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1:委員長(ツンデレ)と文学少女(クーデレ)

相模野さがみの、アンタだけまだ課題のプリント出てないんだけど」

「ヒエッ」


 ポニーテールを揺らしながらやって来たのはクラス委員長の中央なかおさん。俺はこの人がちょっと怖い。

 リーダーシップは折り紙付きだが、威圧感があるというか何というか。

 体の発育もよろしい。つい胸に目が行ってしまうがバレると怒られそうなので視線が泳ぐ。


「先生のとこまで持ってかなきゃいけないんだから、早くしてよね」

「ご、ごめん委員長……」


「……あの。ちょっと言い方キツイんじゃない、あなた」


 斜め後ろの席で本を読んでいた女子が会話に入ってきた。

 丘さんだ。いつも読書していて静かだけど、ハッキリ物を言うタイプ。


「な、何よ! アンタにはカンケーないでしょっ」


 その言葉には反応せず、すでに丘さんは手元の文庫本に視線を戻していた。


 教室にピリッとした空気が漂う。

 一見すると二人は犬猿の仲だ。きっと、事情を知らなかったら俺も、アワワワ……とテンパっていたに違いない。


 しかし。俺は気づいているのだ。

 彼女たちがお互いに片思いしていることを。

 俺の百合センサーに「ピュイーン!」と引っかかったからな。たぶん間違いない。


 確かによく観察してみると、二人ともそれらしい行動をしている。

 委員長は、いわゆるツンデレで、とにかく素直じゃない。

 俺の席にわざわざやって来たりするのも、近くにいる丘さんに自分の存在をアピールしたいんだろう。

 だってチラッチラ見てるし。分かりやすすぎる。


 対する丘さんも、好きな子にはいじわるしちゃうタイプ。Sっ気があるんだと思う。

 大人しそうに見えるけど、黒髪に挿しているあのヘアピン、アカクラゲがモチーフと知ってからは見る目が変わった。


 二人は確かに両思いであるのに、お互い素直になれないせいで、うまくいかないのである。

 そして、今回のように険悪なムードになる。俺を巻き込むのだけは勘弁してほしい。


 委員長は真っ赤な顔でプルプル震えていたが、俺のプリントをひったくって行ってしまった。

 ややあって、丘さんの席からため息が聞こえた。おそらく、「またやってしまった……」とか考えてるんだろうな。


 あーもう。どーしてお前たちはそう素直になれないんだっ!?

 見てられないぜ、こうなったら一肌脱いでやるか!


 なってやるよ、俺がキューピッドに!



 とりあえず、二人の仲を進展させるには、何かきっかけを作らなければならない、と俺は考えた。

 俺としては、もうとっとと「お前ら実は両思いなんだぜ!」と言ってしまいたい。

 しかし、本当のことを言っても、今の状態じゃ信じないだろう。

 どうしたら信じてもらえるだろうか。


……そもそも、両思いだと聞いて二人はどういう反応をするのか、気になってきた……。

 せっかくやるんなら、楽しまなきゃ損だよな! 盛り上がってきたぞーっ!

 よし、まずは委員長からいってみよう!



 廊下でプリントを提出しに行った帰りの委員長を見つけた。


 その前に立ちふさがり、ビシィッと指を突きつけ、もったいぶってしっかり間をとって……。

 怪訝な顔をする彼女に開口一番、俺はとびきりクールに言ってやった。


「お前ら実は両思いなんだぜ!」

「はぁ? 誰よ、お前らって。いきなり何のハナシ?」


 どことなく元気がないように見えるのは、まださっきの気にしてるのか? ほんと、恋する乙女だなあ。


「委員長と丘さんに決まってるだろ」

「……!!!」


 委員長は驚いた表情で勢いよく後ずさったかと思うと、かかとが突っかかって後ろの壁に軽く頭をぶつけた。

 ドジっ子なのか? 属性盛りすぎだろ、委員長。


「そ、そんなわけないぃー、さっきだって、キツイとか言われたぁーっ」


 と思ったら、急に泣き出してしまった。情緒不安定すぎないか、委員長。え? これ俺が悪いの?

