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使い魔召喚

 体育館にいた。地球にある体育館よりも、だだっ広いそこは、真ん中に二つ魔方陣があった。

「これから、魔武器と使い魔契約を行う。魔武器はSクラス、神谷勇。説明しろ」

 校長の女性が、指名する。名前を呼ばれた男は、男でも見惚れるほどの美形だった。輝かしい金髪で、片手を挙げた。

「はい! 魔武器というのは、鉱石に魔力を込めると、自分に相性のいい武器になるものです。いつでも呼び出したり、願うと消したりも出来ます。補足ではありますが、鉱石にも純度があり、純度が高いほど魔力を込められる量が増え、いい能力になります」

「模範的だ、流石と言えよう。次! Sクラス、カイン・ブルー! 使い魔契約について説明しろ」

 青い髪にして、軽薄そう。水の属性貴族だろうか。

「えーと……わかりません……」

 かわいた笑いを挙げて、頬を掻いた。校長が溜め息を吐き、他の者を探す。

 カインと呼ばれた男は下がると、他の女性達から殴られ、罵詈雑言を吐かれた後、神谷様を見習いなさい、と言われていた。それに怒るまでもなく、何故か笑っていた。悲しそうに。

「そこ、うるさいぞ」

 校長から注意をうけるカイン達。巡は眺めていた。

 注意を受けながらも、色とりどりの女性から、お前のせいだ、と責任転嫁される。カインは言い返すも、女性から頭を叩かれ、黙った。

 やり過ぎじゃないか、そう神谷と呼ばれた男が注意するも、女性達からは、『馬鹿は大丈夫ですわ。そんなカインを心配する神谷様はお優しいのですわね』等と宣っている。

「じゃあ、そうだな。Sクラス、リリー・グラン。使い魔契約について述べよ」

 指名はさっきの取り巻き、金のロングの女性だ。隣のサリーが肩を大きく跳ねさせた。巡は違和感を覚えたが、軽々しく聞けるものではないだろう、と察して、黙った。

「お任せあれ、ですわ。使い魔契約は、そこの魔方陣に乗り、『我の言葉に姿を現せ。共に歩み、共に戦うものよ』と詠唱します。すると、その者に相応しい使い魔が現れますの。契約は使い魔が要求――つまり、腕試し、魔力要求等、多岐に渡りますわ。呼び出すのに魔力を少量消費して、現世に維持させるのも魔力を必要としますの」

