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入れ替わり立ち替わり・1

――程なくして。


背後の列柱の方から複数の驚きの声が――特に、アンネリエ嬢の大声が――次々にやって来た。


ケビン君とユーゴ君が、列柱の陰からピョコッと出て来て、事の次第を説明しているに違いない。手に、黒い扇形のアクセサリーのような《雷攻撃エクレール》魔法道具、《散弾剣》を手にして。


アンネリエ嬢と一緒に巻き込まれる羽目になった、若いウルフ族の衛兵たちと野次馬な運搬業者たちも、目撃者として連行されてきて、説明させられている頃合いの筈だ。地下牢からの目撃証言の報告も、上がって来るタイミングだし。


――6人のオッサンな容疑者たちと、チャンスさんとサミュエルさん、変な事を証言してなきゃ良いけど。アンネリエ嬢とは目下、利害関係は無い筈だし、まぁまぁ、まともな内容である事を期待するしか無い。


*****


わたしたちは目下――


大広間の端々をコソコソしつつ、別の目標へと突撃しているところ。


忍者なメルちゃんの案内は、ラステルさんも感心するほど巧みだ。


(元々は、あちこちの水飲み場にあるアーヴ種の状態をチェックするためのルートなのよ)


メルちゃんを先頭に、ラステルさん、わたし、ジントの順で、下級侍女と見習いのための業務用通路を辿って行く。途中で、メルちゃんと同じような見習い少女たちと行き交ったんだけど、メルちゃんの百面相による釈明は、他の見習い少女たちを納得させてるらしい。


(どうやって説得してるの、メルちゃん?)

(あっちも、バレたら困るのよ。カッコいい金髪王子とか黒髪王子とか、親衛隊を『追っかけ』してるんだから)


成る程。いつだったかの剣技武闘会で、女の子たちがキャアキャア言ってたのと、同じ事が進行してるんだ。ラステルさんが訳知り顔で、ニヤ~ッとした笑みを浮かべている。


メルちゃんが、ひとつの水場の陰で、ピタッと足を止めた。


暫し、困惑した様子で、行く手にある複数の水場の陰に居る少女グループを窺う。そして、メルちゃんは眉根を寄せながら振り返って来た。ふんわかし始めている黒いウルフ尾が、ピコピコ振れている。


(おススメの、玉座に近いポイントが、全部、取られちゃってるわ。あの子たち名門出身だから、メルには、場所交換の交渉は難しいの。ちょっと距離が離れてるけど、大丈夫よね?)


――多分、大丈夫だよ、メルちゃん。


ラステルさんが辺りを見回し、ニヤ~ッとした、ネコ族ならではの笑みを浮かべている。


(アンティーク部門の人たちが向かい側に居るわ。私の入手した情報だと、『雷神』は古代アンティーク物、特に古代の魔法道具に目が無いの。『雷神』なら、入手した品の鑑定だの何だの、理由を付けて、すり寄る筈よ。噂のウルフ貴公子マーロウが死んだ今、アンティーク魔法道具の名品をむしり取るための新たな人脈は、ヤツにとっては必須だから)


わたしとジントも、隠れ場所にしているアーヴ水場の隙間から、ラステルさんの注目している方向を窺った。


――ホントだ。向かい側に、アンティーク部門の人たちが居る。


礼装なのだろう赤系統の淑女風な昼用ドレスをまとった、ラミアさんにチェルシーさん。それに、パリッとしたハシバミ色の中級侍女ユニフォームに身を包むヒルダさんが、同じようなユニフォーム姿の女性陣の中に混ざっていた。


多分、マーロウさんの部下にしてタイストさんの研究仲間だった面々だろう、如何にも研究職と言う風の、灰色スカーフをまとった男性メンバーも居る。みんな、アンティーク物の鑑定のための仕事道具、『拡大鏡ペンダント』を首に下げているところだ。


*****


程なくして。


大広間の上手側――玉座のある高台の方が騒がしくなった。同時に、「静粛に!」という通る声も響き渡っている。


ラステルさんが、緑のネコ目をキラッと光らせた。


(ウルフ国王夫妻が登場して来たわね。謁見タイムよ)


――何と、ウルフ国王夫妻!


