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アンティーク魔法道具のミステリー(後)

華やかな金髪の縦ロール巻の髪型をした『火のアンネリエ』嬢は、手の込んだ髪型にするだけあって、人の注目を集めているのが好きらしい。


注目の的となった金髪令嬢は、気取ってクリーム色のドレスの裾をさばき、思案顔で赤珊瑚のアクセサリーをいじりながらも、ドラマチックに首を傾げて見せていた。


「細長い長方形に近いけど、完全な長方形じゃ無いわ。これくらいの長さと幅。両方の端に孔が1つずつ空いてるの」


そう言って、アンネリエ嬢は手を動かした。



――ふむ。意外に大振りなサイズだね。


長辺が、標準スタイルの『魔法の杖』の長さ――手先からひじまでの長さ――を、優に超えている。


そして短辺に当たる幅の方は、一方の端が広くて男性の指4本分。一方の端が細くて男性の指2本分。細い端の方は、丸い端となるように加工されている。各々の端に、女性の人差し指と同じくらいのサイズの孔が空いている。



続きの説明をまとめると、こんな風だ。


平たい板状の物体で、意外に薄く加工されている。ハードカバー冊子の表紙と同じくらいの厚みだ。


黒くて透明な単一の宝玉で出来ているから黒水晶みたいに見えるだけで、素材そのものは別の宝玉だ。丈夫で、落としても割れない。透明な黒さの中、細かい無数の割れ目みたいに、銀色の放電図形パターンが全面に入っている。


雷電シーズンになると、特に静電気が溜まって青白く光る。静電気で埃を吸いつけてしまうので、保管庫の厄介者。大量の静電気を溜め込むために、放電処置なしで急に触ると、本格的な《静電気ショック》の罠さながらに、ビリッと来る。


それで、先祖は、この黒い宝玉製の物体を、『雷玉』と名付けたと言う――


*****


――成る程。


全体像をイメージしてみたけど。


この『雷玉』なる黒いアンティーク魔法道具、本当に奇妙な加工をされている宝玉だと思う。


細長くて平たい板状の魔法道具なんて、半透明のプレートの代わりにも、ならないよね。シーズンごとに、気ままに静電気を溜め込んでいるだけの厄介者。


話を聞く限りでは、『雷滴』のナンチャッテ集合体として、適当に『雷玉』と名付けられるのも納得だ。アンネリエ嬢が『無価値』と断じても不思議では無い品。


チェルシーさんが、しきりに首を傾げながらも、ラミアさんと話し合っている。


「ラミアさん、古代には『笏』スタイルの魔法道具があったわよね。細長くて平たくて、上が四角で下が丸い。似てるわね?」


相づちを繰り返し、白髪の混ざった黒髪をフワフワさせながらも、ラミアさんは疑問顔になった。


「でもねぇ、それは普通、孔が無いのよ、チェルシー。何のために孔を空けるの? 孔を作ったら、そこで魔法パワーが乱れちゃうじゃない」


ラミアさんの指摘は、正確なものだったみたい。チェルシーさんが、ちょっと首を傾げた後、「あっ」と言う顔になっている。


「そう言えば、『笏』スタイルの魔法道具は、どちらかと言うと、王侯諸侯の贈答品としての意味合いの方が、大きかったのよね。ウッカリしてたわ。ラミアさんの先祖は、それで成功してたとか」


自信タップリな様子で、ラミアさんは頷いている。この辺り、ラミアさんは専門家並みの知識を持ってるみたいだ。


「まさに儀礼用の品だったのよ、チェルシー。見かけが立派な割に魔法パワー効率が悪いから、『笏』は、魔法道具としては、早々に廃れてしまった。そして、あらん限りの宝飾細工を施す『宝玉杖』と、『正字』による魔法陣と宝玉細工を組み合わせた魔法道具、『宝器』の全盛期が始まったんだわ」


興味深い内容に耳を傾けていると、コンテナの陰に身を潜めていたジントとメルちゃんが、わたしの青磁色の上着の裾をチョイチョイと引っ張って来た。


――何?


