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アンティーク魔法道具のミステリー(前)

――と。そこへ。


「おーッ! ヤァヤァヤァ! 金毛の縦ロール巻の美人、新顔のウルフ女じゃねーか!」

「オレに《宝珠》を捧げてくれれば百人力に千人力、今宵はカワイコちゃんを眠らせないからね、ワン!」


場違いなまでの陽気な口上と共に、ピリピリした雰囲気を華麗に無視して飛び込んで来たのは――


やはり、あの金髪イヌ族のナンチャッテ色事師な渡世人にして、トラブルメーカー『火のチャンス』だった。それに、いつの間につるんでいたのか、同じイヌ族の、黒茶色の毛髪『火のサミュエル』も一緒だ。


先ほどの2種類の声は、この2人の物だったらしい。


この2人、確か、前回は病棟の総合エントランスで派手な乱闘をやらかしてたんだけど。何かがあって、協力関係になったって事だろうか。


それにしてもチャンスさん、いつも変なタイミングで登場するんだなあ。それに、あのボワッとした不思議な髪型が、まだ続いている。


チャンスさんもサミュエルさんも、片手に、ズッシリとした風の、謎の風呂敷包みを下げている。重すぎたので半分に分けて運んでるって所らしい。半分になっていても、見るからに重そうな包みなんだけど、ちゃんと持ち歩けていると言う事は、大柄な男ならではの筋骨のお蔭なんだろう。


2人のイヌ族の男たちは、ひときわ目立っている金髪の縦ロール巻の髪型なアンネリエ嬢を、ターゲットと定めたようだ。


尾を左右にブンブン振りながら、一直線に駆け寄って来ている。一方の手に風呂敷包み、もう一方の手に、何やら見覚えのあるような、ギラギラした『赤い何か』を持っている。



アンネリエ嬢は、わたしに対する種々雑多な難癖を夢中で考えていたと言う事もあって、集中力がそれていたらしい。


何でか分からないけど、『他人の悪口を言っている時が楽しい』という人は居て、人によっては、ついつい周りを失念しちゃうのが普通らしい。


アンネリエ嬢も『他人のアラを探し出して騒ぎ立てる』という性質のようだ。2人のイヌ族が土埃を巻き立てて『バババッ』と接近して来るのを、失念している様子なんだよね。



チャンスさんが、サミュエルさんに一歩リードして、『フィニッシュ!』とばかりに『シュバッ』と高く飛び上がる。


わたしはギョッとして身を引いた。チャンスさんとの間に、コンテナを乗せた台車を挟む形で。


「キャーッ!」


不意を突かれたアンネリエ嬢は、チャンスさんに、あの『花房』付きカチューシャ型ヘッドドレスを見事、頭に乗せられていた。あの、毒々しいまでに真っ赤な魔法アクセサリーだ。


アンネリエ嬢の毛髪は、当然ながら、蛍光黄色と金髪のマダラになった。黄色系統なんだけど、こうしてみると、なかなか凄まじい取り合わせだ。


滅多に宮殿から出ないのだろうオフェリア姫は、この摩訶不思議な魔法のアクセサリーに仰天したみたいで、切れ長の栗色の目を真ん丸く見開いている。


ラミアさんとチェルシーさんは、さすがに、この毒々しいまでに真っ赤なヘッドドレスが、トラブル満載な品という事を承知している――2人は素早くオフェリア姫を引きずって、後方へと下がった。


「無礼者ッ!」


アンネリエ嬢は激怒して、毒々しいまでに赤い『花房』付きカチューシャ型ヘッドドレスを振り払うやいなや、キラキラしたハンドバッグから、『魔法の杖』を取り出した。そして、チャンスさんに、ビシッと突き付ける。



此処での話だけど、アンネリエ嬢の『魔法の杖』は特注の物だった。


宝飾細工が施されている、如何にも貴族な豪華な品だ。杖全体に、豪華なバラが巻き付いているようなデザイン。持ち手の部分にまで、金銀や宝石を取り揃えた装飾がされている。更に、根元の方に紐を通して、護符と思しき赤い宝玉細工を取り付けてある。


――あんなにゴテゴテと余計な装飾が付いていたら、魔法パワーが安定しない筈だよ。注文を受けた宝飾細工の職人の方は、エーテルのバランスが崩れないように、可能な限り頑張ったんだろうけど。



瞬く間に、チャンスさんを――大量の《火》エーテルが取り巻いた。


「ヒョオォオ!」


チャンスさんを取り巻いた《火》エーテルは、ブワッと膨れながらも赤く輝いた。まさに《火炎弾》だ。溜め込んでいた静電気の影響もあったのか、パチパチと言う赤い火花も盛大に飛び散っていて、ちょっとした派手な花火の妖怪だ。


チャンスさんは、全身から赤い火花を撒き散らしながら、通りの真ん中に吹っ飛んで行った。


サミュエルさんも巻き込んだ。


2人のイヌ族は仲良くドッキングし、なおも赤い火花に取り巻かれながらも、2倍の大きさの《火炎弾》となって、ちょうど、そこに並んでいる遊戯ゲーム系のミニ店舗の前まで、ゴロゴロと転がって行ったのだった。


