマったのか首を傾げる所があったのだが。今にして、正体が『リオーダン殿下』と分かってみれば、実に実に、納得するばかりだ。


数年のうちに、元々実力のあったリオーダン殿下は、『風のサーベル』流と言うべき、恐喝を伴う引き込みスタイルを瞬く間に学習していた。そして、同じ手法でもって、ウルフ貴公子マーロウや、ジョニエルと言った、闇取引の手先を作って行った。サーベルの計算通りに。


リオーダン殿下が手先を引き入れる際の口上には、常に『混血ウルフ族である現ウルフ国王陛下の不正行為を暴く』という、御大層な名目が付いて回った。


思慮に富んでいた筈の、かつては『殿下』コースにもあった年長者の貴公子マーロウが、ズブズブと引き込まれて行ったのは、それが理由だ。人間は、信じたいものしか信じないし、見たいものしか見ない。堕ちれば堕ちるほど、そうなる。


昔に行なわれていた三番水の噴水の不正工事にしても、実際に関与したのは別の一族なのだが、たまたま現ウルフ国王の遠縁が含まれていた。それをもって、貴公子マーロウは、不正工事に主体的に関与したのは、現ウルフ国王の関係者だと断じていた。



こうして、ウルフ王国の上層部にまで食い込む、闇ギルドの取引ルートが完成した。


風のサーベルの、もうひとつの顔、『勇者ブランド』魔法道具を扱う闇商人としての権勢は、いっそう強化した。


そこへ、新しく加わって来たのが――シャンゼリンだ。元々は、高額な魔法道具を次々に買っていく、上得意の客の1人だった。


シャンゼリンは純粋な闇ギルド育ちだった。それだけに、変にお高くとまったリオーダン殿下やマーロウ、ジョニエルと言った面々よりも、よほど血に飢えており、肝も据わっていて、サーベルの仲間として優秀だった。


シャンゼリンは、サーベルの直属の手先として、指示に応じて、ウルフ王族や重鎮メンバーの全員に、バーサーク襲撃を仕掛け始めた。それは、『闇取引のブツをもっと寄越せ』という、サーベルからの脅迫メッセージ代わりにもなった。その結果、ウルフ王国がどうなろうが、シャンゼリンにとっては、どうでも良い事。



――やがて。


シャンゼリンが、暇を見ては『闘獣』の《召喚》を繰り返している事に、サーベルは気付いた。


さすがに、シャンゼリンは、レオ族でもあるサーベルを警戒して、詳細を明らかにしなかったのだが。


闇ギルドのツテを辿って、主だった闘獣マーケット業者を幾つか回っただけで、サーベルは、その『闘獣』の存在を確信する事が出来た。


その『闘獣』の、異様なまでに高い生存率――


相当に強い《護符》を身に着けているか、或いは、そのくらいのレベルの守護魔法を使えるか――だ。


奴隷クラスでしか無い『闘獣』の私有財産は、ほぼゼロである――と言う事実を踏まえれば、間違いなく守護魔法使いだと推察できる。そして実際に、《防壁》の類の守護魔法を使っているらしいと言うヒントが、幾つも浮かび上がって来た。


それだけの情報が入手できれば、サーベルには充分だった。そもそも、『飼い主』付きの闘獣は、存在自体、珍しいのだから。


驚くほど強い守護魔法を使う、ウルフ闘獣。しかも、確実に、未婚の若いメス。消息を絶ったタイミング。その後に、何故か急に手応えがよみがえったタイミング。その正体は……



――何をおいても、入手するべき商品だ。そして『調教』次第によっては、もしかしたら、もしかすれば……



サーベルは、レオ大貴族としての表の顔と、闇ギルドの商人としての裏の顔を、縦横に駆使した。


かねてからツテのあった、竜人が属する闇ギルドに、高性能かつ強力な、魔法の拘束具の製作を依頼した。物理的な戦闘能力の高い『獣体』では無く、より抑えの利く『人体』に拘束しておく拘束具を。しかも、魔法感覚や日常魔法をすべて封印する、呪いの機能付きだ。


必要なのは、強い守護魔法の能力だけ。それ以外の、魔法感覚や、攻撃魔法を含む日常魔法と言った能力などは、余計な要素でしか無い。


それと同時並行して、あらゆる可能性を潰すべく、片っ端からウルフ族のメスの『闘獣』を入手し、《紐付き金融魔法陣》の有無をチェックし続けた。そして、調査済みの印の代わりに『奴隷の烙印』を胸の中央に焼き付け、奴隷マーケットに捨てて行った。


中には、人体に戻すと美麗な少女も居た。驚くべきことに、下級モンスター・毒ゴキブリへの『闘獣』独特の『過剰驚鳴』症候群の延長として、下級レベル《防壁/魔物シールド》を発動できる少女も、少ないながら居たのだ。


実戦レベルの《防壁》魔法の能力を示した少女たちは、ちょっとした隙に逃げ出されないように死刑囚用の拘束衣で拘束し、『奴隷妻』の候補要員として、魔法道具の倉庫の毒ゴキブリ対策用として、ハーレムに閉じ込めておいた。


そうしておいて、《盟約》や《予約》が可能な年齢に達した少女たちから、順番に、媚薬や非合法な『花房』魔法道具でもって『奴隷妻』とし、強制的に『宝珠メリット』を捧げさせたのだった。

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