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中庭広場、再会と奇遇と困惑と(中)

中庭広場の真ん中には、最初に来た時にも見かけた、大きな噴水がある。可動型の玉ねぎ屋根が取り払われていて、昼下がりの陽光の下、流れる水がキラキラとしていた。


噴水のある庭園中央ラインは、噴水周りの石畳スペースを除いて、芝草が生える緑地となっている。中庭広場の長辺方向に、街路樹が適当に行列を成して生えていた。その間に、いつものように、パラソル屋根を備えたカフェテーブルが並んでいる。



メルちゃんが少女趣味な雑貨屋さんで立ち止まり、物色を始めた。少女向けの可愛いアクセサリーが並んでいる。こういうのが気になるお年頃だからね、よく分かる。


ちょうど隣にあるのが本格的な宝飾品を扱っているお店で、ジントの目がキラキラと輝き出した。コソ泥としての本能を刺激されているんだろうけど、此処では、ダメだよ!


ハラハラしながらジントの方を見張っていると――


その宝飾品店から、如何にも貴種のご令嬢な、金狼種のウルフ女性が2人、出て来た。わお。



――1人は、オフェリア姫だ! お忍びなのかな?!



オフェリア姫の方でも、わたしに気付いた様子で、目を大きく見開いた。


「まぁ、奇遇だわ、ルーリー!」

「ルーリーですって? この子が?」


オフェリア姫と連れ立っているのは、見事な金髪のウルフ令嬢だ。如何にも貴族令嬢って感じ。縦ロール巻も念が入っていて華やかだ。


こうしてみると、オフェリア姫はセレスト・ブルーに白いレースを合わせたドレス、もう1人の縦ロール巻の令嬢はクリーム色のドレスだけど赤珊瑚のアクセサリーを合わせていて、シッカリ各《霊相》生まれのサインがある。金髪の縦ロール巻の令嬢は、《火霊相》生まれなんだろうなと分かる。


ジントは、いきなり2人の貴族令嬢が出て来た物だから、コソ泥としての習慣なのだろう、サッとコンテナの陰にしゃがみ込んだ。一見、コンテナが台車にシッカリ固定されているかどうか、留め具をチェックしている風だ。忍者さながらの技術。感心しちゃう。



金髪の縦ロール巻の美麗な御令嬢は、何故か、いきなり感情が沸点に達した様子だ。ブランド物の靴を装着中の足をバンと踏み鳴らし、わたしの前に立ちはだかって来る。


――ただし、台車を挟んで、だけど。


「確かに、この青磁色の上着、ラウンジの方で見たわ! 確かに! あなた、あの日、クレドに片腕抱っこされながらも、失礼にもジタバタしてた、身の程知らずの子ね!」


――はぁ? ラウンジ?


わたしは少しの間、考えてみた。そして急に、思い当たる記憶が飛び出して来たのだった。


ラウンジと言えば、マーロウさんの事件の経過報告を兼ねた、夕食会があった。あの時、確か、クレドさんがグイードさんやディーター先生やフィリス先生に随行して来て、事件について説明してくれたんだっけ。


という事は、あの夜、あのラウンジの何処かで、この金髪の縦ロール巻の美麗な御令嬢も、誰かと夕食会をしていたって事なんだろう。


そして、夕食会が一段落した後、クレドさんは――


――そこまで思い出した瞬間、尻尾が、ピシッと固まるのを感じた。尻尾は、最初の時のように、惨めにペッタリとした毛並みになってしまっている状態だけど。



あ……あの時。あの夜――


……わたしってば、尻尾でもって、恥ずか死ねる告白を……!



