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入れ替わり立ち替わり・2

――距離はあるけど、こうして顔を見てみると、水妻ベルディナって、華のある美人だ。


元・サフィールは知ってたんだろうけど、わたしは記憶喪失になってしまったから、『ほとんど知らない人』なんだよね。フィリス先生よりは明らかに年上っぽいから30代って感じなものの、20代と言っても通りそう。



やがて、黒髪の第二王子リオーダン殿下と金髪の第三王子ベルナール殿下が、ヴァイロス殿下の後から現れた。


リオーダン殿下とベルナール殿下は、順番に、レオ族の親善大使・リュディガー殿下に表敬の挨拶をしている。リオーダン殿下とベルナール殿下は、2人とも、ヴァイロス殿下と同じように、銀色のサークレットをしていた。


リオーダン殿下とベルナール殿下は、次いで、クマ族の親善大使を務めていると思しき大柄なクマ族の紳士と挨拶を交わしている。公式行事って、色々手続きがあって忙しそうだなぁ。



公平を期すためだろう、ウルフ族の魔法道具の業者の代表が2人ばかりで拝礼した後は、レオ族、クマ族の順番で拝礼が続いた。


他種族の間でも、拝礼の順番が2回ほど巡り続いた後。


新しく拝礼の順番が来て、レッドカーペットに進み出て来たレオ族の商人は、あのレルゴさんだった。脇に、飄々とした様子の、鳥人の大魔法使いバーディー師匠が居る。それに続くのは、まだ青少年と言って良い若手のレオ族の従業員たちだ。まだ短いタテガミが若々しい感じ。従業員たちは、今回の目玉商品らしき品を積んだ台車の運搬係だ。


ジントが早速、ピコーンと反応した。


(あのレオ族の、茶色タテガミのオッサン、この間、クレドと決闘してたヤツじゃんか)


レオ族のレルゴさんは、器用に社交辞令を述べ、目玉商品の端的な説明をしている。ウルフ国王夫妻の前でも、いつも通りの雰囲気だ。心臓が強いのか、こういう場に慣れているのか。いずれだろうか。両方かも。


リュディガー殿下の脇に控えていたランディール卿が進み出て来て、レルゴさんは実績もあり信頼できる人物である事を、ウルフ国王夫妻に説明している。ウルフ国王夫妻は、『成る程』と言った様子で鷹揚に頷き、めいめい社交辞令を返した。



レルゴさんの次に出て来たのは、クマ族の魔法道具ビジネス業者だ。


まさにヒゲ面。ガッチリとした顔立ちに、金茶色のヒゲをモサモサと生やしている。顔の輪郭が分からなくなるくらいに頭髪をモサモサと生やしているのが、会場で見かける平均的なクマ族にしては、珍しいという雰囲気だ。ゆったりとした光沢のある金色のマント姿。気取った風に高い襟を立てているのが、お洒落な風。


辺境回りが多いため、数年単位にしか参加できないでいる事、毛髪の整理が余り出来ていない事を詫びていた。定例の社交辞令を述べた後、自己紹介に続く。


「我が輩は、クマ族『風のフォルバ』と申す。こちらに参ったのは、こちらの品を検分いただきたいが為も御座る。最近、盗品マーケットで入手した品で御座るが、ウルフ王国の国宝級のアンティーク宝物『豊穣の砂時計』では無いかと推察しており申す」


アンティーク部門の人たちの間で、息を呑むような音が続いた。


クマ族『風のフォルバ』が、浅黒い顔に礼儀正しく営業スマイルを浮かべつつ、台車の覆い布を取り払う。


台車に乗っていたのは、確かに大型の魔法の砂時計だった。


――古代の神話で語り継がれている『世界樹』を模したのであろう、見事なデザインだ。


宝玉細工で構成した植物モチーフが複雑に絡み合っていて、その空隙を砂が落ちていく仕掛けになっている。砂は、クネクネと曲がる複雑な経路で落ちて行くんだけど、あんな複雑な経路を組みながらも、時刻をカウントできるように設計してあると言うのがスゴイ。


ウルフ国王夫妻は、老練の政治家だった。落ち着いたポーカーフェイスを続けている。でも、よく見ると、目がキラーンと光っているのが分かる。すぐに、ウルフ国王夫妻は顔を見合わせ、何らかの了解をした様子で、頷き合った。


