表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/45

同盟

 気が付いた時には、自室で寝ていた。周りには、見知った皆が居る。異様な、確実になにかがあったのだとわかってしまう雰囲気に、巡はたじろいだ。

 皆が騒ぎ出す。従者も例外ではない。

「なにがあった?」

 寝起きからか、声が出しにくいのに気づく。皆は声をしずめて、レイスが神妙な表情で言う。

「巡、お前は一週間寝たきりだったんだぞ」

 なにかの冗談だろ? と声を出そうとするが、出なかった。それがもし一週間本当に寝たきりで、喉の筋肉が落ちたのだとしたら、どこか信憑性が生まれた。

「巡様、お腹の具合はどうですか……?」

 目の下に隈が出来たツキが、聞く。

「腹は大丈夫だ。世話を掛けたな」

 声がかれていた。しかし、そんな事どうでもいい。

 なんだ、この違和感。

 なぜ――弱体化している?

「皆には説明した。皆、二人にしてくれないか?」

「私は、巡様の従者です。お側に……」

「……そうだな。頼む」

 ダイゴンとツキ以外が、部屋から出ていく。

 巡は寝たままは失礼だと思い、上半身を起き上がらせるも、まるで鉛でもあるかのような体の重さ、怠さに、思わず再び横になった。ツキが体を支え、ゆっくりと寝かせてくれた。

「巡、横になりながら聞いてくれ。どう言ったら良いか……お前は、弱くなった」

 ダイゴンの一言に、酷い目眩がした。

「……あの魔方陣はお前の力を封じるものだった。勇者……と帝が作り上げたらしい」

 自然と溜め息が出る。

 何故かダイゴンの言葉は、頭でしっかり理解出来た。

「つまり、騙されたんだな?」

「そうだ。巡が魔方陣の光に包まれて気絶したあと、俺と巡は逃がされた。精々楽しませろ、だと」

 悪態をつくダイゴン。巡の心は、安堵が大半をしめていた。

「なら精々楽しませてやろう」

「巡……お前も戦う気か?」

「当たり前だ。長が動かないでどうする。元最強は、力だけじゃないって事を教えてやるよ。あの屑にな」

 二人は、片膝をついた。

「ツキは、巡様に名前を頂いたその瞬間から、巡様と死ぬことを決めました。なんなりと、申し付けください」

「新たな王よ、我らを導いてくれ」

 二人の忠誠に、巡はにやりとした。

 此方は質に自信がある。確かに王国は厄介だ。加え、帝国も王国の味方をする筈なのだ。帝国は計り知れないが。王国には炎帝以外は大した者は居ない。

「ダイゴン、皆を庭に集めてくれ。ツキ、庭まで連れていってくれ」

「良いが、大丈夫なのか?」

「問題はない。これからの方針を伝える」

 これからは『星月 巡』という一人の人間ではなく、『王』という幾多の中の一人になるのだ。勝手は許されない。

 ツキに支えられ、庭に着くと、既に皆が居た。心配気な視線が飛び交う中、底はサリーに黙祷した後、振り返り、各々の顔を熟視した。

 皆、真剣な顔をしている。なにかを期待したような、しかしどこか不安を抱えたような。

 ヤミに、声が皆に聞こえるように風魔法をするように命令する。

「皆には世話を掛けた。これから、俺は体力が回復したら、獣国と同盟を組みに行く。その後、同盟であるエルフとダークエルフ、ドワーフとも交渉して、この国に入れる」

 レイスが代表して手を挙げる。

「獣国が簡単に同盟を組んでくれるか? エルフがどこにいるか、それに、ドワーフとエルフは仲が悪い事を知ってるよな?」

「獣国の事は心配ない。前に、王女を返した。恐らく、すぐに同盟を組む。エルフ達はまだわからない。場所はわかるが、こっちに来てくれるか……まぁ、なんとかしてみる」

 次に、ダイゴンが質問する。

「編成はどうする? 残った者は?」

「俺、ツキ、レイス、ヤミだ。俺以外は強いし、なにがあってもすぐ対応出来る。他の皆はもし王国の攻撃があれば、防衛と――」

 一旦口を閉め、思案する。

「作物なんかを考えてほしい。王国での買い物なら、あまり顔ばれしてないアムやクレア、ルマクル、サナフィアなら出来るだろう。しかし数回だけだ。作物の種や、必要なものを聞いて買いに行ってくれ。俺が居ない間はダイゴンに任せよう」

「ええ!? 俺が王国で買い物するのか!?」

「なにか不都合か?」

「もしあいつらにばれたらどうするんだよ!?」

 アムの信じられない、という声に、刃が説得にかかる。

「顔を出してたら大丈夫じゃないのか? 俺だって最近お前の顔を見たんだから、あいつらにはばれないだろ。それに、お前はもうラインじゃない。アムだ」

「そうだけどさ……」

「なるべくあいつらがいそうな所は避けるんだ」

 巡は、もう一度考え直そうか考え始めていた。しかし、そんな心配はいらないようだ。

「じゃあ、俺行く! 俺は新しくなったんだ!」

「その意気だ。アム。出来れば、門番には旅の者だと答えろ。クレア達は、実家に帰ってきた、と。あと、何日間かは滞在するんだ。買うものを買ったら宿にひきこもれば良い。そしたら会わない。クレア、ルマクル、サナフィアもいいな?」

