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美しき古代竜

 依頼のために、巡は門の前に居た。仮面はないが、ローブを纏っている。色は銀だ。王国を覆う壁に凭れている。

 五時ちょうどに、何人ものローブを纏った人が転移でやって来た。

 赤、青、黄色、茶色、緑、白、黒、金。あとは神谷が背中にきらびやかな剣を背負う。

「君がランクSSSの、炎帝からの推薦者か?」

 金が全帝らしく、話しかけてきた。ノイズはなく、よく聞くと、声がレイスに似ている。

「そうだ。帝と勇者だな? さっさと終わらせよう」

 魔法は知らないので、一応声色は変えてるが、ばれるのは時間の問題に思えた。

 既に、神谷はじっと巡を凝視している。

「……そうだな、よろしく頼む。対象はエンシェントドラゴン。古代竜なだけあり、戦闘能力は未知数だ。個体によって強さは変わる。ここまで集まるのも久しぶりだが、君には期待している」

「…………場所は?」

 言葉少なに、問う。

「場所はここから百キロ以上離れた森だ。転移を繰り返して行く。俺が転移をするから、皆は追いかけるように転移してくれ。疲れたら言ってくれ。休憩する」

「わかった」

 全帝が消えた。前にローブが窺えたので、全員で追いかけていく。

 繰り返して十五回、緑が根をあげた。中性的な声だ。

「ふむ、まだまだだが、少し休もうか。他の者は大丈夫か?」

 緑以外は大丈夫らしく、ローブの頭部が縦に動いた。

「俺が緑のローブを背負って、転移しよう。早く終わらすぞ」

「……無茶だ。戦う前に魔力を消費出来ない」

「俺の魔力はお前らの比じゃない」

 茶色と緑、赤、全帝以外、敵意を見せてきた。

「そこまで言うなら頼もう」

 緑のローブの前で背中を見せ、屈むと、嬉々として乗ってきた。

 また転移を繰り返す。背中で楽観的な声が聞こえるのに、苛立ちを覚えるが、無視しておく。

 やがて、青、黄色が制止の声を挙げた。

「もう森に入る。ここで休憩しよう。君は大丈夫か?」

「余裕だ。こいつらを背負ってもいいぞ」

 巡は冗談まじりに言った。本当にしてもいいが、帝としての面目が丸潰れだろう。

「頼もしいな」

 ここまで来て隙がないのは、茶色と黒、赤と全帝だ。その他は実力としては低い方だと、巡は推測した。

 枝を集め、火を起こしてから、巡が聞く。

「腹は減ってないか?」

「僕、ぺこぺこだよ」

 緑が腹部をおさえる動作をした。各々、反応を示した。

「なら、腹ごしらえといこうか」

「お主、なにも持ってないように見えるが?」

 茶色が言った。

「きっとボックスよ」

 綺麗な声の白が当ててみせた。声は女性だ。

 巡は正解だ、と肯定して、ドラゴンの肉と野菜を挟んだサンドウィッチをボックスから取り出す。

「美味しそう! 食べていいの!?」

 緑は巡に対して、警戒の色を見せない。全帝と赤、つまり――レイスとギルド長も警戒を見せていないが、この二人は余裕からだろう。赤は巡の正体を知っているので、警戒はしていない。全帝は単純に人がいいか、強いからかのどちらかだと、巡は睨んでいる。

 少なくとも、隙はあれど、白と黄色、青は巡を警戒している。その証拠に、神谷と茶色と赤、緑と黒、全帝はサンドに手を出しているのに対し、三人は手を出してない。

「毒なんか入ってない。お前らも食え」

「俺はいい」

 頑なに食べない三人。巡もサンドを口にする。

「年寄りにはちと重いかの……」

「じゃあなにが食べたいか言ってくれ」

「よいのか? では、白飯と梅干し、味噌汁をお願いできるかのう?」

 どこかわざとらしいしゃべり方。

「お安いご用だ」

 流石にボックスには入ってないが、創造で出した。他の者からは、ボックスから出したようにしか見えないはず。

「すまんの」

 腹が鳴った。白が腹をおさえる。

「なにが食べたいか言ってくれたら出すぞ」

「……ミルクとシチュー」

 創造して渡す。青と黄色にも同じことを言った。

「ソーダとステーキ……」

「レモンスカッシュとオムライスを頼めるか?」

「はいよ」

 なんだかんだといって頼むんじゃないか、という言葉は飲み込んだ。それを見て、全帝、赤、緑、神谷達が飲み物を頼み始めた。

 青はステーキに、青い液体をかけて美味しそうに食べていた。皆の食欲がなくなったのは言うまでもない。


「もう魔力は回復したな。では、先に進むぞ」

 進行を再会した。時間は午後七時。休むのも想定して五時にしたのだろうか。

 森に入り、上にある木の枝から飛び移っていく。何人かは下で疾走している。足取りは軽やかだ。

 全帝から聞いた話では、ここは危険な森らしい。SSランクの魔物がそこら辺にいるのだと。だが、そんなものをいちいち相手にしてると、体力の消耗が激しいので、基本は無視するらしい。

