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天窓の上と下、四方(よも)の対決(中)

大広間の方からは、「何が起きているんだ」というような騒ぎが湧き上がって来ている。


大勢の人が慌てたように走り回る足音が、こちらまで聞こえて来る状態だ。ゴロゴロと言う台車の車輪音が、しょっちゅう挟まっている。運び出せる限りの魔法道具を運び出しているのだろう。


レルゴさんやラステルさんが、銀色の《雷光》の異様なまでの超重量級の気配に気付いて、必死で『魔法の杖』で連絡を取ろうとしているんだけど――エーテルの乱れが強すぎて、スムーズに行かないらしい。



「此処で、伝説の《雷攻撃エクレール》をやらかそうと言うのか……!」


いつの間にか、バーディー師匠が、わたしの近くに陣取っていた。その額に脂汗が光り始めている。静かながら力強い、別のエーテル音が流れている――バーディー師匠の『魔法の杖』が、大容量エーテルを溜め始めていた。


――さすが《風》エーテルの性質と言うべきか、《水》エーテルよりも移動が速い。



わたしは、ひたと『風のサーベル』の足元を見つめた。そこが、わたしの《水の盾》の発動の中心だから。


身体全身のズキズキとする痛みが、針を刺すような性質のものに変わった。身体全身が重い。暑くは無いのに、汗が止め処も無く流れる。逆さまに流れる汗って、何か変な気分だ。



――クレドさんは、タテガミの無いレオ族の全裸の大男『風のサーベル』から、視線をそらさない。長剣と化した『警棒』を、片手正眼に構えたままだ。


クレドさんと『雷神』との間で、銀色をした重い《雷光》が、不気味にうねりつつ、のたうつように飛び交う。


あれは、余剰分の《雷光》で構成されている、《捕縛網》の魔法だ。それも、《捕縛網》に触れた瞬間に、即死レベルの感電ショックが身体を貫くと言う、強烈な悪意と殺意に満ちた魔法だ。


過剰なまでの虐待の機能が付いている分、地下牢で無秩序に乱反射していた、あの赤い《雷光》よりも、よほどタチが悪いと思う。


――ハラハラしながらも、見守る事しか出来ないのが、歯がゆい。


でも。あれ?


何故なのか、『捕縛網』の形をした銀色の《雷光》は、クレドさんを捕らえる事が出来ていないようだ。


クレドさんの身に、その悪意のカタマリが絡みついたかどうかという瞬間に、クレドさんの長剣がひるがえり、銀色の《雷光》を打ち払っている。


タテガミの無いレオ族の大男『雷神』は、クレドさんの気迫に圧倒されているらしい。動ける状態だろうに――ピクリとも動いていない。正しくは、『動けない』と言うべきなのか。



「う、ぐおぉ……その、それが、ムカつくんだよおぉぉ!」



遂に正気の限界が振り切れたのか、熟年世代と言って良い風貌の『風のサーベル』は、幼児返りしたかのような喚き声を上げた。


そのまま、サーベルは、すぐにでも発動できる、別の攻撃魔法を披露する事にしたようだ。銀色のエーテル・パターンが一変した。


天頂を指していた黒い《雷撃扇》が、凄まじいエーテル音響を放つ。《雷光》で出来た渦が、竜巻のように空高く巻き上がるや、恐るべきサイズを持つ《雷光》スパイラルとなって下降して来た。


銀色のスパイラル《雷光》から繰り出されて行くのは――殺戮の槍衾やりぶすまだ。


その重い轟音は、一帯を揺るがした。爆発的に広がって行く、破壊的なまでの巨大な衝撃波。



「三尖塔が!」



ラステルさんが緑の目を大きく見開いた。ラステルさんの腰にシッカリ捕まっているメルちゃんも、口をアングリ開けたままだ。


重圧感のある轟音と共に、三尖塔の全体に、一瞬にして幾条ものヒビが入る。白い玉ねぎ屋根を成していた白い建材が、早くも粉砕され、弾け飛んだ。


白い玉ねぎ屋根を持つ三尖塔は、不気味なまでに、ゆっくりと身をねじりながらも、原形を失って行く。


銀色のスパイラルに絡め捕られた膨大な数の瓦礫は、その《雷光》の渦の流れに沿った不自然な落下コースに従って、空中庭園の中央部に向かって、崩れ落ちて行った。



巨大な瓦礫の雨。まさしく、死の雨だ。悪夢の光景だ。



先行して下降して来る銀色の巨大な《雷光》スパイラル――爆発的に繰り出されて来る衝撃波は、ほぼ全ての植え込みと、『あずまや』だった物の残骸を、完膚無きまでに吹っ飛ばして行く。


クレドさんもレルゴさんも、その場で身構えたまま、棒立ちになっていた。対応方法が思いつかないらしい。当然だよ!


――わたしたちも、あの横殴りの魔法の衝撃波で、バラバラになって吹っ飛ばされてしまう!


