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大広間:右や左の緒戦展開・3終

クラリッサ女史が、アンネリエ嬢をサッと見やる。クラリッサ女史の顔色は、すっかり青ざめていた。


「……《散弾剣》って、我が一族に伝わる大型モンスター対応の《雷攻撃エクレール》魔法道具じゃ無いの! そんな物を地下牢で、最大強度で発動したら……アンネリエ、まさか……?!」


さすがにアンネリエ嬢も、マズイ事態になって来た事を瞬時に悟ったみたいだ。


「あたくしは何も知らないのですわ、叔母様! 現に、あたくし、何者かが動かした台車に挟まれて、殺されるところでしたのよ!」


――わお。さすが、アンネリエ嬢。自己保身の才能がある。


*****


列柱の陰で――


ラステルさんが、緑の目をきらめかせて、パッとわたしを振り返って来た。顔には、明らかに驚愕が浮かんでいる。


(地下牢の中で発動した、大型《雷攻撃エクレール》?! 確かに、それっぽい毛髪の焼け焦げとか、火傷の痕とか、チラホラ見えるけど。五体満足で生存している方が、信じられないわ!)


――え。えーと。そんな驚く事でも無いような気が……


変な言い方だけど、わたしとジントは一応、大きな怪我は無いし、地下牢に居た人も全員、元気なんだけど……


ジントが神妙な顔をして、ピコピコ尻尾で呟いた。


(何で無事なのかは、オレには分かんねぇよ。姉貴が防衛したのは確かだけどさ)

(さすが《水のイージス》ね! ルーリー、後で話を聞かせてもらうわ。タップリとね!)


――え、それは構いませんけど……


そんな無言の応答をしているうちに、先方では、声を出せるくらいには、衝撃から回復したようだ。



「あの2人、まさか既に……いや、それより地下牢の《雷攻撃エクレール》は?」


ドワイトさんが、愕然とした顔をしながらも、確認の質問を出している。『魔法の杖』で通信中の部下が、今にも失神しそうな顔色で応じているところだ。


「いえ、《雷攻撃エクレール》は完全停止しているとか。6人の容疑者と、新しく地下牢に入れていた2人のイヌ族が一部始終を目撃していたそうですが、2人は既に脱獄したと」


ドワイトさんは、信じがたいと言わんばかりに、カッと目を見開いている。


「完全停止……?! 脱獄した……?!」

「今、目撃証言を取っています。地下牢の者は全員、五体満足でピンピンしていますので、すぐに報告が上がるかと」


隊士の一団が、ザワザワし始める。揃って、半信半疑と言う顔だ。


「かの《散弾剣》による最大強度の《雷攻撃エクレール》を、犠牲者を1名も出さずに抑え込んだと言う事か……?!」


ジルベルト閣下とリクハルド閣下が、疑問顔を突き合わせて、見解を交わし始める。


上級魔法使いでもあるジルベルト閣下が口を開いたものだから、ドワイトさんをはじめとする隊士の一団も、クラリッサ女史もアンネリエ嬢も、一斉にウルフ耳をピッと傾けている。


「10年ほどは《雷攻撃エクレール》が乱反射し続ける。その『雷電地獄』の間、ずっと地下牢は使えなくなる筈だ。避難や救出が間に合わなければ、死体すら残らんと言うのが、我々魔法使いの常識だ」

「しかし、ジルベルト殿。《盾魔法》を発動すれば、防衛できそうな気もするが。四大のいずれかの《盾》は、上級魔法使いが発動する、最上級レベルの《防壁》と聞く」


ジルベルト閣下は、「否」と首を振った。


「密閉空間における大型《雷攻撃エクレール》の乱反射は、極めて複雑な現象だ。単に《盾持ち》と言うだけでは、我が身さえ防衛しきれないのだ。多数の《盾》を多段構えでスクランブル展開するための《防衛プログラム魔法陣》を、その場に合わせて構築し、稼働させる必要がある。並みの《盾使い》では到底、対応できん。かのディーター殿でさえもな」


ジルベルト閣下の眉根は、きつく寄せられている。声音から感じられる冷気が、スゴイ。


「――別名『イージス魔法陣』とも言うくらい、イージス級の天才的な《盾使い》にしか扱えない高次元の防衛術だ。成功率も極めて低い。普通は『生きて出られない』と覚悟するしか無い」


