7話
「はぁー」
言葉が出ない。代わりに口から出るのは感嘆のため息ばかり。
「小並みな言葉しかでてこないな」
美しい。それ以外に表現できようか。石、レンガで統一されたこの建物達は、日本じゃ見られない光景である。あんなレンガの家なんて、あっても地震で即倒壊しているだろう。
周りをじろじろ見ながら歩いていると不意にドス、と肩に何かが当たった。
「あ、ごめんなさい」
よそ見をしていたため、俺はこの子とぶつかってしまったようだ。俺はぶつかったその人を見つめた。
それは小柄で赤髪の女性だった。身長は150センチくらいだろうか。顔を上げた彼女と俺の視線が交差する。
均整のとれた顔立ちの所為か、その釣り上った目の所為か、睨みつける彼女は正直恐い。そして一瞬口元を吊り上げ、大きく舌打ちをした。
「ちっ、まぁ良いわ。気をつけなさいよ」
彼女はそう言うと早足で俺の横から去っていく。
そんな彼女の後姿を見ながら、小さくため息を吐いた。問題にならなかったからよかったものの、あそこにいるような体脂肪率一ケタのぐらいの柄悪い筋肉さんにぶつかってたら、慰謝料吹っ掛けられたかもしれん。
美しくて見たくなってしまうのは仕方がないが、少しだけ周りを見るのは控えよう。
そもそもこの町が美しいと思うのは、単に俺が日本と言う地形も歴史も文化も違う所から来たから、そう感じるだけなのだろう。
現に俺のように街並みを見て心奪われている町人は居ない。彼らにとってはこの建造物群が当り前で、普段と何ら変わりがないから別に見るにも値しない物であるのだから。
いずれ俺もこの通りを歩く人たちのように、この風景に全く意識しなくなってしまうのだろう。さて、そのころになれば俺は町にとけこみ、普通の生活が送れているのだろうか?
クイクイと俺のズボンが引かれる。どうやらユキがズボンを引っ張っているようだった。ユキの顔には疑問符が浮かんでいて、この子が人語を話せるならば『どうしたの』なんて言われてしまいそうだ。
「何でもないよ、行こうかユキ」
俺が真っ先に向かうのはもちろんギルドである。まずは身分証明できるものがないと何もできない。
門番さんに教えてもらった通りに進んでいたら、それらしき場所はすぐに見つけた。
レンガ造りのその建物は、そこらへんに建っている家の何倍もの大きさで、入口には剣と盾の描かれた木の札が立てかけてある。またその建物の入口の上にははっきり『冒険者ギルド』と書いてあったため、俺が間違えているはずがない。ただ一つ意味不明なことが有るが。
「なんで文字読めるんだよ……?」
不思議なことにその文字を見た瞬間に、それが『冒険者ギルド』と書かれている事を理解できたのだ。何故理解できたのだろうか? 先ほどの本に書かれていた文字はひっくり返しても読めなかったのに。
俺がぼうっとその建物を見ていたが、横を通り過ぎた男性がギルドに入っていくのを見て、考えるのをやめ中に入っていく。
ギルドの中は想像していたよりは綺麗で静かだった。
左側には大きなボードが貼り付けられ、いくつもの紙が規則的に貼られている。その前を大きな盾を持った厳つい兄ちゃんや、銀色の鎧で全身を覆った人、またローブを着た金髪で耳が少し尖った、まるでエルフのような女性がボードをじっと見ている。
(耳……尖ってんだけど、エルフ? まさかのエルフか? それであっちにいるのは獣人?)
そのエルフから少し離れた壁に寄り掛かっているのはまるで犬の耳のようなの物を生やした男性だった。彼は目の前にいる普通の人間男性と何か会話をしているようだった。
俺はユキちゃんを連れて奥のカウンターらしき所に向かう。空いているカウンターは4箇所あるうちの2箇所だった。1つは目の前にある美人で胸が大きな女性が座っているカウンター。ダークブラウンの肌に耳が尖っているエルフのような女性、ゲームで言えばダークエルフにあたるのだろうか? 日焼けしたエルフなのかもしれないが。もうひとつは年季の入った椅子に座っている、ひげの生えたおっさん。臭そう。
さあ行こう。行くカウンターは決まっている。よく考えてみろ、美人なねえちゃんとひげずらで冴えないくて筋肉質かつ臭そうなオッサンだぞ。当り前だ。
オッサンだろJK(常識的に考えて)。
俺は目の前の女性と視線を合わせないようにしながらおっさんの所へ向かう。当然の帰結だな。
もし此処であの綺麗なねえちゃんの所に行く奴は考えを改めた方が良い。よく考えてみろ。確かにあのねえちゃんと話す事は目と耳と心の保養になるだろう。だがしかしだ、周りに目を向けな。ほらあそこの数人固まった男性陣を。奴らはただ会話しているように見えるだろう? 違う、横目であの女性を見つめているのだ。
それだけではない。あの掲示板横にいる柄の悪そうな男性。あいつはちらりどころじゃない、ガン見だぞ? ストーカーかな?
