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大広間:右や左の緒戦展開・2

クラリッサ女史が、首を傾げながらも、リクハルド閣下に声を掛けている。


「我が姪アンネリエが、何故か『紫花冠アマランス』を装着していたのですが……これは、貴殿の一族に伝わる品に違いありませんか?」


リクハルド閣下は、クラリッサ女史の手にあるブレスレット様式の宝飾品を一瞥するなり、驚いたように目を見開いた。


「……何故に、此処に? 我が直属の娘として迎える証に、ルーリーに与えていた物だが?」


そのコメントに仰天したのは、『地のドワイト』と、アンネリエ嬢だ。


「眷属では無く、直属……と言う事は、窃盗では無かったのですか!」

「あれは、あの悪女シャンゼリンの妹ですわ! リクハルド様は、あの闇ギルドの悪女に騙されてらっしゃるのよ! ルーリーは凶悪な犯罪者たちと結託して、世にも恐ろしい陰謀をしてますのよ!」


リクハルド閣下が、不吉なまでにゆっくりと、一団に正面切って向き直る。


信じがたい事に――あのアンネリエ嬢が、口をつぐんだ。『地のドワイト』以下、上級隊士たちも揃って、『ビシィッ』と背筋を伸ばしている。


さすが元・第三王子なリクハルド閣下、相当な冷気と威圧感の持ち主らしい。


「ルーリーが『紫花冠アマランス』を窃盗しただの、陰謀しただのと言うのは、どういう訳なのかね? ルーリーは昨日の日付で、我が眷属の者として、当主たる私の保護下に入っている。なおかつ、当主たる私が、直属として公認している娘だ。口に気を付けてくれたまえ」


ドワイトさんが「ハッ」と応じ、わたしとジントの散々な体験を、新しく判明した事実も付け加えて、説明したのだった。



いわく。


ルーリーとジントの2人は、アルセーニア姫の殺害現場『王妃の中庭』に、誰もが予想だにしなかった、驚くべき手段で――噴水の下水道から――侵入して来た。


くだんの噴水の直下、排水口の壁に、『対モンスター増強型ボウガン』を運び込んだ時に付いたと思しき、特徴的な引っかき傷が発見された。ゆえに、この侵入路が、アルセーニア姫の暗殺に使われたと判明した。


即刻、ルーリーとジントを、もう少し真相が分かるまでの期限付きと言う事で、地下牢に押し込めた。その時、ルーリーは『紫花冠アマランス』と思しき宝飾品を頭部にハメていたので、窃盗の可能性も考慮して、押し込めたと言う訳だ。


――以上。



ドワイトさん自身も、その部下たちも、その後は関知していない。当然だけど。


ジルベルト閣下は、彫像の如き無表情になっている様子だ。並み居る上級隊士たちが恐れを含んだ眼差しでコッソリと窺っているけど、多分、ジルベルト閣下は仰天してるだけだと思う。


クラリッサ女史は忙しく百面相している。一方で、アンネリエ嬢の目には、次第に、『そら、見た事か』と言わんばかりの、満足そうな光が浮かび始めていた。



――そりゃまぁ、こんなタイミングで、今まで謎だった『王妃の中庭』への侵入経路が――アルセーニア姫の殺害プロセスが――すべて明らかになるなんて、普通は思わないだろう。



リクハルド閣下は、思案する格好になって小首を傾げていたけど、すぐに納得が行ったのか、「あぁ」と呟いた。


「2人が何故、『王妃の中庭』に侵入する形で現れたのかは、説明が付く。地下通路ルートが存在していた事に気付いて、検証していたに違いない。偶然ながらジント少年の方は、実の母親から、秘密の地下通路の知識を受け継いでいるのだ。あの2人が、こんなタイミングで、『茜離宮』最大のミステリーを解き明かしてのけるとは思わなかったがな」