話に聞くだけだったから、思わず注目してしまう。高台になっている部分は充分に高さがあるから、玉座までの距離はあるけど、全体の雰囲気は分かる感じだ。


注目していると、2つの玉座の脇に2つの人影が立った。落ち着いた中年世代の、どちらも金狼種の男女。頭部のサークレットも、ひときわ堂々とした華やかな造りだ。ウルフ王とウルフ王妃に違いない。2人は堂々たる所作で玉座に腰を落ち着けると、3人の王子と3人の王女から挨拶を受け始めた。


そして、ウルフ王が、良く通る声で話し出した。


「おのおの方、この良き日に祝福を――」


ウルフ王の言葉は終わっていなかったのだけど、不意にラステルさんが目をキラーンと光らせて、アンティーク部門の面々を注目し始めた。おや?



アンティーク部門の方で動きがある。



ディーター先生とフィリス先生が急ぎ足でやって来たのだ。


今日のディーター先生は、何とも威厳のある漆黒のローブ姿だから、お目立ちなんだよね。中級魔法使いなフィリス先生は、いつもの灰色ローブ姿だけど。


2人の魔法使いは、アンティーク部署の女性陣に混ざって来て、ラミアさんとチェルシーさんとヒルダさんに、何かを話しかけていた。


ラステルさんが、ディーター先生を熱心に観察している。


(あの黒ローブの男、確か『地のディーター』よね。上級魔法使いとしての《盾魔法》の腕前は、ウルフ王国トップクラス。それなのに魔法部署の幹部になる事に興味が無い、極め付きの変人。新婚って噂だけど、あの赤毛の美人が、そうなのかしら?)


わお。とっても正確な情報だ。メルちゃんが早速、ウルフ尾をピコピコしている。


(そーよ。あの赤毛の中級魔法使いが、メルの叔母さんの、風のフィリスよ)

(おやまぁ。凄い偶然ねぇ)


ジントが、何かに気付いたように、ウルフ尾をヒュンと振った。


(姉貴が地下牢でやらかした件、爆弾女の方面からオッサンに伝わったみてぇだぜ。目を白黒してる)


成る程、ディーター先生が『魔法の杖』で通信をしながら、驚愕バージョンの百面相をしている。時々、口の形が『ジルベルト殿』とか動くから、通信相手はジルベルト閣下なんだろう。


やがて――


何やら連絡と相談が同時並行で進行していたようで、間も無くしてアシュリー師匠が、アンティーク部門のスペースに現れて来た。お忍びスタイルなのか、目立たない灰色ローブ姿だ。


アシュリー師匠とディーター先生は暫しの間、早口で何かを相談し合った後、フィリス先生に一言二言、結論らしき内容を告げていた。


フィリス先生が困惑した様子で頷くや、ディーター先生は漆黒のローブの裾をひるがえして、大広間の下手の方へと走り去って行く。確実に、予定外と思しき遁走だ。


ジルベルト閣下などと比べると、『上級魔法使いとしての威厳カタナシ』って感じなんだけど、ホントにディーター先生らしい立ち居振る舞い。『極め付きの変人』などという評判も、成る程だ。


ラミアさんとチェルシーさんが、ビックリした様子で、ディーター先生の後ろ姿を眺めている。


近くに居たアンティーク部門のスタッフたちが、ちょっとザワザワし始めたんだけど。


アシュリー師匠が、ディーター先生の代理を務める――と言うような事が、フィリス先生から説明されたみたい。ラミアさんやチェルシーさんも含めて、驚くと共に、落ち着いた雰囲気になって行ったのだった。


――何だか、わたしが地下牢でやらかした件で、色々ご迷惑をおかけしちゃったみたいだ。ゴメンナサイ。


*****


玉座の手前には、大きなレッドカーペットが長々と敷かれている。


名のある魔法道具の商人たちが、目玉商品となる魔法道具を乗せた台車を脇に従えつつ整列している。順番にレッドカーペットに足を踏み入れて前進し、段差の上で睥睨しているウルフ国王夫妻に拝礼し始めた。


段差の下では、豪華絢爛な金髪の第一王子ヴァイロス殿下と、栗色の髪の第一王女オフェリア姫が並び立っている。


その近くに、レオ族の親善大使を務める金色タテガミのリュディガー殿下が居た。4人の正妻も。既にウルフ国王夫妻との社交辞令を済ませていたようで、レオ族の外交代表として、レオ族のビジネス業者たちのサポートに立っている様子だ。


リュディガー殿下の4人の正妻たちの間に、いつだったかのように、レオ王ハーレムの水妻ベルディナが居た。レオ族出身の、第二位の《水の盾》。亜麻色の長い髪に、青い真珠の『花房』付きココシニク風ヘッドドレスを施している。

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