そもそもだ、俺がしたいのはナンパじゃなくてただのギルドカード発行と来たもんだ。そんなことのために、わざわざ話しかける理由なんぞ無いに等しい。
俺はそのままおっさんの所まで歩くと、暇そうにしているおっさんに話しかけた。
「あー、あのうすいません」
「ん、何だ?」
「ギルドカードを発行したいんですけれど?」
「ああ、ギルドカードか……少し待ってろ」
おっさんが机の物を片づけ始める。彼の机には沢山の種類のコインが縦に重ねられていて、彼はそれの数を数えているようだった。この世界の通貨だろうか? 銀や灰色でそれは人や花のような絵が刻まれていた。
四次元ボックスにこれは入っているのだろうか? すぐに試してみると、頭の中に同じ形のコインが浮かぶ。どうやらアイテムボックスにいくらかのこのコインが入っているらしい。
俺がじっとおっさんの机を見ていると、不意に一人の女性がおっさんに近づいてくる。
「私が代わりに致しますよ」
彼女はおっさんにそう言うと、おっさんは笑顔を浮かべた。
「おお、頼んでいいか?」
「ハイ!」
そう言ってこちらを見つめるその女性。それはさっき避けたあの美人の受付嬢だった。
(うわああああああああああああああああああああああああああああ)
ハイ! っじゃねえよ。俺がっ、なんでっ、おっさんのぉ、所にっ、行ったかぁ、分かってんのかっ!? てめぇと関わり合いたくねぇからだよ。クソが。出しゃばるんじゃねぇよ。美人だからって何してもゆるされると思うなよ!?
「ん? どうか、なさいました?」
ほええ、ダークでエルフなねーちゃんに笑いかけられたよぉぉ。やべぇ。怒りの半分がどこかへ吹っ飛んじまった!
「あ……いえ、なんでもないです。よろしくお願いします」
そう言って俺は頭を下げる。すると少し不思議そうな表情を浮かべたギルド職員だったが、先ほど彼女が座っていたカウンターの前の椅子を手で示した。どうやら座るよう促しており、残念なことに逃げ場もないようだ。
俺はこっそりため息を吐きながらそこへ行き椅子に座った。するとユキは俺の脚に飛び乗ってきたので、頭を撫でた。
(くそっ。男性陣からの視線が痛い)
いやお前らさ、見ただろ。アレ不可抗力だから。俺は避けようとしたんだぜ? 俺は悪くねぇ!
「あの、聞いてますか?」
「あ、はい。すみません……もう一度よろしいですか?」
「えと、ギルドカード作成にあたりまして、銀貨一枚を頂戴いたします」
俺は頷くと、さっきおっさんの机で見た銀色のコインを思い浮かべる。そして服の中に手を入れるとそこに銀貨を出し、あたかもポケットから取り出しましたよ的な雰囲気を醸し出しつつ女性に手渡した。
「はい。頂戴しました。ではギルドカード作成にあたりまして、血を一滴とらせていただきます。利き腕では無い方を出していただけますか?」
俺は頷いて左手を差し出すと、彼女は俺の手を握り持ち上げる。ほっそりしているものの、骨や皮で硬いわけでもなく、筋ばっているわけではなく、柔らかくそして少し冷たかった。
彼女は俺の腕の下に布のようなものを置くと、俺の腕をその上に乗せる。そして何やらカードのような物を取り出すと、手の横に置いた。
「では少しチクリとしますよ?」
そう言って彼女は引出しから針のようなものを取り出し、俺の腕に刺した。……これちゃんと消毒されてるよね?
