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全国魔闘技祭

 巡の組と、神谷組、ファラ組は闘技場の戦場にいた。目の前の台には校長が立っており、観客席には一杯の人が座っている。そのどれも座っているのが、生徒や教師だ。

 今日は魔闘技祭。前回の一位、二位、三位が出場する。それに、各国の学生も出るらしい。レイスから聞いた限りでは『ジパング』という和の国、海の向こうにある国、帝国、獣国、他にもあるそうだ。

 三組は活気で溢れている。巡も例外ではない。面には出てないであろうが、内心楽しみだった。

 というのも、やはりジパングの格好。和服で、髷を作り、刀を使っているに違いない。寧ろそうであってほしい、巡は期待を大にしていた。

「あー、これから各国とチームで戦ってもらう。賞金は残念ながら出ない」

 観客席から思い思いのブーイングが起こった。校長し手で制止し、続ける。

「まあ待て。賞金とはいかないが、上位に入れた組には、学園と世界からの栄誉が貰える。騎士団に入れるだろうし、ひょっとしたら全帝様にもスカウトされるかもしれない。他の国に行っても、安泰かもしれないな」

 校長の言葉に観客は、おぉ、という声を漏らした。それが驚いているのか、微妙だと言いたいのか、巡にはよくわからなかった。

「これから諸君をあるエリアに転移させる。担任から説明は聞いているだろう。ペンダントがあるから心配はないだろうが、もし病気等があったり、発熱したらペンダントを砕き、戻ってきてくれ。祭りよりお前らの体のほうが大事だからな」

 何気なく口にした言葉に、一同が小さく感動した。

 安っぽい言葉だな、と後ろで耳打ちしてくるツヴァイを無視して、巡は自分の組を見た。

 サリーは気合いが十分。レイスは関心が無さそうにしていて、ミツは見るからに自信が無さそうだ。ツヴァイは無視されたからか若干拗ねている。皆、概ねいつも通りだ。

 無駄に緊張していると、逆に辛い。対する神谷組も、いつも通りだった。いつも通り、神谷を取り合っている。

 唯一まともなのが神谷の友達である、六大貴族の揃いだろうか。一名は六大貴族では無さそうだが、優等生らしき、髪で目を隠している男。見た目もさることながら、内側も怪しい。

「なぁ、巡――」

「では、前回一位の星月組、前へ」

「すまん、後で聞く」

 レイスが巡にだけ聞こえるような声量で話しかけて来たが、校長に呼ばれてしまったので、そちらを優先した。周りの目があるのだ。校長を無視等という行為は反感を買う。

 五人で戦場に置かれた台に乗る。台には魔方陣が描かれており、それが転移の陣だと気づくのに、時間はいらなかった。

 こういうとき、前回の賞金代わりである魔法書を読破していて本当に良かった、と思えるのだ。

「お前達には、密かに期待している。頑張ってくれ」

 校長が巡達にだけ聞こえるような声量で言った。返事をする暇もなく、視界が変わる。

 森だ。森に、キャンプをするときのテントが張られている。あとは物が適当に置かれていることだろうか。二リットルあたりの水が三本、人数分の携帯食料、寝袋。

「ここが俺達の拠点だな」

 同じく辺りを窺っていたレイスが呟いた。

 全組に拠点があり、そこで寝るらしい。この祭りの勝ち負けは至って簡単。組の五人で、出来る限り相手を倒し生き残れ、というサバイバル式の勝ち抜け生存式。

 闘技場や街中でも放送されているらしく、気は抜けないとレイスが嘆息していたのは記憶に新しい。

 巡も戦おうと意気込んでいたものの、人間レベルに巡が全力を出したら、一秒もかからない。重力魔法で圧せば終わり、ということを思い出し、半分本気だと矛盾したことを今では考えていた。

