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獣国テラン

「三人とも、楽にしていてくれ。さっと行ってくるよ」

 三人の挨拶を聞いてから、巡はリルに服を掴むよう言っておく。

 一度王国の入り口近くに転移をして、そこから獣国の入り口に転移した。

 転移は便利だが、不便でもある。一度も行ってない場所なら、想像が出来ないために、転移が出来ないのだ。今回は王国の入り口から、視界を強化すれば獣国の入り口は窺えるので、そこから二度目の転移で赴くことにしたのだ。

「凄い。転移なんて私初めて……」

 少々興奮したように言った。

「王国は転移が出来る人、結構いるぞ」

「そうなの? 獣国の民は魔法をあまり持っていないのよ。でも、身体能力なら一番よ。身体強化が得意なの」

 聞きながら、門番である厳つい男に話しかける。

「通してくれないか? 迷子の姫を連れてきた」

「身分を証せるものを見せてもらおう。流石に姫様とわかっていても、仕事なのでな」

 言われた通り、証明出来るもの――ギルドカードを渡した。金のカードをみて、一驚。魔力を通して、二驚。敬礼してみせた。

「申し訳ない。入ってくれ。姫様が城の場所を知っているだろう」

 意外と王達との距離が近いのかもしれない。王国なら、姫の前では畏まっているに違いない。だが、この兵士は畏まるどころか、リルに案内させろ、とでも言いたげだ。リルも満更ではない。

 礼を言って、カードを返してもらう。

 獣国へと足を踏み込んだ。

 王国とはあまり変わらない雰囲気だが、こちらでは人間ではなく、獣人間が行き交っている。奴隷も見当たらない。人間もいない。

「流石に獣国と言うだけあるな。多種多様な動物の人形がいる」

「ここでは動物なんて言わないことね。良い思いはしないわよ。私は良いけど」

 道の先には城があった。王国の城と大差ない。

 城だけを見るならば、王国にいるのとわからないかもしれない、と巡は思った。

「もうすぐよ。もうすぐで帰れるわ」

 横で歩くリルを横目で見ると、花々しい笑顔を浮かべていた。

 城の門番にも同じことをして、もう一人の門番が走って城の中に入っていった。

 王の間に来てくれ、と言われ、大人しく着いていく。

 両手開きの扉を開くと、レッドカーペット。両端に槍を立てた兵士がいた。

 感極まったらしく、涙を流し、一足先に走った。

 玉座に腰かける王が立ち、両手を広げた。抱き合い、呼び合いながらもくるくると回る。

 一言、二言話して、リルは何処かへ行った。最後に綺麗な笑顔で、本当にありがとう、と礼を述べてから。

「さて、君が私の娘をつれてきてくれたんだな」

「そうですね。オークション奴隷にされてて、その説明に第二王女だと言われてました」

「なに? それは本当か?」

 一通り話す。王は相槌を打つだけだった。

「……恥ずかしくも、私が出せるものはなにも無い」

 頭を抱えた。別になにもいらない、そう言うと、王は玉座から勢いよく起立した。

「本当か!? オークションということは、それなりに金は使ったのだろう? しかも無償で奴隷を離すとは……なんと心の広い……」

 謙遜する。

 もう見返りは諦めていた。創造で大抵のものはつくれるので、いらないといえばいらないが、やはりなにか見返りは欲しいものだ。巡は無意識のうちに求めてしまっていたことに気がついた。

 朝から依頼を消化して、金貨三百は手に入れたのだが、それの三分の一なくなってしまったが、この際、許容範囲だろう。

「いつでも来てくれ。私にはそれしか出来ないが、リルの奴も喜ぶだろう。兵士には言っておくから、遠慮なく来てくれ」

 一礼して去る。城を出ると、巡は転移で自室に帰った。

「どうでしたか?」

 部屋の端にいた三人の内、ヤミが不安そうに声をかけてきた。

「帰したよ。渡せるものはないけど、お詫びといったらなんだが、いつでも獣国に遊びに来てくれ、だってさ。城にも入って良いらしい」

 ソファーに深く腰かけて、巡はため息を吐いた。その溜め息は、疲れと、折角貯めたお金と、気に入った奴隷がいなくなってしまった、という憂いを秘めていた。

「ご主人、なにか私達に出来ることはあるか?」

「何度も言うが、お前らは休んでろ。俺は……適当に依頼消化してくるから」

 返事を待たず、一瞬でギルドの入り口にやってきた。いきなり現れた事でか、何人かが驚いた声を挙げるが、巡には慣れたものだ。

「あ、巡さん。ギルド長から話があるようです」

 リエラが、ギルドに入った巡に告げた。一言返し、リエラと共に階段をのぼった。

「ギルド長、入ります」

 ノック。中から声がしてから、リエラは扉を開いた。

 煙草を吸っていたようで、今は皿に揉み消している。

「おはよう。今日は、君に話があるんだ」

「どうしたんだ?」

 後ろで、リエラが扉を閉めた。そして、横に立つ。

「学園に通わないか?」

「……ん?」

 巡は言葉につまった。まだ高校生だ。学園に通うかどうかは悩んでいた。魔法も覚えなくてはならないし、この世界についても多少は知りたい。しかし、魔法が使えずとも、魔物は倒せるので、あまり問題視していなかった。