わたしの口が引きつったのを、金髪の縦ロール巻の令嬢は、如何なる風に解釈したのか。


如何にも貴族な令嬢は、身を反らして両手を腰に当て、まさに『あたくし、お怒りですのよ』スタイルになった。


オフェリア姫は目を大きく見開いていて、まさに困惑顔だ。金髪の縦ロール巻の令嬢をなだめようとしているけど、後ろで手をワタワタさせてるだけでは――絶対に、このヒト、気付かないと思うんだよね。スッカリ、イッちゃってる。


ジントは、コンテナの陰にしゃがみ込んだまま、見物人を決め込んでいる。


穏やかならざる(ただし面白そうな)雰囲気を感じて、メルちゃんも興味津々で、無関係な見物人を決め込んでいた。メルちゃん、無駄に諜報力、スゴイね。



金髪の縦ロール巻の令嬢は、ドラマチックに声を高めて、糾弾を始めた。


「あなた、卑劣にもクレドに『金色の盗聴カード』を仕掛けてたのよね! あなたの卑劣なストーカー行為の証拠は、ちゃーんと、此処にありますのよ!」


そう言うが早いか、縦ロール巻の令嬢は、キラキラしたハンドバックから『金色の盗聴カード』と思しき物体を取り出し、わたしの目の前でブンブン振り回したのだった。


――見覚えのあるような無いような物体だなぁ。これを、わたしが、クレドさんに仕掛けた……?


首を傾げている間にも、金髪の縦ロール巻の令嬢の弾丸スピーチは続いた。


「ストーカーを止めないと、あたくしの一族の者が黙ってませんからね、ナンチャッテ暗殺者なくせに、フン! クレドは第五王子ジルベルト閣下の一族、純血の貴種にして貴族、あなたのような混血の最下層のミソッカスが近づいて良い貴公子ではありませんのよ!」


――はぁ。確かに、わたしは出自の怪しすぎる混血では、ありますけど……


母親のキーラは、間違いなく闇ギルドの女だったし。姉のシャンゼリンにしても、リクハルド閣下の領地を血まみれにしてのけたり、ここ『茜離宮』でも流血の旋風を巻き起こしてのけたり……


それにしても。『金色の盗聴カード』。ストーカー用の魔法道具なんだろうか。使った覚えって全く無いんだけど。


わたしが、首を傾げている間にも。


金髪の縦ロール巻の令嬢は、お見事というべき優美な仕草で、魔法道具の一種と思しき『金色の盗聴カード』をキラキラしたハンドバックに収めた。如何にも、これみよがしに『犯罪の証拠だからね』という風だ。


かくして、金髪令嬢は、豊かな胸に手を当てた。


「良くって。クレド隊士が本来、護衛しているのは、何処の闇ギルドの『イヌの骨』とも知れぬ、卑しい『金色の盗聴カード』使いのストーカー女じゃ無くて、このあたくし、王族の最高位の眷属たる貴族令嬢『火のアンネリエ』ですのよ。よーく覚えておくのね!」


――はぁ。わざわざの自己紹介、どうも有難うございます。


王族の最高位の眷属『火のアンネリエ』と名乗って来た金髪の縦ロール巻の美麗な御令嬢は、更にツンと身を反らして来る。


「魔法道具を使ってまでのストーカーの件、直々にジルベルト閣下と閣下夫人からも、あなたに抗議が行く筈よ。このあたくし、国宝級の《盾持ち》アンネリエの慈悲が欲しければ、あたくしを怒らせるんじゃ無いわよ!」


――『金色の盗聴カード』の件と言い、何だか色々、誤解があるような気がする。


それにしても……何だか妙な口上だなぁ。国宝級の《盾持ち》。つまり、このアンネリエ嬢は『イージス称号』って事なんだろうか。《火霊相》って事は、《火のイージス》になるんだろうけど……


改めて考えてみると、確かに、ジルベルト閣下には氷の眼差しで睨まれたし、呆れられたし、あの秘密会談な昼食会の結果は、よく分からない妙な物になったけど……ホントに抗議が来るんだろうか。


そう言えば、あの《盟約》の時、クレドさんの額に、かじり付いていたんだっけ。えっと。だんだん、何だか、それっぽくなって来た? うわぁああ。



あの初老の店主さんの小物屋さんから、まだ完全には離れていないと言うポジションだ。初老な店主さんが驚いた様子で、店の入り口から顔を出して来た。初老な店主さんは、口をポカンと開けて、糾弾を続けているアンネリエ嬢をマジマジと眺めているところだ。


そりゃあ、こんなに美麗で目立つ貴族令嬢、宮廷では普通なんだろうけど、この辺では珍しいよね。

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