「承知いたしました」

「ルマクル、わっかりました!」

「なん。出来るかぎり怪しまれないようにするん」

「へーい」

「出来るだけ、四人は外を出ないようにしてくれ。いつここを使い魔が見張ってるかわからない。俺は鈍った体を治す事に集中する。なにかあれば呼んでくれ」

 巡は地下訓練所にこもる。

 この訓練所、実は食料庫と同じく、時間の流れが遅くなっている。外での一時間が、こちらでは三十分になっているのだ。食料庫はもっと遅いのだが、不幸中の幸いと言えようか、力は制限されたが、結界や創造しておいたものは消滅していない。

 わかった事は、創造及び、つくった――探知、熱や冷を感じさせない等――能力が消えている事、魔力量は最上級を三回程度で空になり、体力はおよそ五十メートルを全力疾走すれば息が切れ、属性は基本属性だけになっていた。光も、闇も、空間も使えない。

 この力で炎帝を倒す事は出来ない。恐らく、神谷にすら圧倒的敗北を受ける。勝てるとすれば、帝で例えれば、風帝くらいだろう。だが、巡には頭がある。

 満足に刀を振るい、魔法と併用して動く事が出来るまで、およそ一週間かかった。正確には、もう少しかかっている。

「巡様、そろそろ行かれますか?」

 汗を拭いていると、ツキが扉の前で立っていた。

「そうだな。明日出発する。伝えておいて」

「はい」

 ツキが訓練所を出た。巡も後を続くように魔武器を消し、階段をのぼった。

 外の空気が久し振りに思える。今までの空気を一新させ、肺を新鮮な空気で満たす。

 思いとは裏腹に、足取りは重い。

 そもそも、炎帝についていかなければ、すぐに王を倒せたはず。準備がある、等と余裕を持っていたのが駄目だった。

 一度考えると、終わりがなくどんどんと後悔が押し寄せてきた。

 解せない事は勿論あった。王が事前に知っていて、対策をとっていた事だ。仲間以外には表明していないし、王国ではそもそも話をしていないのだ。細心の注意を払っては居た。

 となると、誰かが口外したことになる。もしかしたらスパイ――考えを振り払う。いくらなんでも、着いてきてくれた仲間を疑うのは酷い。きっと、どこかで失敗したのだろう。

 気が付くと、サリーの元へやって来ていた。小さな芽は絶えず成長している。

「サリー、俺は、王国を変えてみせる。ここを差別の無い、お前が嬉しがるような国にしてみせる。どうか、見守っていてくれ」

 ――見守ってるから頑張ってね!

 勢いよく立ち上がり、見回す。

 間違いない、サリーの声だ。巡の頭は、サリーで埋め尽くされる。

 気のせいではない。はっきりと、声がした。

 サリーは居る。この国を、自分を、皆をまもってくれてる。確固たる確信である。


「出るぞ」

 三人の頷き。皆の声援を背に、国の門を潜る。外にはなにもない。あるのは点在する細身の木と、足首までの草。

 全員、手にはなにもない。巡のボックスは健在だったので、食料も夜営セットも一通りはあるのだ。レイスとツキ、ヤミのボックスにも粗方入っているだろう。

「ドワーフの街は西北西にある。けど先に獣国に行こう。エルフは……ここから獣国を過ぎた森にある」

「どうする? このまま真っ直ぐ突っ切るか、大回りするか」

 突っ切ればその分日数は早まる。南は王国、北は帝国、東は獣国、西は新たな国。必然的に、敵になるであろう帝国と、王国の間になり、極めて危険である。

 逆に大回りするとなれば、時間がかかるだろう。食料の心配は今のところいらないが、日数がかかればかかるほど他国に狙われる可能性が高まる。

「楽しませろとの事だ。あっちから暫くは仕掛けてこないと思う」

「じゃあ――」

 ヤミを遮り、帝国の裏の森に、うっすら見える湖を指差す。

「それでも万が一がある。王国の近くには行きたくない。だから帝国の裏で警戒しながら行く。ちょうど湖あるし、夜営しよう」

「こちらから獣国まで、およそ百キロ程度でございます。巡様を除いた私達の身体強化で走れば、二、三日。歩みならば五、六日近くでしょうか?」

「その上で遠回りするんですよね? なら……えと、ざっと一週間ちょっとくらい歩きっぱなし?」

「依頼を思い出すな」

 各々は嫌な顔一つしていない。だが、行っておかねばならないだろう。

「歩きは辛い。でも、平和な国を築く為に、どうか協力してくれ」

「私から今更言うことはございません」

「私もです! 私達がどんなに星月くんを大好きなのかわかってませんね?」

「それは俺もだよ、相棒だろ?」

 本当に、いい人間と知り合えた者だ。元の世界では絶対巡り会えないだろう。

「ありがとう、皆。よし、行こうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