第九十三話:告白
ああ、どうしよう。何から何まで全てが俺の悩みの種になる。
瑶子先輩に告白されるなんて!
「……」
俺は頭を抱えて教室の机に突っ伏していた。先程の出来事を反芻してみる。顔が熱くなるのを感じる。
『私、神林君のこと、す、好きみたいなの』
顔を真っ赤にして俯きながら言う瑶子先輩は、とても可愛らしかった。もう抱き締めたい程に。けれど俺は彼女に触れることすら出来なかった。触れてしまうのが怖かった。千歳を裏切るようで、自分を許せなくなりそうで、怖かった。
『先輩、冗談上手いっすね!』
俺は誤魔化した。自分の気持ちを誤魔化したんだ、俺は。瑶子先輩の顔を見ることが出来ずに、逃げるように生徒会室を去った。
「あー……格好悪ィ、俺」
「なーに言ってんだよ、このイケメンが」
「イケメンって、って、おい! 何、他人の独り言に返事してんだよ!」
顔を上げると、そこには友人である逢坂勝也が居た。ひょっこり、という表現が適切だと思う。逢坂はニヤリと笑う。
「さては瑶子先輩と何かあったな? ホレホレ、お兄さんにお話ししてみなさい」
「誰が言うか。ほっとけ」
俺の様子がいつもと違ったのか、逢坂は不思議そうな顔をした。途端に俺の中で罪悪感が生まれる。
「いや、悪い。ちょっと苛ついてて」
「別にいいけど……神林、本当に何かあった?」
「……」
よく相談に乗って貰っている逢坂に、告白されたことを言うべきかどうか悩んでしまう。しかし奴は意外と聡い。直ぐに気付かれてしまうだろう。俺は心を決めた。
「……瑶子先輩に告白された」
「え、あ、おめでとう」
逢坂はポカンとした顔で俺を祝福した。逢坂なりに混乱しているようだ。俺だっていきなりのことで気付かなかったから当たり前か。
「それで? 神林、どうするの?」
「何で?」
「花水木ちゃんのこと」
計らずも溜め息が口から漏れる。ああ、コイツ本当によく気付く。
「瑶子先輩のことは好きだ。そりゃもう、誰よりも。ただ」
「ただ?」
「千歳は一番大切なんだ、俺にとって」
「そっか」
俺達の間に沈黙が流れる。逢坂は窓の外の遠くを眺めている。何を見ているのか、俺は分からない。
「詳しいことはよく知らないけどさ」
「うん」
「俺は神林のしたいようにすればいいと思うなあ。どちらを選んでも、文句言うような人達じゃないだろ?」
「……そうだな」
「うーん、モテモテってのも大変だねえ!」
ニヤニヤしながら逢坂が言った。ばーか、とだけ言って俺はまた机に突っ伏した。