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容疑者たちの証言のおさらい(後)

次の瞬間、音声付きの画像が復活した。6人の容疑者たちによる、あの不気味な枯れ池での会話の説明が始まった。


――シャンゼリンは、『報酬が足りないよ、報酬が!』と言い返した。そしたらな、フード姿の大男がな、『欲深な女だな! 最高級の隠蔽魔法の宝玉細工じゃ足りないってんなら……』とか何とか――


――フード男は、物騒に唸った。そして、こう言った。『俺は、これから王族との大型取引を控えていて忙しくなる。貴様にやれるものは無い。報酬は、闇ギルドの女らしく、他からむしり取りゃあ良いじゃ無いか。 あの小麦色のお高くとまったウルフ貴公子のヤロウ、アンティーク宝飾品を取り放題だったぜ。今度『茜姫のサークレット』とやらを売りに出すとか言ってたぞ』――


――シャンゼリンは、闇ギルドの女らしく高笑いをした。声だけは、まさに水晶の鈴を鳴らすような美声でな、『アーッハハハハ』とな。『茜姫のサークレットは、あたしの物だよ!』と言って――



そこで、『3次元・記録球』は、ブツッと回転を止めたのだった。


ジントは目を細めて、百面相をしていた。灰褐色のウルフ耳が、高速でピコピコしている。


「不法投棄って、何を不法投棄したってんだ? まぁ『最高級の隠蔽魔法の宝玉細工』っていう方は、今オレが持ってる灰色のヤツの事なんだろうけど……」

「あの枯れ池に、モンスター毒の濃縮エキスを封入する大型容器を3つ、不法投棄したって話だったから……」


――そう。確か、こんな風だった。


アルセーニア姫が暗殺された当日の夜。


夜の闇に紛れて、容疑者たち全員で、『モンスター毒の濃縮エキス』用の大型容器3本を運んだ。


その容器は、恐るべきことに、全て空だった。 いったい何に使ったのか、使用前の容器を運んで来た筈の初期の運搬担当者たちはどうなったのか――は、聞くのも恐ろしいから、聞いていない……


不意に――


ミステリーのジグソーパズルが組み合わさった。雷撃のような直感。


身体全身が総毛立つ。


――その、大型容器の、アルセーニア姫の殺害現場への運搬ルートは……


あの秘密の……地下通路だった?!


「ジ……ジントッ!」

「ウヒョオッ?!」


ジントが灰褐色のウルフ尾を『ビョン!』とさせて後ずさったけど――


今、ジントを逃がす訳には行かない。


ガッツリとジントの紺色マントを捕獲し、グイグイ引き寄せる。勿論、大声を上げる訳には行かないから、ジントの灰褐色のウルフ耳に、ささやき声を詰め込む形になる。


「ジントの、ルル・ママが知ってたと言う秘密の地下通路、他にもあったんじゃ無いの?! ジントがシャンゼリンを待ち構えてた秘密の逃走経路とか、噴水から出る出口――アルセーニア姫が死んでた『王妃の中庭』の、噴水への抜け道ルートも、有るとか無いとか……!」


しばらくの間、ジントの反応は奇妙だった。勘の良いコソ泥なジント、すぐにピコーンと反応して来る筈……


ジントは、目と口をパカッと開けたまま、固まっていたのだった。


――えーと。生きてるよね? 失神してるとか、無いよね? 失神してるなら、往復ビンタをしてでも……


「往復ビンタ、やめれ」


ジントは口を引きつらせて、両手をジタバタさせた。……あれ。ウルフ尾が丸まって……


パッと手を離すと、ジントはゼェゼェ言いながら床の上に座り込んだ。次いで『降参』とでも言うかのようにバッタリと横になって、脇腹を見せて来たのだった。


――あれ? そんなに脅してるつもりは無かったんだけど……


「オレ、クレドに本気で殺されそう」


――何で?


「気付いてねぇのかよ、姉貴。声、戻ってるんだぜ。あのシャンゼリンの妹ってんだから納得だけどさ、声質が、はあぁ……」


え。声帯の強張りと変形が……そう言えば、風邪を引いた時みたいな違和感は無くなっているけど……でも、自分で聞く限りでは、普通の声だと思うけど。それが何で、クレドさんの殺意と、つながるの?