 ここの時間の流れは早く、向こうの一時間がこっちでは六時間となっている。二十四時間なら、向こうでは四時間という計算になる。向こうに限って、早送りや視点を変えたりすることも出来るに違いない。

 つまり、巡達は四十八時間ここで戦わなくてはいけない。ただサバイバルしているだけでは、敵の撃破数を稼ぐことは出来ない。川を探しつつも、敵を迎撃し、更には拠点を守らなくてはいけないのだ。

 レイスがなにやらチラチラと巡を窺っている。こちらから話しかけようとしたら、ツヴァイに遮られる。

「こんなみみっちぃ水じゃすぐ無くなるだろ。さっさと川を探そうぜ」

 寝袋で大の字に寝転んでいたツヴァイが提案した。肯定しつつ、レイスを横目で見ると、親しげにミツと話していた。

 気のせいだったか、そう思いながら、いそいそと動き出す四人を巡が止めた。

「待て、先ず相談しないといけない」

「なんだよ大将」

「誰が行くかだ」

 ツヴァイのハスキーな気だるい声を耳にしながら、巡は決めていった。

「川探しは俺、サリー、ツヴァイだ。拠点を守るのはレイスとミツ」

 各々の問いが出てきた。

「サリーは敵に俺達の位置を確認させるためだ。拠点で歌ったら終わり。ツヴァイは、流石に戦うのが俺一人だとあれだろ。で、拠点でレイス一人ならおかしいし、ミツも。簡単だろ?」

「まあ、妥当ではあるか。その方が楽で助かるしな」

「私もそれでいい。早く的を見つけて、ポイント稼ごうぜ」

「ごめんね、役たたずで……」

「サリーは気にしないの。うちの男子は強いんだから」

 ミツも腕っぷしを認めてはいるようだ。

 行き際にレイスへ、敵が拠点の近くに来たら念話で知らせる、とひそひそ話で伝えた。

 気合いの声を挙げると、サリーとツヴァイが返してきた。

 水は創造出来るし、食料も出せるのだが、この場においては反則となるだろう。

 ――とある一組がボックスから食べ物を出したので、反則とする。強制退場だ。皆もずるいことはしないでくれ。

 出さなくて良かった、と安堵の息を漏らした巡だった。


 漸く川を見つけた。あと一本、木を越せば、川がある。だが、それと同時に敵を探知していた。おおよそ、川に釣られた生徒を待ち伏せしているのだろう。

「敵は向かい側の森に潜んでる。釣られたふりして迎撃だ。サリーは俺達から離れるな。ツヴァイ、頼んだぞ」

「合点承知ってな。大将、サリー、賞ものの演技を見てろよ」

 ミツが先に出た。なにやら叫びながら。

「おっしゃー、川がみつかったぞー。やったぜー」

 確かに賞ものだ。ただし大根役者賞に限る。

「ツヴァイ、足下に気を付けろよ」

「わかってらー、わーい。水がのめるぞー」

 ツヴァイが川に、靴のままで足を踏み入れた。サリーも川に入りたそうにしているが、我慢してもらわなくてはいけない。

 夏なので、暑さが半端ではないのだが、これも祭りの為。

 敵は暫くしても出て来ず、様子見を決め込んでいた。痺れを切らしたらしいツヴァイが、二挺の拳銃を取り出し、敵のいる森に乱射した。もちろん、詳しい場所はわからないので、適当に撃っているだけだろう。

 それでも下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとはこの事か。巡は感心しながら敵を探知した。敵のマークが確実に減っている。今では一人しかいない。

