表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌児  作者: 真崎麻佐
86/129

第八十六話:甘

 「ねえ、羅水。これで良かった、んだよね」

千歳さまはベッドに顔を埋めながら、僕にそう尋ねた。微かに肩が震えている。

「わ、たしはこれで良かったと思う。だって椿は瑶子さんと両思いなんだもん、そんな二人を分かってて放っておくことなんて出来ない。二人はお似合いだし、やっと椿の恋が叶う訳だから、我が儘は言えない。言っちゃ駄目。寂しいなんて、嘘。嬉しいんだ、椿が本当に幸せになってくれる。私が生きてる内に。それでいい、それがいい。だから」

僕は何も言わない。何も言えないのだ。口から出る言葉全てが千歳さまを傷付けるような気がする。感情を隠し切れない程、彼女は追い詰められているのだ。

「……ごめん、羅水。らしくないことしてる」

千歳さまは赤くなった目を擦りながら、身体をゆっくり起こした。バツの悪そうな顔をしている。

「そんなこと、ありませんよ」

「羅水にも松波にも甘えてばっかりね、私は」

「椿にも甘えてしまえば良いのに」

「何故か無理なのよね。どうしてなんだろう」

困ったように笑う千歳さまを見て、妙に納得してしまう。千歳さまは椿に恋をしているのだ、若しくはしていた。今、彼女の心境がどちらなのか区別は付かないが、確かなことだろう。

「……明日からは元気になるから。急ぎじゃなかったら、報告は明日でもいい?」

「はい、大丈夫です」

「うん、ありがとう」

千歳さまがそう言うと、僕は部屋から姿を消した。彼女の部屋の灯が消されるのに時間は掛からなかった。


 「おい」

呼び出されて不機嫌な顔をした椿が羅水を睨んだ。羅水も睨み返す。

「お前、どういうつもりなんだよ」

「はあ?」

「千歳さまのことだ。いきなり手放すなんて、勝手過ぎるぞ」

椿はハァ、と溜め息をついた。うんざりしたような様子だ。羅水は表情を歪める。

「俺がそう簡単にアイツを見放すと思うか?仕方ねぇんだよ、一度引いてみるしか」

「……千歳さま、お前に恋してるよ」

いきなりの発言に、椿は目を見開く。羅水は極めて無表情だ。

「知ってる。というか、勘付いてた」

「どうするんだ」

「どうしようもないだろ?俺は好きな人がいる、それを千歳も知っている。下手にアイツに優しくしたって、余計傷付けるだけな気がするんだよ」

ポリ、と椿は俯き加減に頭を掻いた。余りにも淡々と話す姿が印象的だった。羅水はジッと椿を見る。

「じゃあ、お前は千歳さまに何をするつもりなんだ」

椿は何ともいえない顔をして、呟いた。

「俺が千歳にしてやれるのは、許婚として側に居てやることだけだよ」

椿の低い声は、静かに闇に溶けた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