「わかった。通おう」

 結局、通うことにした。魔法が覚えられるに越したことはないし、なにより、友好を広めたい。

「そう言ってもらえると助かる。では、こちらの書類に記入してくれ」

 受けとると、学園に入るための、所謂、履歴書のようなものだった。記入している最中、リエラが他の受付嬢に呼ばれ、出ていった。粗方記入し終え、手渡す。一通り入学について説明を受ける。

 ――ノック。

「入ってくれ」

 扉から、真っ黒の、しかし黒曜石のような光沢をもったローブで体と顔を隠す者が入ってきた。体格的に男だろうか。

「依頼を終わらせてきた」

「ご苦労だな。“全帝”」

 声はノイズがまじっている。全帝と呼ばれた黒ローブは、ギルド長から袋をもらう。中身は報酬だろう。巡の受けとる袋より一回りは大きい。

 一瞬で消し、自らも転移で消えた。

「いまのは?」

「最強の全帝だ。全ての属性を扱い、最高位の魔法すら扱う。帝の中では一番強いんじゃないか? まだ場数は踏んでないがな」

「つまり、実力ではギルド長に勝るが、経験では圧倒的にギルド長のが上、か」

 それだ、とでも言いたげに指を差してきた。

「まあ、私はお前を買ってる。全帝よりもお前は強くなる。確実にな」

 少し興味がわいた。だが、ギルド長が言うように、いまの自分では勝てないだろう、というのは同意見だった。魔法が満足に使えてない今、相手の身体能力は察せないが、成す術もなくやられてしまうかもしれない。逆に圧倒的勝利するかもしれないが。

「どうでもいい。あれと張り合いたいとは思わないな。帰るぞ」

「ああ。また依頼を受けにこい」

 退室した。部屋の前で考える。

 学園に通ったとして、まともに魔法を覚えられるかだ。学園ではそんなに強力な魔法を教えてくれるのだろうか? 身体強化をはじめとして、中級や上級が良い位ではないか?

 巡が考えるに、学園では最低ランク、最高ランクが存在する筈だ。最高ランクは上級等を教えてもらえるのだろうが、恐らく最低ランクは大して覚えさせてくれないだろう。

「ええ、例の男を無事、学園に編入させることが出来ました」

 扉から、そんな声が聞こえた。思考を中断して、耳を澄ます。

「実力なら全帝にも負けず劣らずかと。本人は帝にはなりたくないらしいのですが、このままXランクにして、学園で友を作り、王国に思い入れを作らせれば、帝に入る可能性があります。そして行く行くは……はい。わかりました」

 話は終わったようだ。探知をしても、部屋にはギルド長以外にいない。なんらかの通信と見ても良いだろう、そう考えた。

 このまま転移をすれば、魔力で気付かれるかもしれないので、巡は忍び足でおりた。

 そのままギルドを出て、転移で帰る。

 疑心を抱えたまま。


 入学式なので、学園へとやってきた。

 あれから考えて、魔法は城に潜入し、違法で魔法書を読むか、なにかの恩をうることで、合法的に魔法書を読むかのどちらかにした。

 なにが言いたいかというと、最低ランクのクラスを選んだ。いや、執筆等の試験で、意図的に一つも正解を出さなかったのだ。巡の目論見からすると、最高ランクは面倒ばかりだ。

