第九話:休息
今朝の天気は、青空が眩しい快晴だ。しかし私達は暗い部屋の中に居た。
「ねえ、背中。大丈夫?」
「うるせ……大丈夫だよ」
「それにしちゃあ泣きそうね」
椿はうつむきになって、真っ白な布団の上に寝ていた。その白さが目に、身体に、沁みる。しかし椿の背中の傷は思ったより浅かった。
「痩せ我慢は身体によくないぞ、椿」
椿の隣には松波が寝ていた。彼は肋骨が折れている。しかし何ともないかのような振る舞い方をした。
「松波……お前も人のこと、言えるような立場じゃないだろ!」
「はっはっはっ! それは一理ある。お、いたたたた!」
「松波も! 安静にしててよね」
すまんすまん、と松波はニコリと笑った。すると椿が思い出したかのように急に口を開いた。
「そういや、羅水は?」
「そういえば、姿を見ていないな。アイツも怪我をしたのだろう?」
二人はキョロキョロと自身の周りを見渡した。私はふぅ、と溜め息をついてやった。
「学習しないわね、二人共。羅水は古堤筆頭なのよ。二人とは鍛え方が違うわ」
そう言うと、松波はいつものように笑い、椿はチエッと舌打ちをした。私達の力は護る為の力。羅水の力とは異なるのだ。私はそれをよく知っている。
「青柳薬史が使用人に化けて、花水木に潜入してたって聞いたぜ」
椿は身体をゆっくりと起こしてから言った。千歳は少し不満そうに、小さく頷いた。
「青柳も裏で何をしてるか、分かったもんじゃねェな」
次は反応しなかった。千歳はただ黙って、一点を見つめていた。椿もそれを見て、もう口を開かなかった。
「……兄さん、騙されてるって気付いてたと思う」
「は?」
「兄さんからその話を聞いた時、そんな気がした」
椿は少し驚いた顔をして千歳を見た。それを見て、千歳は怪訝な顔になった。椿の隣の松波も身体をゆっくりと起こす。
「千歳殿の……妹の勘ってやつかな」
松波は嬉しそうに笑った。千歳は僅かに顔をしかめた。
「そ、そんなんじゃないよ」
「何? お前、照れてんのかよ」
ヒヒヒ、と椿は悪戯っぽく笑った。それを千歳はキッと睨む。松波はまだニコニコとしていた。
「違うのよ、そんなんじゃないのよ」
千歳は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。