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晴れた昼下がりの笑劇・4終

ジント的には――まさにベスト・タイミングと言うべきか。


もうじき、ジントは、12歳になる所なのだ。つまり男の子にとっての標準的な仕官コース、入隊試験を受ける年齢だ。成長が比較的に早いタイプの子だと、11歳の内に受けるケースが多い。


という訳で――


ジントは早速、ザッカーさんに『これは是非、試してみないとなぁ?』と楽しそうに凄まれた。


そして、速攻で、入隊試験の会場へと連行されて行く事になった。臨時で、即日で、第一王子の所属の親衛隊の隊長さん直々に入隊試験を担当すると言われてしまう程なのだから、ジント、よっぽど目を付けられていたんだね……


もっともジントの場合、ガチの本番で、ザッカーさんの部隊の追跡を振り切って見事に逃げおおせて見せたという『とんでもない実績』があるから、合格は確実なんだろう。


逃走する隙なんか、ある筈もなく。ジントの身柄は、相変わらず襟首をつかまれた格好のまま、バロンさんなヴァイロス殿下の手から、ザッカーさんの手に移った。


事が済んだ後で、ジントをディーター先生の研究室に戻す事については、ザッカーさんが引き受けてくれた。逃げないように、コソ泥をしないように、行動監視付きで。


ジント本人は、『ぎゃふん』と『トホホ』の入り交ざった表情だけど。


――うん、頑張ってね。案外、ジントにとっては、新しい人生が開ける日になるかも知れないよ。


*****


ジントは、楽しそうな顔をしたザッカーさんに襟首をつかまれたまま、『茜離宮』衛兵部署に連行されて行った。


――ちなみに、失神中のアンネリエ嬢の方も、ザッカーさんの部下たちが呼び出されてやって来て、連行して行ったんだよね。アルセーニア姫の遺品『炎のバラ』をどうやって入手したのか、改めて事情聴取しなければならないから。


アンネリエ嬢の、これまでの言及を検討する限りでは、『クレドさんに良く似た偽者』が関わって来た可能性がある。非常に奇怪な証言内容となるだろうなという事が、何となく想像できてしまう。


その人物は。


この間、地下水路で目撃した――あのクレドさんに良く似た、謎の隊士と同一人物なんだろうか。


*****


その後、わたしは、何故に中庭広場に居たのか、聞かれてしまった。今はバロンさんなヴァイロス殿下と、お忍び中だったオフェリア姫に。


考えてみれば、実体は精巧な『化けの皮』とは言え、『火のチャンス』のバラバラ死体を運んでいたところだったもんね。上手くターゲットを仕留めた後、証拠隠滅にいそしむ、殺人犯さながらに。


結果から言えば、わたしとジントとメルちゃんが、おやつの買い出しを兼ねて、魔法事故の後片付けを言い付けられていたという事で、納得されてしまった。


――実は、あの魔法事故さながらの大爆発、周辺に震動が轟き渡るような騒動になっていたそうだ。


大魔法使いなアシュリー師匠の魔法の《防壁》が掛かっていたから、異変に気付いて駆け付けて来た隊士たちが、現場に入れなかっただけで。


バロンさんなヴァイロス殿下が、第一王子の権限で、やっとディーター先生の『魔法の杖』に職務質問を掛けられたそうだ。それも、おやつの刻になってから。つまり、わたしたちとは行き違いだった訳だ。


しかも、ディーター先生は、ヴァイロス殿下の職務質問に対して、飄々とした様子で「ちょうど良い所に来たな」と返信して来た。そして何と、バロンさんなヴァイロス殿下と、ザッカーさんとクレドさんに、あの爆発現場の清掃を依頼したのだと言う。ひえぇ。



ディーター先生、ホントに『極め付きの変人』……



そう言う形で、機密保護を図ったとか……でも、考えてみれば、すごく上手なやり方って感じ。ヴァイロス殿下とザッカーさんとクレドさんを襲って、秘密を聞き出そうとする不審者が、この地上に存在するとは思えない。


そして。


バロンさんなヴァイロス殿下の件。


ヴァイロス殿下は、必要に応じて《変装魔法》で身をやつして、出歩いているのだそうだ。ビックリだ。


この『バロン隊士』は実在する人物だし、本当にオフェリア姫の親衛隊に所属しているメンバーだったりする。『バロン隊士』本人は、ヴァイロス殿下の指示を了解したうえで、別のところに居るそうだ。