腕から血が一筋流れ、ぽたりとカードの上に落ちる。するとカードは小さな不思議な幾何学模様を浮かび上がらせ、白色に輝いた。
「ハイ、ありがとうございます」
そう言って彼女は俺の腕を抑え、何かを呟くと、俺の腕の下に今度は緑色の幾何学模様が浮かび上がる。その幾何学模様からはほのかな温かみがあって、何かが腕を包み込むようなものを感じた。俺がじっとその幾何学模様を見ていると、不意にギルド職員のおねえさんは、布で俺の手を拭った。
(血が止ま……いや傷が治ったよ。ははっ、こんなこともできんのな)
ユキのおかげで魔法とも呼べる不思議な現象を何度も見る機会があったが、こうまで俺の常識を破壊すると驚きよりも呆れになってしまう。
彼女は光のおさまったカードを手に取ると、なにやら羽根ペンのようなものを取り出し、何かを書き始める。彼女はインクを付けていないようだが、それで書けるのだろうか?
「ではお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はぁ、ヒビキと申します」
「ヒビキ様ですね……年齢は?」
年齢と言われても困る。アラサー、もうすぐアラフォーですだなんて言って信じてもらえるだろうか? いや無理だ。今の俺はフサフサだ。誰がどう見ても十代にしか見えんはず。ここでの成人は何歳なのだろか? とりあえず16にしておこうか……。
「16歳です」
すると女性のペンの動きが止まり、驚いたような表情で俺を見つめた。
「もっとお若いかと思っていました」
「……よく言われるんです。……あまり気にしないでください」
どう返答して良かったのか分からなかったが、とりあえずあたりさわりのない適当な事を口にしてお茶を濁す。聞かないでくれオーラを出しておけばこの女性も聞いてこないだろう。
彼女は何かを書きこんだカードを差し出てきたので、俺は彼女からカードを受けとった。
「ありがとうございます」
「そういえば、これからどう言ったお仕事をなさるつもりなんですか?」
かなり簡単で、暮らしを圧迫しない程度の金を貰えて、定時に帰れて、週休完全二日制で、危険が一切ないお仕事です。超絶ホワイトだな。
「ええ、わたくしは見た目どおりヒョロヒョロで剣もまともに振るえない虚弱人間でして、あまり力を使わないような……そうですね、売り子や事務と言った仕事を探します」
「そうですか、でしたら戦闘ランクの説明は必要ありませんね」
ランクなんてあるのか? 今なら間に合うし一応聞いておくか? いや要らないか。戦闘(笑)とか天地がひっくり返ってもするわけないし。
「そうですね、結構です」
「でしたら、後は……ギルドカード自体についてですね、ギルドカードは――」
その後彼女は長々と面倒な言い回しでギルドカードについてを解説してくれた。それを要約すれば多分……、
「えーっと、ギルドカード再発行には作った時以上に金がかかるぞと、他人のカ
ード悪用するなってことですね?」
「はい」
少し驚きながらも満足そうに頷く彼女。言いたい事は単純なのに、なんでこんな難解な説明をしているのだろうか。カードの説明はこれにしろとか言われてるのかな? まぁいいか。後は……そうだな。
「長々とありがとうございます、それとひとつ、お尋ねしてもよろしいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「このあたりでそれなりに安くて一人部屋のある宿屋を紹介して頂けませんか?」
確保しなければならない物の一つ、宿。これは今解決させておきたい。
「でしたら『ミラージュフォレスト』なんて良いと思いますよ。銀貨一枚で二日過ごせますし、お料理も美味しいですし。……ただちょっと場所が分かりにくいでしょうか?」
銀貨なら頭に浮かぶ数を見る限りまだ余裕がある。宿屋に行ったら枚数をかぞえてみようか。
「どう行くんですか?」
「ええとですね――して――を――へ行きます。そして――が見えるのですがそこを――ですね。看板に木が三本描かれていればそこが『ミラージュフォレスト』です」
「分かりました、ありがとうございます」
俺は立ち上がると礼をする。するとすぐに彼女も立ちあがって笑顔を浮かべた。