驚愕によるものか、恐怖によるものか――アンネリエ嬢が、激しく全身を震わせ始めた。思わず――と言った様子で、口を差し挟んでいる。


「信じられませんわ! ほんのちょっとだけなら、どうって事は無い筈ですわ?!」

「かの《散弾剣》による最大強度の《雷攻撃エクレール》は、『ほんのちょっと』のレベルなのかね?」


リクハルド閣下の、容赦ないツッコミが入る。アンネリエ嬢は『グッ』と詰まったみたい。


そうしている内にも、地下牢と直通通信していたドワイトさんの部下が、慌てた様子で口を開いた。


「魔法の呪文は、あったそうです。『水の精霊王の名の下に。スクランブル』だそうです」


周囲に、再び沈黙が落ちた。


――アンネリエ嬢は、口をアングリと開けたまま、固まっていた。ちょっとつつけば、それだけで失神しそう。


クラリッサ女史が、口を開け閉めしている。仰天しきりと言った様子で何かをブツブツ呟き出したけど、こちらまでは内容は聞こえて来ない。


ジルベルト閣下がサッと『魔法の杖』を取り出し、何処かと通信をし始めた。


しばし、あごに手を当てて思案していたリクハルド閣下が、アンネリエ嬢に、不意に顔を向ける。


アンネリエ嬢の顔が、一瞬にして凍り付いた。絶対零度の眼光を向けられているに違いない。


「私がルーリーに授けた筈の『紫花冠アマランス』を、何故にアンネリエ嬢が所有しているのか、問う事になりそうだな。他の所業の次第によっては、裁判所で再会する事も、あるかも知れん。地下牢の報告が、今から楽しみだ」


アンネリエ嬢は口を引きつらせながらも、抗弁を始めた。


「地下牢に来ていたのは、あたくしだけじゃ無くてよ! クレドが先に入ってったわ! クレドだって、地下牢で何をしていたか分かりませんわ!」


――語るに落ちた。


まさに、それだ。クラリッサ女史が額に手を当てて、呆れた様子で首を振っている。ドワイトさんも硬直していた。想定外の事だったに違いない。


ジルベルト閣下が『魔法の杖』通信を中断して、ゆっくりとアンネリエ嬢に向き直った。今まで無表情だったジルベルト閣下の口元に、笑みが浮かぶ。見る者を凍て付かせるような、氷の笑みだ。


「おかしな事だ。我が甥は、ヴァイロス殿下の代理で、ずっと会場警備に当たっているのだが。思うに、そやつは、アンネリエ嬢に謎の黒い宝玉を持ち出すよう依頼した人物だな。いつもと違う声質をしていて、『声の調子が変なのは、風邪のせいだから気にするな』と言うような事を、言って来ては居なかったかね?」


――図星だったらしい。


いっそう蒼白になりながらも、アンネリエ嬢の目は、思いっきりテンになっている。


本当に、そういう事があったみたい。ビックリだ。


*****


太い列柱の陰で、少年少女探偵団なわたしたちは、素早く視線を交わした。


ケビン君とユーゴ君がビックリした顔で、ウルフ耳とウルフ尾をピコピコさせて来る。


(すげぇ! ホントに地下牢で魔法戦争をやって、脱獄したんだ?!)

(あれ、ホントの『余興の道化師ジャジャジャジャーン』じゃ無かったの?!)


ジントが早速、ピコピコ尻尾で応じる。


(巻き込んで済まねぇ。オレたちは大広間で『雷神』を見つけて、退治する事になってんだ。くだらん爆弾女の相手をしてる暇はねぇんでな、キリの良い所で、あいつらに説明しておいてくれよ。ウソは無しで大丈夫だからな)


ケビン君とユーゴ君は、察し良く頷いている。


ジントは続けて、紺色マントをゴソゴソとやり、黒いアクセサリーを取り出した。


8本の黒い短剣の形をした宝玉細工が、扇形を作るように折り重なっている。


――成る程、見るからに《散弾剣》だ。


(これ、爆弾女が《散弾剣》って言ってた。アブねぇヤツだから、遠くまで弾き飛ばした振りをして、コッソリ隠しといたんだ。オッサンたちに届けといてくれよ)

(本物の《散弾剣》~ッ?!)


手の平に乗るサイズの黒い扇形のアクセサリー。受け取ったケビン君とユーゴ君の方は、仰天しきりと言った顔だ。畏怖と共に恐怖も感じているようで、金色と黒色のウルフ尾が、仲良く総毛立っている。


メルちゃんが、ラステルさんを『チョイチョイ』と、つつき始めた。


(怪しいお客さんとか、魔法道具の商人を1人ずつチェックしたいなら、うってつけのポイント、メル知ってるわ。連れてってあげる)


少しの間、ラステルさんは眉根を寄せて思案をしていた。白いネコ尾が、内心の迷いを反映して、ユラユラと落ち着かなく揺れている。


(ホントは、メルちゃんみたいな小さな子を、更に巻き込んじゃいけないのよ。でも私は、この大広間の構造に明るくないしね。この大広間の中だけで良いから、お願いするわね)

(任せて頂戴!)


わたしたちは、二手に分かれた。後に残ったケビン君とユーゴ君が、『頑張れよ~』と言う風に、金色と黒色のウルフ尾をピコピコ振っている。ホント、良い子たちだ。

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