 リリーと呼ばれた女性はドヤ顔を浮かべた。

「そうだな。補足すると、実力が高いものは、逆に呼び出される事がある。それを忘れずにな」

 そう言われたリリーは少し悔しそうにしている。そこでまた横にいるカインの腕を弱く叩いた。殴られた本人は、「なんでいま叩かれた!?」と混乱しているのが分かる。

「では、鉱石を配っていく。各担任から受け取るがいい」

 率先して、レイスが取りに行ってくれた。サリーは動きたくないようだ。なにやら誰かに見つかるのが怖い様子。視線の先にはリリー。

「なあ、サリー。レイスが来たらどこか人目につかないところに行くか?」

「え!? なんで?」

 明らかに同様している。

「誰かに見つかるのが怖いんじゃないか? その人物はSクラスだな?」

「……別になんでもないよ? えへへ、私は大丈夫」

 これ以上は踏み込めなかった。諦めて、レイスを待つ。

「待たせたな。三人分、持ってきたぞ」

「ご苦労様。ありがとう」

「ありがとうございます」

 受けとり、こっそりと能力で調べると、純度が三十程度だった。隠れて、純度百を創造する。

 あちこちで輝きを放っているが、鉱石を観察する。純度が高い物は、白っぽくなっているが、純度が悪いのは少し黒光りする程度か。

「ねえねえ、巡くん、レイスさん。少し離れて、見せあいっこしようよ」

 好都合なので、提案に乗り、離れた。純度が低いものは消して、創造した鉱石に限界まで魔力を込める。

 光がおさまると、刀があった。非常にシンプルで、しかし刀身は妖しく光を反射させる。

「出来たか?」

 戻ると、既にサリーとレイスが立っていた。

「遅いよー! とっくに出来てるからね」

「まずは俺から。《陽炎》。能力は《幻覚》だ。斬った相手に幻覚を見せることが出来る」

 見せてきた物は黒い刀。刀身は、峰の部分が黒く、刃の部分は赤い。

「次私。名前は《マイクサウト》。能力は《歌》。なんか、歌によって影響を与えるみたいだね」

 サリーの手にはコンデンサーマイクらしきものが握られていた。持つ手の部分には、手をガードするかのように天使の羽根があった。サリーの魔武器は戦闘向きではないだろう。どちらかというと、サポートか、敵に状態異常を付与させる感じだろうか、と巡は結論付けた。それを聞くと、二人とも感心したような声を挙げた。

 巡の魔武器も同様に説明する。

 名前は《泡沫》。名前をつけると、光って呼応した。

「みんなできたな。今度は召喚してくれ。Sクラスからだ。間違っても死神召喚はするなよ」

 生徒の一人が手を挙げて質問した。

 ――死神召喚ってなんですか?

「禁忌の召喚だ。やり方は言えないが、死神が現れて、その者の魂を問答無用で刈り取る」

 ざわめいた。

 校長が手を叩いて、安心させたあと、開始した。

 Sクラス側の代表としてか、神谷と呼ばれた金髪の男が魔方陣に乗り、詠唱した。瞬間、姿が消えた。

 女性陣から歓声。

「ほう、逆召喚か。流石は神谷だな」

 暫くして戻ってきた。隣には、天使だろうか。純白の羽根が三対あった。絶世の美女とも呼べるそれは、現れてからずっと神谷の腕に抱きついている。

 また女性陣で揉め始めた。当の本人は首を傾げている。

 校長が促すと、次にリリーが動き出した。詠唱の後、輝いてから現れた。翼は一対。綺麗な顔立ちの男だ。

「貴方、私の使い魔になりなさい」

「……私は上級天使。契約方法は握手です。よろしくお願いします」

 人のよさそうな笑顔を浮かべた。

「よかったな。上級天使は力もあり、聡明だ」

 誇らしげに神谷の元へ帰った。

「次は僕だ!」

 オールバックの男が勇み足で魔方陣に乗った。

 ――刃物を懐から取りだし、自らの腕を傷つけた。

 血が滴る。喧騒、教師、校長の制止の声を無視して、詠唱した。

『小僧、お前がやったのか?』

 有無を言わせない。地獄から響き渡るようなその声。体長四メートルはあるだろう、骨組みの死神がいた。漆黒のローブ、目は爛々と紅く、巨大な鎌を携えて、そいつは現れた。

 教師達の迅速な避難誘導に、生徒たちは悲鳴を挙げながら従う。何人かは腰が砕けているようだ。レイスは無表情で素早く魔武器を構え、サリーはマイクを手に、だが、その身体は恐怖に支配されている。巡はサリーの頭を撫でた。見ていられなかったのだ。

 もう一組、果敢にも武器を構えるものたちがいた。神谷組だ。

「そうだ! お前は今から僕に従え! 僕は大貴族だぞ!」

『そうか――魂をもらい受けるぞ』

 鎌を振りかぶった。その時――。

「やめろ!」

 神谷が装飾の施された剣で、鎌を受け止めた。使い魔の声を気に止めず。

『貴様はなんだ』

「僕は勇者だ! この人がなにをした!? 殺すなんてことしないでいいだろ!」

『貴様は分かるまい。この者は禁忌を犯した。例え、我の声を聞き、姿を見て、失禁したとて、慈悲はない』

「それでも、失っていい命なんてない! あってたまるか!」

 そんな攻防がやりとりされるなか、女性陣は熱をあげている。

「レイス、あれをどう思う?」

「反吐が出る。あの貴族は大人しく魂を取られるべきだ」

「同感だな」

 巡はレイスの言葉に同意した。

 横のサリーは顔面を蒼白させるが、巡はどうするべきかわからなかった。このまま神谷を止めたとして、注目を浴びるか、女性陣から反感を買い、良くて学園中からいじめだろう。サリーやレイスにまで被害が出るかもしれない。そう考えると、動けなかった。