 体育館らしき場所で、校長が長話をする。校長であるのだが、その妖艶な女性は、生徒たちから人気が高いようだ。長い話も一心に聞き入っている。

 巡は比較的後ろだ。これも最低ランクだからだろうか。視力を強化すれば、金髪や、赤髪、青髪と多種多様な人物が窺える。

 一通り終わって、教室に向かう。既に生徒がちらほらといて、黒板に書かれた、出席場所を探していた。

 巡も自分の席に着席しておく。窓側だ。カバンを横に置いて、外を眺める。

「あ、あのー……」

 横で誰かが話す声がする。右を向くと、どこかで見たことのある女性。

「貴方、店に来てた人ですよね? 私、ミルフィーの店員です!」

 巡は暫し記憶を探る。最近、というよりも、ここにきてから店に行ったのは服と喫茶店と宿屋、奴隷商。宿屋は名前が違う。あれこれと考えていると、女性はヒントを出す。

「いらっしゃいませー!」

 歌った。

 はっとする。彼女は、喫茶店で接客していた、歌う店員だったのだ。

「君か。同い年だったんだな」

「私もびっくりしちゃって! あ、私サリー……です!」

 ファミリーネームはなぜか名乗らなかった。なにか訳ありなのだろう、と慣れた考え。

「俺は星月 巡だ」

「えへへ、よかったです。知ってる人がいて。一人ぼっちかと思っちゃいました!」

 長い茶髪を揺らし、はにかんだ。

「うん。まあ、仲良くしてくれ」

「はい! もうお友達ですからね!」

 二つ返事。どうやら席は隣らしい。にこにこと笑いかけてくるサリーをそこそこに、教師がやってきた。

 ――小さい。

 小学生位の女の子だ。

「おはようございます!」

 皆唖然としている。

「おはようございますですよ!」

 小さい声で、挨拶をする生徒達。

「おはようございますです!」

 巡も合わせるように、挨拶した。全員の声が揃った。

 満足そうに頷き、教卓に届かない身長を、台で底上げした。

「これからこのFクラスの先生になりました、ピリア・チークです! よろしくですよ!」

 笑顔で名乗った。

「よろしくです!」

 またか、と思いながら、よろしくお願いします、の声が揃う。

「窓際の前から自己紹介してください!」

 起立、自己紹介、着席を二回ほど繰り返し、巡の前の生徒になった。

「俺はブライ・ブレイだ! 得意属性は土。苦手は土以外。魔力は千! 仲良くしてくれよな」

 髪は茶色。一見、軽薄そうではあるが、よく見ると堅実そうな印象を受けた。

 魔力は良いところの小学生か平凡の中学一年生くらいだろう。少ない。

「星月 巡。魔力は……わからない。属性もわからない。魔法はあまり知らず、学ぶためにここへやってきた。よろしく頼む」

 頭を下げ、着席。拍手がした。

「レイス・クライス。魔力はない。属性は一応、闇だ。戦うのはあまり好きじゃない」

 座った。後ろを振り向くと、顔がいい、青年だった。こちらを見て、目を見開かせている。

 巡の直感だが、ギルド長と話していた黒ローブだろう。

 自己紹介は止まらず、行われている。レイスに挨拶して、巡は視線を外し、前を向いた。後ろから返事がした。

 サリーの番だ。

「サリーです! 魔力は三千です! 得意な属性は光で、歌が大好きです! よろしくおねがいします!」

 拍手。その次も、滞りなく、進んでいった。

「皆さんよろしくですよー! 明日から本格的に始まりますので、今日はこれで終わりです。皆さん気を付けて帰りましょうね」

 パタパタと足音をたてながら教室を出ていった先生。残された自分達はどうしたらよいのか、一分近く悩まされた。

「ジュンくん。帰ろ」

 さっきまでの敬語は消え、サリーはカバンを片手に言ってきた。特に断る理由はないので、同意する。

「俺も一緒していいか?」

 レイスが控えめに聞いてきた。

「レイス……か? 帰ろうぜ」

「いいですよ!」

 三人で教室を出る。光が差し込む廊下を話ながら歩く。

「Sクラスはどうなってるんだろうな」

 クラスには、巡達が通うFからA、最高のSがある。特に教室が変わるというのはない。普通の教室であるが、授業内容が違うのと、その他のオプションも付いている。学園の生徒全員に、寮の部屋が割り振られるのだが、Sなら豪華だ。家から通う巡には関係ないが。

「俺はここでよかったと思ってる」

「その心は?」

 サリーと巡はレイスに視線を移した。

「あそこは貴族ばかりで居心地が悪そうだ。ここの姫もいるしな」

 苦虫を噛み潰したような顔をした。そんなに嫌なのだろうか。

「覗いてみるか?」

「私、怖いからあそこに行きたくないです……」

 野次馬根性を見せた巡の提案に、拒否したのはサリーだった。

 まあ、平凡からしたら、才能の集まりは怖いだろう。見下されたりするかもしれない、と考える。

「そうか。じゃあいいかな。お前ら寮だったよな?」

「ああ。星月は?」

「俺は家から通う。近いし」

 家通いか、寮通いかは、履歴書めいた紙に、項目があったのだ。迷わず家通いを選んだ。

「そうなんですか。私は女子寮ですよ」

「俺もだな」

 そうなのか、と返した。視線の先には寮があった。ホテルにも似ているそれは、時計があり、大量の生徒が寮に入っていく。

「では、私達はここで。巡くん、気を付けてくださいね」

「ん、問題起こすなよ」

「私をなんだと思ってるんですか!」

「じゃあ、また明日な」

 手を振って、二人と別れた。そのあと、街の裏路地から転移で帰った。

 自室に入ると、案の定三人は居た。

「ご主人様、学園はどうでした?」

 間口一発、ツキが尋ねてきた。

「なにもなかったさ。知り合い一人いて、同じクラスに、まだ半疑ではあるけど、全帝もいた」

 三人の表情が凍りついた。

「なにを驚いてる?」

「あの全帝だと? ご主人、本当か?」

「聞いてなかったか? 半疑だって言ったけど」

 学生服を脱ごうとする。すかさずツキが動いた。

「すまない。まだ決まっていないんだな」

「まあ、奴が全帝だとしても関係ない。友達は友達だ」

 締めくくり、ツキに学生服を渡す。ツキは服をハンガーに掛け、クローゼットに納した。

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