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中庭広場、再会と奇遇と困惑と(前)

「大人って、きったねぇ!」


特に実父について三度目の白状をさせられたジントは、おやつの刻になっても、プリプリしている。


でも、考えてみると、相手の方が、何倍もの人生経験を積んでいるんだよね。闇ギルドの勢力との駆け引きも、経験豊富な筈だ。


いきなり現れたコソ泥なジントだったし、これまでの先触れからして重要参考人と見なされていたのは、確実。ジントが疲れてグッタリとしている間に、《宿命図》判読――ないしは解読レベルでの調査があったんだろう。


大魔法使いが2人も居るし、《宿命図》を読める上級魔法使いと中級魔法使いが揃っていて、ジントみたいな要注意人物の《宿命図》チェックが見逃されている方が、有り得ない事だった。


わたしとジントの意外な血縁関係について、『最大の秘密』扱いにしていた事は、ジントの都合もあったからなんだけど、『非常に賢い判断だった』と評価された。


メルちゃんの方も、口を噤んでいたと言う実績が評価されて、今のところ、《暗示》による忘却の処置は無しという事になっている。



――ちなみに、おやつは買い出しだ。ジントの食欲、スゴイからね。



わたしとジントとメルちゃんは、3人で連れ立って、中央病棟の中庭広場に並ぶ、ミニ商店街を訪れているところだ。ついでに、患者服な生成り色のスモック姿が続いているジントに、適当に着替えを見繕う予定も、あったりする。


わたしも適当に着替えを追加しておかなきゃいけない立場ではあるけど、成長期なジントの着替えストックの方が、難度の高いクエストになりそうだ。


或る程度、ジントの今後の成長をカバーできるように、大きめのサイズとか、伸縮性のある製品を選んだ方が良さそう。この辺の事情ってよく分からないから、経験者な大人の男性のアドバイスが欲しい所だ。



目下、全員、近場への外出の自由と引き換えに、常時監視用の『迷子の輪』をハメられている。


しかも、この『迷子の輪』は、2人の大魔法使いによる厳重なロック付きだ。『いきなり行方不明になった』と言う前例を作ってしまったし、行方不明になったうえに想定外の危ない目にも遭ってしまったから、100%納得するのみの処置ではある。


この『迷子の輪』処置は、ジントの『コソ泥の七つ道具』の返還と引き換えでもあるから、ジントはプリプリしているけど、何も言えない状態だ。『完璧にやり込められる』って、こういう感じなんだろうなぁ。


ついでながら――


わたしたちは、特別なコンテナを台車に乗せて、中庭広場の端にある『エーテル燃料の集積場』へ運んでいる所でもある。


このコンテナの中身は、『火のチャンス(化けの皮)』のバラバラ死体だ。高濃度に圧縮されたエーテルのカタマリなので、血の滴るモンスター肉以上に燃えるエーテル燃料になると言う。


以前、ボウガン襲撃事件の際に合成されていた《地の盾》も、剣技武闘会の事故の際に水妻ベルディナが合成していた《水の盾》も、こうして、『茜離宮』の方にある『エーテル燃料の集積場』へと運ばれて、処理されていたそうだ。


ジントは早速、ボリュームのある軽食コーナーを見定め、目玉商品のツヤツヤとした大粒の葡萄をゲットした。すごい眼力。わたしとメルちゃんも、5粒くらい頂く。今が旬なんだろう、甘くて美味しい葡萄だ。



そして、わたしたちは見覚えのある店舗の前に来た。小物屋さんだ。


――えーっと。確か此処で、『ウルフ耳付きヘッドリボン(黒)』を調達したんだっけ。随分と前のように思えるけど。


ジントがヒョイと店舗の中をのぞき込み、目をキラーンと光らせた。


「あれこそ、オレが想定してたブツだよ!」


いつかお世話になった初老な店主さんが、ビックリして「いらっしゃいませ」と、入店して来たジントに声を掛けている。そして、続いて入店したわたしとメルちゃんを見て、「おぉ」と驚きの声を上げて来た。