 キューピッドどころか女子を泣かせてしまった。


 しかしここで慌てる俺ではない。


 イイ男たるもの、ハンカチくらい持ち歩いている。

 いついかなるときにも、女子にスッと差し出せるように。ちゃんと俺のだって分かるように、『さ』の文字が刺繍してあるという徹底ぶり。

 アルファベットのSじゃ、ありきたりすぎるからな。ひらがなの方が逆にオシャレ……完璧すぎるだろ、俺。


……そんな罪作りなハンカチをここぞとばかりに振りかざすと……おや? 何だその顔?


「あ、大丈夫。あるから」

「あ……、そう……」


……キレイだぞ、ちゃんとアイロンもかけてあるし。

 とりあえず泣き止んでくれてよかった。


「さて、話を聞こうじゃないか」


 女子は話を聞いてもらいたいんだろ? そして共感してもらいたいんだろ?

 そういう生き物だって聞いたぜ。優しく話を促してやる俺。なぜならイイ男だから。 

 廊下の端に二人で座り込む。


「委員長は丘さんのどういうところを好きになったんだ?」

「何でそんなコト、アンタに言わなくちゃなんないの」

「ヒッ」

 ギロリ、と睨みつけられる。


「最初は……本を読んでる横顔が、イイなって思ってて……」

「あっ、話してくれるのか……」


 気を許してくれたのか? 俺の前で泣いた後だしな。ポツリポツリと語られる話に耳を傾ける。

 うんうん、読書している女子の雰囲気、魅力的だよなあ。委員長はさらにこんなエピソードを教えてくれた。


 二人は一年生の時から同じクラス。委員長はそこでも委員長で、ある時、一人で残って作業をしていた。

 夕日に染まる教室の中、丘さんに声をかけられた。


「委員長、まだ帰らないの?」

「これが終わればスグ帰る。また明日ね」

「……そう。じゃあ、また明日」


 あー、もしかして丘さん手伝おうとしたのかな?

 だけど強がりな委員長は「私一人で大丈夫!」って雰囲気を醸し出した、と。目に浮かぶな。

 

 そして彼女は下校する際、下駄箱の中に『お疲れさま』と書かれたメモと飴が置いてあるのに気づいた。


「それだけだと丘さんからだとは限らないんじゃないか?」

「ムカデのメモ、彼女が使ってるの見たことあったし」


……ムカデのメモ? 確かにそんなの使うの丘さんくらいだろうな……一歩間違えれば嫌がらせしてるみたいだ。


「その飴食べたら、めちゃくちゃ酸っぱかったぁ……」


 やっぱりそれ嫌がらせじゃないか? 思い出に浸ってる委員長はなぜかウットリしているけれども。


「ゆめちゃんだけなの、私が頑張ってるところ見ててくれるのは」


 うーん、いいねぇ、こっちまで甘酸っぱい気持ちになっちゃったぜ。

 ていうか丘さんのこと「ゆめちゃん」って呼んでるのか、心の中では。デレデレじゃないか……。


「その気持ちを本人に伝えることをオススメするぜ。絶対にうまくいく。この俺が保証する!」


 俺は自信たっぷりにこう告げた。

 ポカンとする委員長に「じゃあな」と言い残し、颯爽と去る俺! ヒューッカッコイイーっ!


 さあ、次は丘さんだな!




***




 私、丘ゆめ。本を読むのが好き。本はいい。私をいろんな世界に連れて行ってくれる。

……いや、今はそんなこと、どうでもいい。


 私は、先ほど目にしてしまった光景に非常に動揺していた。


 あいつ……確か、名前は相模野君、だったっけ? 私の委員長と二人っきりで何やらコソコソと……。

 全然目立たないモブキャラのくせに! 私としたことが、完全にノーマークだった。

 一体いつの間にあんなに仲良く? いつもビクビクしていたのは演技だったの?


