6話
もし、急に時間が空いてしまった時みんなはどうするだろうか?
日本に居るのであればスマホをいじったり、本を読んだり、近くの店でウィンドウショッピングとしゃれこむだろう。だけどここは異世界の森だ。電波が届かないどころか、電波がない。もっと根本的な事を言えばスマホがないし。では読書はどうだ? 実のところ本は四次元ボックスの中に入っている。だが全く読めない。アラビア文字と英語の筆記体を足して2で割ったような文字でかかれていて、斜めや逆さにしたりしてみたが全く読める気配がない。意味不明過ぎる、もはや焚き火の時に燃料にしたいレベル。
さて、ウィンドウショッピングだが考えるだけ無駄だ。森の中に店? 構えているやつがいるんだったらぜひ紹介してほしい。年収いくらだよ? 絶対稼げない。もしサラリーマン時代の俺より稼げるんだったら土下座でも何でもするね。
「はぁ」
俺は何度目か分からないため息を吐く。町の場所を聞けたのは良かったものの、フランツィスカ・リーリエとか言う少女にであってしまった事は不運である。
とっさに本名を名乗ってしまったこともマイナスだ。勝手に社会人スキルが発動してしまった。名乗られたら馬鹿正直に、それも瞬時に名乗り返してしまうアレ。永続トラップみたいなもんだな。
あと、その時は気が付かなかったのだが、かなり重要な事実が一つある。
「言葉が通じるんだよなぁ。でも文字は読めないんだよなぁ」
何故言葉が通じるのだろうか? 彼らは日本語を話していたのだろうか? どんなに考えても俺が出せる結論は『良くわからない』だ。オイルラットに追われてそれどころじゃなかったし、すぐにフランツィスカ・リーリエさんに声かけられたし。
そこらへんは町に行ってから調べなければならない。そう考えると俺は町でなにしなければならないんだ?
まっさきにしなければならないのは寝床の確保だろう、次いで食事の確保だ。そこさえなんとかできれば後は仕事の確保だ。この世界って仕事を仲介してくれるハロワみたいなの有るのだろうか? まあそこは誰かに聞くか。そしてようやく色々な事を調べれるのか。
うーん、ヤバそうなのは仕事だろうか。出来ればデスクワークが良いが文字が読めないなら出来ないかもしれない。だとすれば何をすればいいのだろうか。どこかの食堂で雇ってもらうか? はっきりいって姉に仕込まれたお菓子作りならともかく、それ以外の料理なんぞ出来ない。お菓子屋が有れば行っても良いが、有るだろうか。まぁ無ければ売り子とかフロアでいいか。
「さて、そろそろあいつらも移動しただろう、だよな?」
俺は自分の足を枕にして寝ているユキちゃんを抱っこすると、立ち上がる。寝ているユキちゃんもマジ天使。
さあ行こう、目指すは町だ。
森から歩いて3、4時間ぐらいのところに、広大な草原を横切る川とそれは有った。
巨大な石造りの壁。俺の身長の二倍はありそうな高い壁の周りには、幾つか石造りの家が点在していて、そこでは何人かの人を見つけることができた。
その家を目で追っていると、東側に一つの大きな門を見つけることができた。
俺は見つけた門まで歩くと、まわりを見つめる。門の周りには灰色の鎧を着ている男性が立っていた。また男たちは腰に両刃の剣をくくりつけていて、いかにも町を守る門番という雰囲気をかもしだしている。
門に立っている二人を見て俺はふと思う。
俺、ここを普通に通れるだろうか?
ゲームなんかでは通行証みたいなのがないと大抵通れなかったりする。まぁ門番の兵士に怪しいところは無いかをチェックされるだけで通れる所もあるが。あとは俺様を倒せたら通っても良いぞ、だなんてゲームもあった。
こいつらは検問したりするのだろうか?
いや確実にするだろう。いま一人の男性がそこを通過しようとして声をかけられてる。
なにを聞かれるのだろうか。海外に行った時みたいに、『ここに来た理由は?』『滞在期間は?』とかなのだろうか? ……だといいんだが。ん、ちょっと待て? 海外に行く時はパスポート無いと駄目だよな? もしかしてこの世界でもそうなのか?
……前の人門番になんか見せてるな。まずいぞ、身分証明書が無いと入れないんじゃないか?
こうなったら金を握らせるか? いや、そんなもの持ってない。じゃぁエロ本をこっそり渡すか? いや、彼の好みが分からないか。止めておこう。巨乳と貧乳の二択を間違えるとプンプン丸で済めばいいが、最悪戦争がおこるだろうしな。そもそもエロ本持ってないしな。
と、くだらないことを考えていると男性は門を通過して町の中に入っていく。
騎士は定位置に戻ろうとしたが、俺と目線が合ってしまった為か、こちらに近づいてきた。目線が合ったら近づいてくるってコレもしかしてポケ○ン勝負かな?
「こんにちは」
「おうよ、お前さんどうした。門の前でぼーっとして?」
外人の年齢なんて正確には分からないけれど、多分30は超えているだろう。身長は175センチくらいだろうか? 高すぎず低すぎず、理想的な身長だと思う。ただ髪の毛が以前の俺よりも心もとないだろうか。
「いえ、やっと街に来れたんだなと思って」
「なんだぁ? 冒険者か? っと……その狐」
門番さんは俺の横に立つユキを見つめる。俺はユキを持ち上げ、胸に抱くと頭を撫でた。ユキは気持ちよさそうにコン、と鳴いた。
「可愛いでしょ? 私の相棒なんです」
ほら見てみろよこの顔。頭がとろけそうなほど可愛いだろう? そしてこのふわっふわの白い毛だ。触っても良いけれど手をしっかり洗ってからな?
じっとユキを見ていた門番だったが、小さくうなづくと口を置きく開けて笑い出した。
「ははっ、確かに可愛いな! んでお前は町に入るのか?」
「はい、そのつもりです」
「なんか身分証明書持ってるか?」
「あ、いえ。無いんですけど……」
「……うーんまぁ良いか。よし、じゃぁ入ったらさっさとギルドにでも行って作って来いよ」
「はい。ちなみに、どこにギルドって有りますか?」
「ああ、この門を入って真っすぐ進んだところだ」
そう言うと彼は俺の背中に回るとバンと叩く。
「ようこそキーファの町へ」
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「おいおい、通しちまっていいのかよ? 身分証明書無い奴は銀貨一枚だろ?」
「いや、大丈夫だ。アイツがあの人が言っていたやつと見てまちがいねぇさ」
「え、あいつの事だったのか?」
「白い狐を連れた14歳くらいの男性。それにあの黒髪に、旅人とは思えねぇあの服装だ」
「そうか……ならまぁいいか」
「心配するな。あの人の言う事だし何事もないだろう。それに、今回の場合はアイツが町で何か起こそうと、責任は俺らには来ない」
「まぁ、そうだな」
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短いです。代わりに次の話が長いです。