瞬間、辺り一帯に、バーディー師匠の発動した《風魔法》の、白いエーテル・フラッシュが満ちる。最上級の《風魔法》――《風の盾》による返り討ちだ。


どうやったのか、巨大《雷光》スパイラルが正確に反転して行く。銀色の巨大《雷光》スパイラルの真ん中で、『銀色の太陽』が出現した。爆発的な勢いで銀色のエーテルが燃え上がり、雲散霧消する。



――さすが《風》の大魔法使いの術!



だけど、物理的な瓦礫の雨は降り注ぎ、天井床が、いっそう激しく震えて歪んだ。


なおも運良く残っていた天井床が、見る見るうちに、金剛石アダマント製の骨組みだけになって行く。頭上に崩落して来るのは、かつて三尖塔だった物の、成れの果て。


ラステルさんは、怯え切ったメルちゃんを腰にしがみつかせたまま、ネコ族の軽業師さながらの身のこなしではりからはりへと飛び回り、瓦礫の雨を回避し始めた。


ジントを抱えた格好になっているレルゴさんも、同様だ。レルゴさんは手に持っている長剣を振り回し、瓦礫を砕きながらも、尖塔が倒れて行く軌道から、すっ飛んで行く。


「緊急避難!」


ボロボロに抜け落ちていた、天井面のお蔭だ。


大広間の方でも、元・三尖塔だった物の膨大な瓦礫が大広間を襲って来る――と理解できたみたいだ。わたしのウルフ耳でも、銀色の《雷光》の重低音の合間に、大広間で大勢の足音が変化し始めたのが分かる。


数多の瓦礫が、金剛石アダマントの梁と衝突し、その隙間から大広間へと転がり落ちて行く。瓦礫は、なおも銀色の《雷光》に取り巻かれていて、ひっきりなしにバチバチと言う異音を立てていた。



控えの天井となって広がっていた、水妻ベルディナの青い《水の盾》――


銀色をした重い《雷光》。その銀色のエーテルならではの、重量級の威力は、その青いエーテル膜を、あっさりと打ち砕いて行った。


水妻ベルディナが発動していた《水の盾》の表面に、不吉な銀色のヒビ割れが、無数に走り始めた。大型の落雷さながらの、パワフルな重低音が響く。


痩せても枯れても、超重量級の攻撃魔法だ。バーディー師匠の大魔法使いならではの防衛術で、大幅に威力が削られた筈なのに、ハンパじゃ無い。



――間に合え!



両手に握りしめていた『魔法の杖』が、遂に濃いラピスラズリ色のエーテル光を帯びた。ゴーサインだ。


バーディー師匠がハッとしたように、わたしに視線を投げて来る。特製の《水の盾》の発動の気配を感じたみたい。さすが大魔法使い。


慎重に『魔法の杖』を構え、目標ポイントを真っ直ぐに指す。逆さまに吊り下げられていると言う不自然な態勢のせいで頭がクラクラするし、腕がブルブル震えてしまうけど――


タテガミの無いレオ族の大男――『雷神』の足元を、シッカリと捉えた。『魔法の杖』の先端から、濃いラピスラズリ色をしたエーテルの閃光が走る。



全裸の『雷神』の足元で――まばゆいまでの金色の光が輝く。



その金色の光は、カッチリとした《水魔法》のシンボルの形となって展開した。そのまま、グングンとサイズを増している。元々、大きいサイズになるように設計してたからね!


クレドさんが、ハッとしたように目を見開いた。驚愕の表情を湛えながらも、《水魔法》の金色のシンボルに囲われる前に、器用に飛びすさっている。さすがプロの戦士――正しい直感に、正しい選択だ。



「なにぃ~ッ?! うおおぉぉおぉ~ッ?!」



まばゆい銀色に輝く《雷撃扇》を掲げていた『雷神』は、自身の両足がピクリとも動かない事実に、ハッキリと気付いたようだ。悲鳴に近い叫び声を上げている。


その両足は――裸足の裏は、金色をした《水魔法》のシンボルに、ベッタリ貼り付けられたような状態になってる筈だよ。


――金色と銀色って、エーテル光の種別で言うと、正反対の、陰と陽の関係にある色なんだよね。


バーディー師匠が、話してた。《宿命図》の心臓部を成す《宝珠》が、なかなか壊れないのも、金と銀のエーテルの間にある引力のお蔭なのだと。金と銀。磁極のプラスとマイナス。


銀のエーテルによるエネルギーで全身を満たされている『雷神』、金のエーテルが発生している磁力からは、絶対に逃げられない筈だ。天理と地理と真理――大自然と宇宙の節理を超える事は、とても難しい。



わたしの『魔法の杖』は、なおも、濃いラピスラズリ色に輝き燃えている。



今や、ひと部屋ほどのサイズとなって展開した、金色に輝く《水魔法》のシンボル。それを中心として、遂に、待ちに待った《水の盾》が噴出した。


何処までも濃く透明な、ラピスラズリ色をしたエーテルが――せきを切ったかのように、大量にあふれ出して来る。

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