「いえ、ではお仕事の依頼を受ける場合には、ギルドをなるべく利用して頂ければ嬉しいです」
「ええ、明日にでも仕事を探しに来ると思います」
もちろん、貴方ではなく他の人の所に行かせてもらうが。さっきから背中に視線が刺さってヤバい。
俺はくるりと身をひるがえし歩いて出口に向かうも、残念なことがおこりそうだった。掲示板横にいたあの受付嬢をガン見していた筋肉が俺に近づいてくるではないか。
(クソが、早速へんなフラグ拾っちまった)
「おい小僧、お前セリアさんとお話してたよなぁ?」
足を止めた俺に彼はそう言う。そして眼球を動かし受付に居る、あのダークエルフのおねーさんに視線を向けた。どうやらあのダークエルフはセリアという名前のようだ。
「なぁ、あの人お近づきになる事は……お前の体がどうなるか分かってんだろうな?」
鋭い眼光で俺を睨む彼はぽきぽきと手の骨を鳴らす。俺はそれを見て心の中でため息を吐いた。
(また面倒なものが……しかも全然恐くねぇし)
はっきり言ってこんなカスみたいな脅しに俺がビビるわけがない。こんなの以上のプレッシャーを社畜時代にいくらも経験したわ。
そう、アレは大プロジェクトでの重要な作業中に、上司に言われた『あ、それ失敗するとウチの会社メンバー全員の首が飛ぶから。分かってるよね?』と言う言葉。あれは強烈だった。自分だけじゃなくメンバー数十人の人生を背負っての仕事は、死ぬよりもきつかった。失敗するなら死んだ方がましと思ってたぐらいだしな。なんとかプロジェクトが無事に終わって、一段落ついたときにぶっ倒れて1週間入院したなぁ。なつい。
こいつの報復対象は俺だけだろう? クソだな、まったく恐くねえぞ。知り合い数十人単位の人生破壊する宣言ぐらいじゃないと俺はびくともしないぜ。戦いになれば数秒でボコボコにされるだろうがな。
だがしかし、である。
ここで俺が余裕な表情を見せてしまって良いのだろうか? ……いや良くない。ここはわざと恐がって弱い自分アピールをするんだ。
狙いは二つ。一つはこの男から俺に対する興味を失わせること。もう一つは即頭を下げることで周りからプライドの無さを呆れられ、さっさと忘れ去られる事だ。そもそも俺自身この女性に全く興味がないし、恐そうな関わりとか持ちたくないし。
ようし。そうと決まれば早速実践だ。
「ひ、ひぃぃ、ごめんなさいぃぃ。もう近づかないようにしますぅぅ」
俺はガタガタ震えながら頭を下げ、そう言う。ふふ、どうだ俺の演技。完璧だろう? 思わず笑いが漏れるわ。いやぁ、いい演技だ。劇団行けるんじゃね?
「…………お、おう」
えぇー? あれ、ちょっと何コイツ引いてんの? ちょっとまて俺の反応って当然だろ? 一般人がゴツイ男性に脅されたらオドオドしながら謝るもんだろう。俺何かおかしい所あるか? もしかして俺の演技がばれた?
「アレクデスさん」
不意に横から声をかけられる。そこにいたのは先ほど受付でカードを作ってくれた彼女、セリアだった。
「アレクデスさん、彼は戦闘される方ではないんですよ? そういったのは控えめになさってください」
アレクデスは顔を赤くすると、彼女から視線をそらした。え、何コイツでかい図体でキョドってるの? マジキモイ。
「お、おう、すまない」
……ってちょっとまて、セリアさん。さっき控えめっていったよな。おい、それじゃあ認めてるのかよ? 何これ、戦闘する人だったら苛めオッケーなの? やっべ、戦闘する気なくて良かったわ。
「もう。ああ、ヒビキさん大丈夫ですか? そうですね……このあたりも詳しくないでしょうし、後30分もすれば私も上がりますので、よければそのあと町を案内いたしますよ?」
ニコリと表現できそうな笑顔を貼り付けた彼女は、俺にそう言う。
ん、え? 案内してくれんの? マジで? こぉぉぉんな美人のエルフさんが!?
「あ、結構です」
コイツマジで何言ってんの、案内とかいらねえわ。もち即答なんだけど。宿屋の場所しっかり聞いたし、迷うとかありえないし。はっきり言ってお前とかもう用済みだわ。しかも初対面の男誘うとかなにを考えているんだこのビッッッッチダークエルフ? お前はこの嫉妬で怒り狂ってるアレックス……いや違うな。なんだっけ、まあアレで良いか。このアレが目に入らねぇのか? これ以上俺に……ッ!?