「オレが最初に姉貴の声を耳に詰め込んだって事実は、クレドには絶対バラすなよ。ふひー。リクハルドのオッサンが『水晶の鈴を鳴らすような』って言ってたけど。姉貴、シャンゼリンより余程、声質が上だぜ」


ジントは少しの間、灰褐色の毛髪をシャカシャカとかき回した後、気を取り直した様子で『ムクリ』と起き上がり、灰褐色のウルフ耳をピコピコ動かした。


「……そう言えば……古代は王族の脱出路だったらしいな。あのルート。大の男でも通れるし、あそこだけ、古代ウルフ王国の紋章が続いてんだよ。道標って感じで。コソ泥の経験や技術が無くても、逃走経路がパッと分かる。パッと分かるから、バレたら、追跡もされちまう。コソ泥には不向きなルートだけど……」


ブツブツと呟いた後、ジントは、急に、ディーター先生の研究室の隅に目を走らせた。そこには、魔法の砂時計が設置されている。


「確かめるんだったら、今しかねぇ。オレがシャンゼリンを待ち構えてた所で、巡回の衛兵が居なくなるタイミングだ」


ジントは素早く灰褐色の『狼体』へと変身した。灰褐色の子狼が、その場に出現する。


(こっちの方が早いんだよ。急げ!)


――ていッ!


あっと言う間に視点が半分の高さになる。手足は、ちゃんと『狼体』バージョンだ。よし。


(あれ。へぇー。『紫花冠アマランス』、こうやって額に張り付くんか。ま、いいや……行くぜ!)


――かくして、『狼体』なジントとわたしは『茜離宮』の外苑に飛び出したのだった。


*****


狼の足、速い! すごく速い!


本当は感激している場合では無いんだけど。


丘陵地帯となっている『茜離宮』外苑――まぶしいばかりの緑地が広がるエリアだ。野を越え、散在する樹林を抜け、四つ足で全速力で駆け抜けるって、すごく気持ちいいのだ。


ジントは人目に付かない経路を熟知していて、道案内も上手い。ザッカーさんの部隊の追跡を振り切ってのけたというのも納得の、経路の選択だ。


今日は『茜離宮』で国王夫妻が臨席する社交パーティーが開催されている事になっているから、紺色マント姿の衛兵がゾロゾロ居るんだけど、ほとんど、ぶつからない。


たまに、脇道でスタンバイ中の魔法道具の運搬業者たちが、暇つぶしに「オッ?」と目を向けてくる程度だ。


でも、さすがに『茜離宮』に接近するにつれ、衛兵の密度が増して来る。やたらと動体視力の良いウルフ族の衛兵が気付いて、バッと視線を向けて来るようになって来た。


「さっきの2匹目の『狼体』、何処かの名門か? 何か宝石っぽいの額に張り付けてたぞ」

「俺は見なかったなぁ?」


やがて、こんもりした樹林が見えて来た。子狼ジントがヒョイと身を躍らせて、植込みに飛び込む。わたしも駆け込んだ。勝手が分からないので、植え込みの隙間に『狼体』を『ズボッ』と突っ込ませる形になったけれど。


――ブルルルン。全身に張り付いた葉っぱの欠片を振り落とす。


辺りを見回すと――そこは、植込みと樹林にグルリと囲まれた噴水広場になっていた。大きくも無く小さくも無いから、中型の噴水広場ってところ。広場からは3つの通路が伸びていて、そのうち1つの通路の上には、大きな樹木が枝を張り渡している。


子狼ジントが、灰褐色のウルフ尾をフルフルと振って、その樹枝を見上げた。


(オレ、あの枝の上から鬼婆に飛び掛かって、《隠蔽魔法》の魔法道具をかっぱらったんだよ。鬼婆は向こうの、『茜離宮』の方からやって来てたのさ。バーサーク化イヌ族とバーサーク化ウルフ族をムチで追い立てながら)


成る程、この通路は樹林と石垣の間でジグザグに折れているようだけど、確かに『茜離宮』の方を目指しているようだ。でも良く見ると、正面方向じゃ無いような。


(裏口だぜ、当たり前だろ。今は『炭酸スイカ』の実を集めて置いとく場所になってんな。で、此処のアーヴ噴水は三番水だから、この間の一番水のルーリエ噴水よりは入りやすいぜ)


ジントは噴水をクルリと一回りして、ウルフ尾を『ヒュン』と振った。一瞬、『魔法の杖』から発生したと思しき白いエーテル光が、『ピカッ』と光る。


――ガコン。ゴゴゴ。


この音、地下から来てるよね? 思わずウルフ耳を『ピコッ』と立ててしまう。


目の前の噴水の水が止まったと思うや、噴水プールの底で、驚くくらい大きな排水口が『パカッ』と開いた。


(自動なの、これ?)

(三番水の噴水ともなると、技術が新しいからな。管理しやすいように機械仕掛けになってんだけど、侵入もしやすいって事さ。これ作ったの、密輸に手を染めてた汚職役人に違えねぇって、母さん、笑ってたぜ)


子狼ジントが、おかしそうに尻尾をヒョコヒョコと跳ねさせる。


そうしているうちにも、噴水プールの水が全て抜けた。


子狼ジントが、噴水プールの底に身軽に飛び降りる。わたしも続く。


噴水プールの底にポッカリと開いた、排水口から飛び降りると――そこは既に、地下水路だった。

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