 委員長……中央いずみは、私の女神ヴィーナスだ。

 クラス委員長という、面倒くさそうなことこの上ない役割を進んで引き受け、真面目で、いつもツンツンしてる。

 スタイルも良くて、貧相……じゃなかった、小柄な私からすれば羨ましい限り。

 それでいて結構ドジなところもあって、不器用で、意外とポンコツ。


 あぁ、まるで物語の登場人物キャラクター

 もー何なの、そういうの、そういうの……すっごく好きーっ!


……しかし、いつも私は悪いクセで、彼女を怒らせるようなことを言ってしまう。

 怒った顔すら可愛いあの人もいけないと思うけど。

 それでも重要なイベントは発生させてきたはず!

 いつも気を張ってる彼女に、絶妙なタイミングで声をかけて、「いつも冷静でミステリアスな雰囲気だけど実は優しい私」アピールとかしてきたのに!


 とにかく彼女が私以外の人とくっつくなんて、想像するのも嫌!

 あんなのに取られるくらいなら、さっさと告白しておけばよかった。

……待って、今ならまだ……? 後悔先に立たずよ、私!



 彼女が戻って来るのを教室で待ち伏せる。

 もうこうなりゃヤケだ、当たって砕けろ! さあ、来なさい、委員長!


……あっ、ホントに来ちゃったどうしよ、ちょっと待って心の準備が……。

 うわっ、目がバッチリ合っちゃって、…………ん? 何か委員長、顔すごい赤くない?


「アンタのことが好きなんだけどっ!」


……んんっ? アレ、今私まだ声に出してないよね? え?


「えっ……と、今の委員長が言ったの……?」

「そ、そ、そーよ! 何よ! 何か文句あんの!?」

「いやちょっと待って落ち着いて……。えっ、委員長も、私のこと好きなの……?」

「???」


 あ、ダメだこれ、パニックになってるな……。

 私だってめちゃくちゃ驚いてるもん。あーもうホント、嬉しくてニヤニヤしちゃう、涙出そう。


「つまりね……、私も、あなたのことが好きだよ、ってこと!」

「!!!」


 ふふっ、何て顔! あーもう! 私の委員長が最高に可愛いっ!




***




「おっかしーなぁ」


 丘さんが見つからない。靴はまだあったから、校内にいると思うんだけどなぁ……。

 教室をもう一度見てみよう。……ん? 話声が聞こえる。

 とっさに扉の陰に隠れる俺。


「いずみ、一緒に帰ろ」

「きゅ、急に下の名前で呼ばないでよ!」

「じゃあ、確認するね。これからは、……いずみ、って呼んでイイ……?」

「み、み、耳元で喋るなぁっ……」


 ガタン!


「「!」」


 しまった、興奮して大きな音を立ててしまった。ぶつけた足が痛い。


 何か知らんがうまくいったようだな?

 お邪魔虫はこっそり退散するとしよう。

 俺はその場から静かに、かつ素早く走り去る。やばい、俺忍者の素質ある。


 それにしても、うーん、イイ感じになってたじゃないかぁ! さすが俺、グッジョブ!

 これからは自分の気持ちに素直になるんだぞ、二人とも。

 そんで、堂々とイチャイチャして俺の目を楽しませてくれよなっ!




***




……バレバレだっての。


相模野キューピッドに感謝しなきゃ……」

「そうだ、さっき相模野君と何話してたの?」

「えっ!? み、見てたのっ? いつから? ていうか話聞こえてたっ!?」

「何? 何でそんな慌てるの? あいつに何かされた?」


 よ、よかった、聞かれてはいないっぽい……顔が熱い。

 ゆめちゃんのどこが好きとか、真剣に語っちゃってたなんて言えないぃーっ!


 でも、まさか本当に私たち、両思いだったなんて。相模野に背中押されて勢いで告白しちゃったけど。

 お礼に明日からは、ちょっとくらい、トクベツに優しくしてあげないこともない、かな?


「お菓子とかお供えしておこうかな……」

「え? あいつ死んだの!?」

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