当然、アンネリエ嬢は『バロン隊士』を知っているんだけど、それだけに――アンネリエ嬢の方にしたら、今回の件、いっそう混乱の種になりそうだなあ。


彼女が『ヴァイロス殿下がバロン隊士に化けてる件』を触れ回るのは確実だけど、衛兵部署の方で『無かった事』扱いになるのも確実だ。


それに、アンネリエ嬢の行動パターンを見る限りでは、アンネリエ嬢の発言が信用される可能性は、『限りなく低い』と確信しちゃうんだよね。


目下、身元不明で記憶喪失なわたしに関しても、その発言が公的な意味で信用される可能性となると、半分よりも少ない状態だと思う。知り合いも余り居ないし。


オフェリア姫は、『今回のバロン隊士』が、ヴァイロス殿下だと何となく気付いたそうなんだけど。


わたしも『何となく違和感を覚えていた』という件については、意外にガチで、クレドさんと、バロンさんなヴァイロス殿下に驚かれた。魔法使いでも、そこまで観察力のある人物は珍しいという。そんなものなのか。



――改めて考えてみると。


もしかしたら、『闘獣』としての経験と、レオ帝都における『サフィール』としての経験のせいかも知れない。無意識レベルで身に付いた習慣とか、スキルの類。


自分の過去――前世の記憶が全く無いだけに、何だか、自分でモヤモヤすると言うのはあるけれど。


*****


夕方の『茜離宮』公的スケジュールが始まるまでの、一刻から二刻ほどの間。


恐れ多くも、ジントの着替えの調達を、クレドさんに手伝って頂いた。しかも、バロンさんなヴァイロス殿下とオフェリア姫にも、手伝って頂く事になった。


そして更に恐れ多くも、ナンチャッテ・モンスター暴走で粉々になって、しかも行方不明になった、元々のわたしの靴のお代を、オフェリア姫に弁償して頂いた。そして、中庭広場の靴屋さんで、普通の、ハイヒールでは無い方の靴を、2足ばかり調達して頂いた。


あらかた、ショッピングの用件が済んだところで――


4人で、カフェ店の店先に並ぶベンチに、腰を下ろした。


噴水周りの石畳スペースにあったパラソル付きテーブルの方は、モンスターに踏み荒らされていて使えなくなっていたので、カフェ店が予備のベンチを店先に出していたのだ。


中庭広場の商店街は、スッカリ落ち着きを取り戻している。


元・深窓の令嬢で、そのまま王女コースに入っていたと言うオフェリア姫は、こういう庶民的スペースには全く縁が無かったそうで、楽しそうな顔をしている。


バロンさんなヴァイロス殿下とオフェリア姫は、お互いにお忍びで外出するのは、今回が初めてだったそうだ。


普段は公的スケジュールで一杯だから、こういう機会は普通は存在しないのだとか。うん、何となく分かるような気がする。王族って、たいてい忙しそうだもんね。


今回はザッカーさんに『アンネリエ嬢の二重人格を、よーく目撃しておけ』とゴリ押しされて、こういう事になったんだそうだ。この点では、ザッカーさんとアンネリエ嬢に感謝するところ(?)かも知れないね。



ひとしきり、雑談が済んだ後。


バロンさんなヴァイロス殿下が茶を一服し、ジント少年の件について、呆れた様子でコメントして来た。


「あの忍者もどきが、まだ着替えを調達していなくて患者服のままだったのは、まさに僥倖としか言えん。ザッカーの部隊の追跡を単身で振り切ってのけるヤツは、上級隊士どころか親衛隊メンバーでも10人も居ないんだ。『迷子の輪』がうろついているのに気配が無いから、まだ我々の知らない怪現象があるのかと、驚かされてしまったくらいだぞ」


くだんの『チビのコソ泥』が子供なのは確実だったから、衛兵部署の方では衝撃を受けていたんだそうだ。うーむ。


ひとしきり、ジントが、難関中の難関とされている忍者コースに行くのは確実だとか、数日後、宮廷の公式行事として、魔法道具の業界で活動している商人たちとの社交パーティーがあるから、王族としては再び忙しくなるとか、そういう将来の見込みや計画を話した後。


バロンさんなヴァイロス殿下とオフェリア姫は、夕方の公的スケジュールへの対応のため、早々に『茜離宮』へと引き上げて行ったのだった。


予想通り、バロンさんなヴァイロス殿下は、オフェリア姫を片腕抱っこして帰路についていた。

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