ウルフ王妃が、シッカリとした威厳のある声で、クマ族『風のフォルバ』に話しかける。


「現物は確かに、我らが至宝と良く似通っています。ですが、贋物も多いのが、アンティーク宝飾品の常。いずれにしても、交渉に入る前に、我がアンティーク部門による鑑定を望みます。よろしいですね?」


クマ族『風のフォルバ』は、優雅な所作で一礼した。



(私の夫の1人とも取引している大物なんだけど、『風のフォルバ』が出て来るなんて、ホント久し振りね。出て来るなり『豊穣の砂時計』をゲットするなんて、さすが、ベテラン業者だわ)


ラステルさんが、白いネコ尾をピコピコ揺らしている。


(でも、あんな風に金色マントを使ったかしら? 彼の好みの色は、どちらかと言うと、オリーブ色なんだけど。辺境回りで、目立たない色でもあるから)


――『豊穣の砂時計』。


いわくのあり過ぎる品だ。マーロウさんが関わった品だけに、どうしても気になってしまう。


台車に乗せられて、アンティーク部門の元へと、静々と運ばれて行く砂時計。


グルグル考えていると、ラステルさんが、ヒョイと振り返って来た。


「気になるのは、砂時計かしら? あの砂時計は、魔法道具でも何でもない、通常の宝飾品なんだけど……それとも、あの金色マントの『風のフォルバ』かしら?」


ヒソヒソ声だけど、急に音声が入って来たから、尻尾が『ビョン!』と跳ねてしまった。ラステルさん、ナニゲに、わたしの注意を引くコツを心得てるよね。さすが、元・サフィールを知る人って感じ。


「あの砂時計、元々は、アンティーク宝物庫から不正に持ち出された品だそうだから……」

「ふむ。そう言うのは多いのよねぇ」


ラステルさんも、その話は承知しているみたい。『ミラクル☆ハート☆ラブ』がガッツリ関わった案件だし、ラステルさん自身、ランジェリー・ダンス女優ピンク・キャットとして活躍していた訳だから、当然かも。


「フォルバは目利きだから、持ち出された品を見つけるのも上手いわ。以前、『白き連嶺のアーチ装飾』から宝玉類が剥がされてバラバラに売り飛ばされたって話を聞いたけど、フォルバだったら、闇に沈んだ宝玉類を全て見つけ出すでしょうね。凄腕なのよ。それだけ、要求も高いけど」


ジントとメルちゃんは、玉座の方を注目していて、口々に無言のセリフを言い交わしている。


(ありゃ。リオーダンの野郎が居ねぇ)

(衛兵の交代だもの。1番目の金髪王子の親衛隊の担当タイムが終わったから、2番目の黒髪王子に移ったのよ。3番目の金髪王子は、これからよ)


――違和感は感じない。


でも『違和感が無い』のも、逆に、おかしいのかも知れない。あのリオーダン殿下は、間違いなく流血事態を企んでいる筈だ。特にクレドさんに対して。何かが進行してる筈なんだけど、それが何なのかは分からない……


クマ族『風のフォルバ』は、アンティーク部門の面々と社交辞令を交わしている。何人かとは既に面識があるみたい。ラミアさんとチェルシーさんが、『お噂は、かねがね』と言うような事を口にしているところだ。


――あれ?


「ラステルさん、フォルバさんと言う人、左腕が無いんですか?」


そう、ほんのちょっとした差なんだけど。


あの『風のフォルバ』と言う金色マントのクマ族、一度も左手をマントの下から出してないんだよね。ウルフ国王夫妻と言葉を交わしている時も、左手を見せなかったような気がする。しかも、体幹の左側の動きがおかしい。


余りにも自然な動きで、さりげない様子だから、見逃すところだったけど。


ラステルさんも、改めて『風のフォルバ』を眺め始めた。


「良く気付くわね。彼は昔、左腕を失ったそうよ。辺境回りは、モンスターに出逢う事も多いから」


――昔? 左腕?


何だか意識に引っ掛かる物があって、モヤモヤするんだけど、何が引っ掛かってるのか、自分では説明できない……

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