「おや、これは。いつかの可愛いお嬢さんたちですな。こりゃ、ルーリーさんは『耳』が復活したんですか。完治、おめでとうございます」


――気に掛けて下さって、有難うございます。名前も覚えて下さっているとは思いませんでした。


「メークを少し施しただけで、あんな上品で美麗な御令嬢に仕上がるとは思いませんでしたからね。印象深いお客様でしたよ、ルーリーさんは。今日の淡い青磁色の上着も、お似合いで御座います」


――そ、それは持ち上げ過ぎのような。患者服な生成り色のスモックはともかく、この上着はチェルシーさんのお手製なので、チェルシーさんの腕前のお蔭かと……


オタオタしている内に、ジントが2つばかり、商品を選んでやって来た。


「コレとコレ、くれ!」

「毎度、有難うございます。おや。『手品師も驚くマジックの収納袋』は分かりますが、こちらの『手品師の変装、黒ウルフ耳キャップ付き三角巾』は、いったい……?」

「この姉貴に付けてやるんだよ」

「でも、ルーリーさんは『耳』が復活したのですから、これは必要ないのでは?」


ジントは、イタズラ小僧さながらの、下心を満載した笑みを顔いっぱいに浮かべた。


「ビックリさせてやりたいヤツが居るんだよ。そいつは前々から姉貴にアレなんだが、すっげぇ癪に障るヤツなんだ。オレの基準から見て充分に合格なんだけど、でも、一度、ビックリさせてやらなくちゃ、オレの気が済まねぇ。これは『男と男の話し合い』ってヤツさ」


初老の店主さんは、ジントと同じ『男』と言うだけあって、何がしか通じる物があったみたい。


「……ははぁ。『そういう事』ですか。でも、年上の男性を余りドッキリさせては、いけませんよ」

「手品師のサプライズだから、その辺は抜かりないぜ、イヒヒ。オッサンも秘密保持よろしくな!」


清算を済ませた後、ジントは早くも、わたしの頭部に『手品師の変装、黒ウルフ耳キャップ付き三角巾』を巻き付けて来た。わたしの本来のウルフ耳は、再びスッポリと隠れる形になったのだった。


わたしの頭部が『炭酸スイカ』カラーリングだった時に、真っ赤な『花房』付きヘッドドレスと『呪いの拘束バンド』をまとめて隠すために、清掃スタッフ風な生成り色の三角巾を付けていたけど、ちょうど、そんな感じ。


まさに、『ひと回りして元通り』って所だ。今まで、こういう隠蔽スタイルが普通だっただけに、こっちの方が自然で落ち着くような、変な気分。


初老なウルフ男性の店主さんは、そんな『まんざらでもない』わたしの様子を眺めて、妙に理解のある苦笑いを向けて来た。メルちゃんも何故か、一緒になって、下心のあるニマニマした笑いを向けて来ている。


「ルーリーさんも気苦労が多い性質のようですな。幸多からん事を祈っておりますよ」


*****


「確か、『エーテル燃料の集積場』って、端の方にあるって言ってたっけ」

「ずっと先の方だよ、ルーリー。でも、その前に、男の子用の衣料店の方に先に着くから、そっちを先にしよう」

「オレを着せ替え人形にするなよ! 恥ずかしい服もダメだぞ!」


初老の店主さんの小物屋さんを出た後、わたしたちは再び、台車を転がして、中庭広場の商店街を歩き出した。


――台車は、割と重たい。『火のチャンスのバラバラ死体(化けの皮)』を封入したコンテナが、意外にズッシリとしてるんだよね。元々の、実物の方のチャンスさんも、相当に大柄な体格だし。


ちなみに、わたし用の着替えは、初老の店主さんのアドバイスもあって、2軒先の女性用の衣料店で早くも片付いている。こざっぱりしたデザインの服が多くて助かったよ。城下町で一番多く見かけたタイプの日常着を、幾つかゲットできた。

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