「俺は神谷とやらを止めたい。でも、もしかしたらお前らに火の粉が来るかもしれない。それが嫌なら、これから俺に関わらないでくれ」

 返事は聞かなかった。一瞬で距離を縮め、神谷を蹴り飛ばす。壁に激突した。周りを見ると、教師、校長、神谷組、果てにはレイスとサリー、死神までも唖然としていた。

「さっさとそいつの魂を刈り取れ。仕事だろ?」

『……すまない』

 振り上げる。後ろから轟音がした。振り向くと、神谷が鼻血を出しながら、息を荒くして巡を睨んでいた。

「なにをするんだ! その人が死ぬんだぞ!?」

「だからなんだ。そんな考えはお前と馬鹿だけだと思うぞ。現に、先生や校長は俺を止めてない」

 一瞥すると、教師と校長は苦々しげに俯かせた。

「でも! 死んでいいはずがないんだ――!」

 きらびやかな剣を構え、突撃。

 袈裟斬りを紙一重で避け、巡は、腹に強力なパンチを食らわせた。

 噎せながら、意識を失った神谷を、その場で寝かせる。生徒を見ると、既に事切れていた。

『礼を言う。では、我はもう戻る』

 労いの言葉一つかけると、死神は煙をあげながら魔方陣に消えた。

 巡は生徒へ、視線を落とした。

 ……苦悶の表情を浮かべている。股間に染み、地面には失禁の溜まり。

「自業自得じゃないか、そんな顔するなよ。……お前には合わせる手もないよ」

 吐き捨てた。校長に向き直り、続けた。

「今日は中止、また明日でいいですね?」

「あ、ああ」

 学園を出る。昨日と同じく、路地裏で転移した。


「どうでしたか?」

「今日は馬鹿が禁忌の召喚をしてな。それを止める勇者とやらを止めた」

「なにか言いたいことはたくさんあるが、ご主人は良いことをしたんじゃないか?」

 リサが慰めてくれた。ツキは学生服を納す。

 昼食を作り、食べ終わった頃には午前十二時半になっていた。

「ご主人様、いつもありがとうございます。昼食も美味でした」

 代表でツキが食事の度に絶賛してくる。ほどほどに返してはいるが、最近面倒になってきた。

 これもツキの好意なのだが、毎回言うのはどうかと……、というのが巡の思い。

「そろそろギルド行ってくる」

「お供いたします」

「いい。さっさと終わらせたい」

「そうですか……」

 しゅんとした。最近はほんの少しだけだが、ツキの表情がわかるようになった。それでも、表情の変化は小さい。なんとなく、声でかんづける。

 王国に着き、ギルドへと赴いた。

 リエラになにか良い依頼はないかと訊ねる。

「王から依頼が来ております」

 と言って、一枚の依頼状を渡された。

『帝、勇者と共に』

 紙の裏には、依頼主『グラン王』と書かれており、説明がある。

『今日の午後五時、帝と勇者による、合同討伐が開かれる。貴殿の強さも拝見したい。良ければ、五時までに王国の門まで来てくれ。討伐対象は“エンシェントドラゴン”だ。心してかかれ』

 これはなにも考えず行ってもよいものか、巡は悩む。一応、ローブか仮面を着用する。というのも、全帝はレイスだと疑っている。勇者は確実に神谷だろう。自らが名乗っていたので、確信している。

 顔を見たら飛びかかってくると予想したら、それが最善だろう。

「拒否したらなにかあるんだろ? なら行くしかないじゃないか。仮面やローブ着用は?」

「認められています。寧ろ、推奨していますね」

「じゃあ行くかな」

「ありがとうございます。詳しいことは私も知り得ていませんので、現地で説明を受けてください」

 返事をすると、営業用の笑顔で手を振ってきた。

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