ダークエルフの視線が鋭くなり、俺の中で時間が止まる。そして彼女の体が大きくなったかと思うと、まるで剣を突き立てられたような痛み、そして凍てつくような風が体を通り過ぎて行った。体中の毛穴は大きく開きそこから汗が吹き出し、ブツブツと鳥肌が立つ。
(なんだこれは!?)
それは一瞬だった。その絶対零度の視線はすでに身を潜め、顔には笑顔が浮かんでいる。
見間違いだろうか? だとすればなんでこんなに背中に汗をかくんだ?
俺だけじゃなくユキちゃんも何かを感じ取ったようだ。目を鋭くしてじっと女性を睨んでる。やはりこの女絶対ヤバい。あの男、アレクソデス……やっぱなんか違うな、ともかくアレの何十倍の迫力があった。
アレに関してはもうどうでも良い。それよりもこの女性からさっさと離れよう。危険だ。
「あ、宿屋を予約しなければいけないので、今日はこれで失礼します」
「ええ、ではまたのご利用お待ちしております」
そう言ってニコリと笑う彼女だったが、俺にはあの笑顔が仮面にしか見えなかった。
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「……ねぇマスター。あの子見た?」
ダークエルフの女性はお金をしまっているひげの生えた40代ぐらいの男性にそう言う。
「ああ、あの小僧、あの威圧を完全無効化していたな……、アレクデスも驚いていたぞ」
「やっぱり無効化していたのね」
「ああ、普通の一般人なら怯えるどころじゃねぇ、失禁して動けなくなってるだろうな。だがアイツはどうだ? 普通に動いてたな。多分意にも返してねえぞ」
「私の殺気では反応してたわね、これは……」
「ああ、威圧に気が付いてスルーしてた線が濃厚だな。アレは多分過去に相当なプレッシャーをかけられたに違いない。一応アレクデスの威圧は、お前を除けばウチのギルドでも随一だしな。ちなみにだが、あいつ顔を下に向けた時に笑っておったぞ」
「笑っていた? ……信じられないわね。レベルがあんなにも低いのに……」
「レベルが低い? ……そりゃ何かの間違いじゃねぇのか?」
「間違いではないわよ。ギルドカード作成の際に、偽装魔法を使っている形跡は無かったわね」
「はぁ。ったく、一体何ものなんだ?」
「何者なんでしょうね……ギルドカードを作る時の対応も凄く丁寧で、しかも頭が良い。私が難しい言葉を交えてわざと分かりにくい説明をしたのに、それを一言で分かりやすく要約してくれたわ。貴族、かしら?」
「貴族……か。ありえない、なんて否定は出来ないな。着ている服は一見ボロボロだが、かなりの品だった」
「ったく。そのあたり探ろうと思って誘いをかけてみたのに、すぐに断られたわ。なによ、断られるのなんて何年ぶりかしら」
「珍しいなお前の誘いを断る奴なんて……」
「少しだけムッとしたわ」
「ん、少しだけ……?」
「……まあ良いわ。そう言えば、アレクデスの視線止めさせてくれない? あれ暑苦しくてねっとりしてて気持ち悪いんだけど」
「ああ、それに関しては前に言われた通り、お前の移動願いを出しておいた。来月にも帝都に行けるだろう、それまで我慢しろ」
「私はアレを1か月も我慢しなければならないの……」
「ならば冒険者に復帰したらどうだ?」
「冗談! もう私は受付嬢でひっそり稼ぎながら、普通の旦那さん貰って幸せになるの」
「旦那か……アレクデスはどうだ?」
「……上司とは言え、容赦しないわよ?」
「……失言だった」
「そうね、あの筋肉達磨と一緒になるぐらいだったら、あのコの方が数千倍良いわね。見た目はそれなりだし、なにより頭良さそうだし、ね」
(うげぇ、今すぐ逃げろ、新米!)
「……ねぇマスター? あんた今何か言った?」
「言ってねぇよ、空耳だろ」
「そう、まあいいわ。今回は見逃してあげる」
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Q.やたらフラグ立ってる人が何人かいるけれど今後出るの?
A.タイトルを思い出してください。
今日から1日1回の更新となります。時間も朝、昼ではなくて夜になるかも知れません。