 止まるように言う。

「どうした?」

「対象の場所は知ってるのか?」

「目撃によると、ここを真っ直ぐ行って約一キロだな」

「少し待て」

 探知する。白い波、赤い丸。全帝が言っている場所より随分離れている。その事を伝えると、本当か? と驚愕の声を挙げる。

「どうしてわかる?」

「対象を探知できる。俺に着いてこい」

 向きを変えた。なにか言ったが、聞き返さず向かう。


 木で身を隠す。他の帝と神谷も隠れていた。

「まさか本当にわかるとは……しかし、大きいな」

 全帝が述べた通り、大きい。レッドドラゴンの倍近くはある。奴からしたら、巡達は米粒同然だろうと思えた。

 年季の入ったような黒の体は、所々茸と苔が生えている。今は眠っているが、やがて気配を察して目を開けるだろう。大きすぎて、全貌は映らない。巡同様、皆が見入っていた。未だ生ける古代竜に。何百、もしかしたら何千とその命を守ってきたであろう、その力強さに。

「このまま永眠させてやりたいな。最後は安らかにさ」

 感嘆の息を出しながら、巡が言うと、全帝が首を横に振った。

「そうもいかないだろう。古代竜だから、そんな簡単に倒せるとは思えない」

「じゃ、どうするか。作戦は?」

「全員で一斉掃射……か?」

 皆で頷いた。その間も視線は絶えず、古代竜を捉えている。後ろから、各々の詠唱が聞こえる。巡は、魔法の知識はないが、基礎知識として渡された中に、初級魔法があったので、それを溜める。

 巡の両手の間で、野球の球程度の炎の球が現れた。魔力の密度を上げていく。眩い炎の球が出来上がった。気付くと、詠唱は無くなっていた。

 ――古代竜が目を開ける。

「放て――!」

 何もかもがスローになる。後ろから焔の槍、雷の波動、虹色の球、激流が収縮されたレーザー。光の十字架、竜巻、最後に黒い鎌が飛来して、最後に巡が初級魔法を放った。

 爆発。轟音。煙――。

 一番前で身を隠す巡が目を凝らすと、煙の中で炎がちらついた。

「ブレスが来るぞ!」

 巡が注意を促した。

「こっちに来て!」

 白の声。巡はバックステップで退く。全員が白の元へ集まった。刹那に、炎が襲いかかった。

 しかし、炎は見えない壁らしきものに遮られた。白の魔法だろう。帝達が詠唱する。

 辺りは炎に包まれ、木々は燃え、赤々と視界をおおう。土を焦がす。

 やがてブレスが止むと、帝達は一斉に魔法を撃った。色んな魔法がぶつかり合い、反発を起こしながらも、吼える古代竜の腹に激突した。怯む。

「やったか!?」

 黄色が叫んだ。

 巡は円形に無事な地面を蹴り、魔武器である、泡沫を刀にして、腹を斬りかかる。一閃は薄く切り裂いた事で終わった。舌打ち一つ、刀を消して拳で突く。

 貫通――とまでいかなくとも、腹の一部がへこんで、痛みに声を挙げたように感じた。

 一旦さがる。

「俺達の魔法より君の体術の方が効いているな。そのまま頼めるか?」

「あいよ。もう終わらせるから動きを止めろ」

 返事を待たず、飛翔する。全帝の魔法かなにかのおかげで古代竜は動けないようだ。頭に飛び乗り、腕にありったけの力を入れる。瓦割りの要領で、頭に拳を叩き込んだ。

 一発目で古代竜が叫び、二発目で頭がへこむ。三発目でぐらりと揺れる。そのまま四発、五発――。

 巨体が地に伏した。砂煙を辺りに舞わせ、動くことがなくなった。頭から噴水のように血が飛び出ている。

「君の一人勝ちのようなものだったな……」

「いや、見事な拘束だったよ」

 巡は帝達の元へ戻り、辺りを一瞥。気がつけば、既に木々の炎は鎮火されていて、木をなぎ倒し、それらを体で下敷きに、古代竜の死体があった。頭からは、なおも赤黒い液体が地面をぬらす。

「ところで、“これ”どうする?」

 全帝達に向き直り、親指で古代竜を示す。

「そうだな……」

 暫く考えて、全帝は古代竜を、時間をかけて三等分にして、続けた。「これで、分けよう。一番役に立ち、帝ではない君が腹。勇者、君は下半身でいいか?」

「いや、こんなのいりませんよ。持っててもどうすればいいかわからないし……」

「調理すれば美味いぞ。売っても高くつく」

「いえ、俺はこの国を救う為に勇者やってますし、金はいりません。帝さん達でわけてください」

 笑顔。女なら一発で惚れてしまうだろう。

「……流石の勇者様だ。俺達帝の報酬は金だ。あとは大切な人達の笑顔とかか。それに、ドラゴンを討伐して、その肉は王に献上することになっている」

 言葉の節々に、どことなく毒を感じる。

 一言礼を述べたあと、ボックスに入れた。

「じゃあ帰るか。全員俺に捕まってくれ。一気に転移する」

「嘘だろ……俺でも出来ないぞ」

 全帝は半笑いだ。信じてない様子。他の帝も爆笑している。勇者は心ここにあらず、といったかんじだ。

 いいから早く掴めよ、そう促すと、渋々全員がローブを掴む。全員が掴んでいるのを確認してから、王国の門に転移した――。

 次の瞬間には、目の前に壁があった。大きな扉――門の横に小さな扉がある。

 いきなり現れた巡達に、門番が敬礼する。それをよそに全帝が、「本当に出来るとは……」と驚いた。

「よし、じゃあ俺は帰るぞ」

「待てじ――ランクSSS」

 転移で帰ろうとした巡に、赤が呼び止めた。一瞬、巡の名を呼ぼうとしたようだが、すぐに違う呼び方をした。

 なんだ、と聞くと、赤は巡の近くに来て、他の者に聞こえないよう、小さい声で言う。

「明日、報酬を渡す。ギルドに来てくれ」

「ああ、わかった」

 今度こそ転移した。

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