ジントとメルちゃんは、緑地の中で土が剥き出しになっている部分で、図解を描いていたようだ。


わたしがヒョイと地面に目を向けたので、傍に居た小物屋の初老の店主さんも、「おや」と言った様子で、視線を合わせて来た。


「姉貴、話を聞いてるとさ、これ扇の一部なんじゃねぇか?」

「ジグソーパズルだよね」


地面に描かれているのは扇の図解だ。わお。元が扇スタイルだったのであれば、何故に上と下の両端に孔が空けられているのかも説明できるね。普通の糸だと切れちゃうから、魔法加工の掛かった、もっと強い糸を通して、連結する事になるだろうけど。


「おお。これは盲点でしたな」


初老な店主さんが、感心したように溜息をついた。コソコソしているジントとメルちゃんに配慮して、店主さんは、内緒話レベルの大きさまで声量を押さえてくれた。よく気が付く御方だ。有難うございます。


「扇の橋として製作された物だったのなら、話に聞く奇妙な板状の黒い宝玉は、他にも多数あって、方々に散らばっていると言う事になりますね。小物屋としての私見で言えば、36橋も集めて連結すれば、最も美しい比率の扇として整いますよ。ただ宝玉製で、かなり大きな物になりますから、全体の重量から言っても、成人男性で無いと扱えないでしょうね」


――そうだよね。手に持つにはデカすぎる。むしろ、室内装飾に向く大きさだと思う。


ジントとメルちゃんは、初老な店主さんからの確証を得て、得意満面になっていた。ウルフ耳が揃って、ピコピコしている。ジントとメルちゃんは、店主さんに「いぇぃ!」と言わんばかりに、コミカルなガッツポーズをして見せた後、地面に描いていた図解を、サササッと始末したのだった。



それにしても、《雷玉》……扇の形をした、本格的な《静電気ショック》の罠のような魔法道具……



――何だか、思い当たりのあるキーワードだな。


図書室で見かけて、手に取った本の中に、そんな内容が書かれていたような気がする。


鳥人が発明した、《雷撃》仕掛けの地下迷宮ダンジョン。《雷撃》の罠のあるゲートには、《雷撃》を発動する、扇形の装飾品の振りをした、魔法道具が仕掛けられていた――と言う。


――地下迷宮ダンジョンの迎撃用の、室内装飾系の魔法道具『雷撃扇』。


でも、断片となって散らばっていたとして、36ものパーツを集めるのは大変な筈だ。


ちょっと非現実的な気もする。


小物屋の初老な店主さんの見立ては、急所をズバリと突いていると思う。でも、店主さんはアンティーク魔法道具の専門家じゃ無いんだよね。此処で、ちゃんとした結論を出せるかどうかと言うと……やっぱり、難しい。


――バーディー師匠は鳥人だから、鳥人の発明した魔法道具に詳しい筈だ。あとで、バーディー師匠に相談してみよう。


*****


ウッカリしてた事なんだけど。


わたしたち、金髪の縦ロール巻のアンネリエ嬢がもたらした新たなミステリーについて、各々で考え込み、考えを話し合っていたので、まるで気付かなかったんだよね。


――2人のイヌ族、『火のチャンス』さんと『火のサミュエル』さんが、失神から回復していた事に。


ちょうど、目下のターゲットとなっていた金髪のアンネリエ嬢は、3人の紺色マントの隊士が傍に居たので、傍目には、3人の隊士によって警護されている形になっていたんだよ。しかも、ザッカーさんと、クレドさんと、バロンさん。


バロンさんが強いかどうかは分からないけど、ザッカーさんだけでも、充分に恐るべき相手。


だから、自然、チャンスさんとサミュエルさんの狙いは、『オフェリア姫&チェルシーさん&ラミアさん』と、『わたし&ジント&メルちゃん&初老な店主さん』の間を行き来する事になった。

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