 労いの言葉を投げ掛けると、ツヴァイは拳銃を指で回し、懐にしまった。

「あと一人、出てこいよ。どっちか選べ。尻尾を巻いて、臆病者として学園に帰るか、圧倒的な相手を、一人で果敢にも立ち向かい、勇敢な者として学園に帰るか」

 辺りに響くように、腹に力を入れて叫んだ。

 反応はない。恐らく、呆然としているのだろう。

「そんなこと聞く必要ねぇぜ大将。どうあれ、撃ち抜かれるだけの的は大人しく出てくるしか選択肢はないんだよ」

「ツヴァイちゃん、それは駄目だよ。敵さんが可哀想じゃない。ちゃんと戦おうよ、ね?」

 正直なところ、どちらでも構わない。ただ、これは放送されている。ただ敵を倒すだけでは盛り上がらないだろうし、最低な人間なのだという認識で目をつけられる。ならば、少しでも良い人を気取らなくてはいけない。

「どっちにする。そのまま怖じ気づいて自らのペンダントを砕くという選択肢もあるぞ」

 言い終わると同時に、茂みから一人の青年が姿を現した。顔面蒼白で足が震えていた。

「こ、降参する。助けて……」

「助けてもなにも、これは魔闘技祭だぞ? まあ、帰ってくれ」

 選択肢を挙げておいて、選択もさせず帰らせた。後ろでツヴァイがくつくつと喉を鳴らすように笑っている。

「そういうの、私は好きだぜ。ビビらせるだけビビらせて、最後に絶望させる」

「狙った訳じゃない。途中から面倒になった」

「私に指示したいなら、そうでなくっちゃな」

 先程からサリーが空気と同化している。行方を探すと、川で遊んでいたらしい。今も素足になって、水面を蹴っている。その顔は喜色満面。サバイバルを忘れて純粋に堪能している。

「サリー、気持ち良いか?」

「うん! 二人もおいでよ!」

 水を蹴りあげ、笑顔を向けてくる。跳ねた水と共に踊り、舞っているようにも見えるのだから、不思議だ。

「大将、近くに誰か居るか?」

「居ないな。レイスのところにも居ない。それがどうかしたか?」

「いや、ただ聞いただけだ。大将、警戒はしておいてくれよ。いつあのクソ勇者様が来るかわかんねぇからな」

 そう言えば、絶対に勝つと啖呵をきった男が来ないのはおかしい。それに、普通なら一直線にこちらへ来るはず。ただ、探知が出来ないなら話は違うのだが。

「あいつら、実力はまだまだだ。魔力の探知が出来るとは思えない」

「それでも、あいつなら何らかの方法で会いに来る。最悪、全面戦闘だ」

 そうだ、楽観的になってはいけない。巡は気を引き締め直した。王女の力を借りることも視野にいれておかなければならない。神谷組ならもしかすると、という懸念がある。

「ありがとう。ツヴァイがそこまで言うなら常に探知をしておく」

 会話が切れたので、巡は川の方に向かった。素足になり、サリーとは違う場所で止まった。

 足は冷たくて気持ち良いが、上半身はたっぷりと日光に当たっている。日焼けしてしまいそうだ。

 川を素早く見遣っていく。サリーの離れたところで、魚が泳いでいるのを発見して、巡は静かに、ゆっくりとそちらに向かった。

 網を創造するか悩んだ末、難癖をつけられても困るので、素手で捕ることにした。

 姿勢を低く、しっかりと見据える。逃げる隙もなく水面に手をいれ、ツヴァイの方へとすくい投げた。

 ツヴァイの驚く声がするが、この際無視して近くの二匹目へと狙いを定めた。

 そうしてツヴァイに魚を投げること数回、五匹の魚が捕れた。

 五人だからといっても、これでは到底足りない。巡は食べないでも問題は無いのだが、それでも足りないだろう。

「魚はこれで良いか? まだ要るなら捕るぞ」

「大将、あんた熊か?」

 サリーには笑われて、ツヴァイには呆れられた。

「いや、違うと思う。それより、どうだ?」

「これで良いと思うよ。ありがとう、巡君。お疲れ様」

「でもまだ足りねぇだろ。他になにか確保しておこうぜ」

 これから戦闘が激しくなるかも知れないので、今のうちにとっておこう、という案に巡は同意した。

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