ドワイトさんが、不思議そうな顔になった。


「かの2人は充分に怪しいのですが、アルセーニア姫の殺害犯とは無関係だと主張されるのですか?」

「アリバイが成り立たんし、論理的に矛盾があるのでな」


リクハルド閣下は、「フッ」と息をついた。ニヤリとしたらしい。


「君は優秀な武官だが、地のドワイト君、『推理』が必要になる場面は、君が思っているよりも遥かに多いのだ。ミステリー方面の視野を、もう少し鍛えてくれたまえ」


ひと息置くと、リクハルド閣下は、滑らかに語り始めた。さすが元・第三王子。人前でスピーチするのは手慣れている、という感じ。何かスゴイ。


「第一にルーリーは、アルセーニア姫が死亡した時、そもそも『茜離宮』周辺に居なかった。それよりずっと後、つまりヴァイロス殿下の暗殺未遂事件の日に迷い込んで来たのが最初だ。それ以前は、『茜離宮』の近くでルーリーを目撃したと言う証言はおろか、近辺の転移魔法陣の使用記録すら皆無だ」


――そういった諸々は、わたしが現れてから数日の間に、調査されていたデータの中にあるに違いない。クラリッサ女史が、手持ちのハンドバックから半透明のプレートを取り出して、目を通し始めた。すぐに納得顔になっている。


リクハルド閣下の説明が続いた。


「そして、シャンゼリンの死体に現れたという《紐付き金融魔法陣》は、ルーリーの《正式名》を強奪し、その心身を完全なる支配下に置く物だった筈だ。魔法部署との合同調査チームにおいて、上位メンバーを務めていたドワイト君は、当然、その件を知っているだろうな」


ドワイトさんが、「アッ」と言うような顔をした。後ろで、部下の隊士たちが、目をパチクリさせながら顔を見合わせている。


リクハルド閣下が、ことさらに丁寧に説明しているのは、この件について初耳のアンネリエ嬢や、ドワイトさんの部下の隊士たちの事もあるに違いない。


「あれは、モンスター襲撃の真っ最中だったか――容疑者たちの新たな自白内容が、『3次元・記録球』に記録されていたが。くだんのイヌ族『水のニコロ』の証言が暗示する通り、ヴァイロス殿下の暗殺未遂の直後に、《紐付き金融魔法陣》を通じてシャンゼリンに《召喚》された結果、ルーリーは『茜離宮』に迷い込んで来たと理解できる」


――アンネリエ嬢も頭は悪くないようだ。視線をせわしく動かし、金色のウルフ耳をピッと傾けている。


「第二にジント少年は、地下通路からつながる水路で、アルセーニア姫の死亡時刻とほぼ同じ時刻に、母親の死体を発見している。それも、他殺死体でな。アルセーニア姫の殺害犯からすれば、母親から地下通路の秘密を受け継いでいるジント少年は、母親と同様、早々に始末するべき対象となる筈だ」


ドワイトさんもクラリッサ女史も、ギョッとしている。改めて聞いていると、まぁ、それなりに壮絶な経緯ではあるよね。


リクハルド閣下は、ドワイトさんの理解状況を見定めたらしく、すぐに言葉を継いだ。


「地下牢から2人を出して、私の元に連れて来てくれたまえ。私は今朝、攻撃魔法が仕掛けられた脅迫状を受け取ったばかりなのだ。2人の身に、既にアルセーニア姫の殺害犯の手が延びていたとしても、不思議では無いのだからな」


ドワイトさんは、ジルベルト閣下がタイミング良く掲げて来た、透明な保護ケースの中身に、すぐに気が付いたようだ。封筒から飛び散る青白い《雷光》を見て、明らかに顔色が変わっている。


――元・第三王子な重要人物に届いた、冗談どころじゃ無い攻撃魔法が付いた脅迫状。或る意味、ウルフ王国の重鎮メンバーに対する襲撃&暗殺シリーズが続いているって事でもある。



ドワイトさんの部下、紺色マント姿の中級隊士が、『警棒』でもって、地下牢と直通通信をし始めた。


やがて。


その人は、焦った様子で、ドワイトさんを振り返った。顔が引きつっている。


「2人は、地下牢に居ないそうです。地下牢の床や壁に、《雷攻撃エクレール》魔法道具《散弾剣》による、最大強度での使用痕跡あり。見張り担当の衛兵は、全員、それより前に闇討ちを受けて、重傷ないし失神済みだったので、対応できなかったようです……!」



――その場に、痛くなるような沈黙が落ちていた。


最悪の光景を想像してるらしい。良く分からないけど。

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