一章
星空の様に光輝く摩天楼。人が造り出したとは思えない光景のビル群。その中でも両手の指の数に入ろうか、と思われる高層ビルの最上階。漆黒のダークスーツに身を纏う男がそこにいた。彼は電話をかけていた。スマホが普及しているこの現代から、まるで30年の遡ろうかと思うほどのゴツさの携帯電話。衛星電話を使って、時折不適な笑みを浮かべながら、ゆっくりと窓の方へ歩みを進める。窓際へ歩み、高笑いしたその時だった。
男の最期に見た光景は、摩天楼を鈍く反射した一発の弾丸だった。
「ヘッドショット、クソは真っ赤なチューリップ咲かせてオネンネしたぜ」「……Trget down……」
スポッターが喜びを堪えながら言葉を発したのと真逆に、スナイパーは呟く様に言葉を発した。二人は匍匐で身を隠しながら換気穴の陰まで移動した。スポッターはIR加工の施された市街地用ギリーネットを素早く回収し、スナイパーは彼の分身とも言えるM700をばらし始めた。M700をギターケースに偽装したガンケースに素早く終うと、スポッティングスコープをバックパックに突っ込んだ。スポッターがギリーネットをバックパックに詰め込んだのを見計らい、ギターケースを背負って非常口へ急いだ。階段を下りながらスポッターが言った。
「こっから西に2ブロックのとこに銀のセダンが停まってる、それに乗ればおさらばだ」
スナイパーは言葉を発することなく、ただ黙々と足を動かした。階段を全て降りきった後でスナイパーが口を開いた。
「分かりきったクソを吐くな、フーパー」
心底虫の居所が悪そうな感じで呟くと、闇の方へ姿を消した。
「悪い、気を付けるぜ」スナイパーの背を見送りながらフーパーは言った。
「ホーネットの名前は伊達じゃねぇ……か」