そして、再び『ボボン!』と軽い爆発音を立てながら止まった。黒い煙が立ち上っている。



初老な店主さんが、「おやまあ」と声を上げた。


遊戯ゲーム系のミニ店舗の店員も、野次馬といった様子で店内から顔を突き出して来て、それぞれのウルフ耳をピコピコさせながら、口々にコメントを交わしている。


「いつか、こうなると思ってたよ」

「ねぇ~」


2人のイヌ族の男は、静電気ショックと爆発ショックのダブルが意外に強烈だったのか、失神していた。


チャンスさんは、自慢なのであろう金髪が見事に焼け焦げて芸術的なパンチパーマになってしまっているし、サミュエルさんは、この日のために決めたのだろうフリル満載のファッションが、すっかりススだらけになっていて真っ黒だ。


「何だ? こいつら、ジョーク系のトラブルメーカーなのか?」

「……の、ようですね」

「まぁ、あの『火のチャンス』じゃあな。片方は、この辺では新顔らしいが。この荷物は何だ?」


まさに今しがた、通りがかった――と言う風の、休憩中と思しき紺色マントの3人の隊士が、2人のイヌ族をのぞき込んで、呆れたように言葉を交わしている。相変わらず店内から顔を突き出している野次馬な店員さんたちを呼び出して、何やら事情聴取を始めていた。


*****


――ラミアさんが、不意に目をキラーンと光らせた。好奇心タップリという感じで、白髪混ざりの黒髪がフワッと膨らんでいる。


アンネリエ嬢の『魔法の杖』の根元からぶら下がっている、真紅の色をした護符。真紅のバラを模したと思しき、アンティーク風の見事な品だ。


「アンネリエ嬢、さっきの《火炎弾》、その『魔法の杖』に付いてる、その護符の影響なの? アンティークっぽいけど、魔法のアクセサリーなのかしら?」


金髪の縦ロール巻のアンネリエ嬢は、得意そうに身を反らした。豪華すぎる『魔法の杖』を掲げて、真紅のバラを模した護符を見せびらかす。


「ええ、『身辺安全の護符代わりに』って事で、クレドに頂いたの。我が一族に伝わっているアンティーク宝玉と交換にね。これ程に威力があって、コントロールも簡単になるとは思わなかったわ」



――確かに、由緒のある品っぽい。


手の平サイズの格式のある宝飾品という風だけど、巧みに《火炎弾》攻撃魔法の魔法陣が組まれているのが分かる。あの威力も成る程だ。配線が整理されていないし、古い時代の魔法陣っぽいのに、スゴイ。確実に、宝飾の名工とも称えられた往年の魔法職人による作品だろう。



オフェリア姫が身を乗り出して、真紅のバラを模した護符をジッと観察した後、首を傾げた。


「これ、アルセーニア姫が護符として持っていた品と、良く似てるわ。他にもあったって事かしら?」


ラミアさんとチェルシーさんは、オフェリア姫の指摘でギョッとしたように、一瞬、目をパチクリさせた。そして、どちらからともなく顔を見合わせて――顔色を変えた。おや?



ポカンとしているアンネリエ嬢を差し置いて、ラミアさんは素早く真紅のバラを模した護符を取り外した。


「アンネリエ嬢、それ、良く見せて!」


ラミアさんは、かねてから首に下げていた拡大鏡ペンダント――これは、アンティーク部署の人たちの常備品でもある――を構えて、観察し始める。心配顔で見守っているチェルシーさんの傍で、ラミアさんの顔色は、本格的に真っ青になって行った。


「チェルシー、拡大鏡でダブルチェックして。私の目に狂いが無ければ、これ、今は亡きアルセーニア姫の遺品よ」


続いて、チェルシーさんも拡大鏡を取り出して、眉根を寄せて、真紅のバラを模した装飾品を注目し始める。


チェルシーさんは、柔らかな色合いの金髪をした、ラミアさんと同じシニア世代の淑女にして奥方という風なんだけど。こうして仕事道具を扱っているのを見ると、若い頃はホントに、ビジネスウーマンだったんだなという雰囲気。


やがて――チェルシーさんの表情を見る限りでは、チェック結果は同じだったらしい。ラミアさんとチェルシーさんは、再び視線を合わせた。無言の了解が行き交った様子だ。


ラミアさんが難しい顔をしつつ、アンネリエ嬢をチラリと見やる。


「信じられないわ。これ、アルセーニア姫の死亡の際に、アンティーク部署に戻って来ている筈の品だったんだけど。マーロウさんの事件の後の緊急チェックで、アンティーク宝物庫から紛失している事が判明していた品――アンティーク魔法道具のひとつよ。どうして、此処にあるの?」


アンネリエ嬢の顔が、瞬時に強張った。疑惑の目が集中したのを、理解したらしい。


「あ、あたくしは何も知らないわ! 魔法道具の交換で、もらった……クレドから頂いただけだもの!」

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