第八話:後悔
部屋の中の静寂を破ったのは薬史だった。薬史は普段の彼らしくなく、目を大きく見開いている。
「……どういうことだい?」
「……何が?」
千歳の顔を汗が伝う。しかし彼女は辛うじて笑っていた。
「刃はどこにいった?」
千歳の持つ花鳥は、今は柄だけの姿になっていた。ところが、薬史の刀をしっかりと受け止めている。
「刃なら……ここにあるわっ!!」
―ザンッ
沈黙が流れる。辰爾は背を向けて、静かに外を見た。
私はまたやってしまったのだ。また意味も無く、人を傷付けた。母ならきっと、大変意味がある、これは私の使命なのだと言うだろう。だから私は意味がない、と思いたい。
「千歳」
兄の声が、優しく響く。私はためらいながらも兄を見た。兄は少し困った顔をしている。
「……兄さん、大丈夫?」
「大丈夫だ。私は千歳にまた無理をさせてしまった」
「……ううん、無理をしたは椿達よ。早く手当てをしないと」
うん、と兄はフワリと笑う。私はそんな兄がいつも不思議だった。
「青柳の彼は?」
兄は倒れている薬史に目を向けた。私も同じようにする。
「うん、大丈夫。これ位じゃ、死なないわ」
薬史は花鳥の攻撃を受けて、多量の血を流して倒れていた。部屋の畳に真っ赤な染みが広がる。
「彼にも手当てを」
「……その必要はないみたい」
私はクイッと外を指差す。兄はその先を見た。そこには青柳の残党がいた。
「兄さん、やっぱり甘いよ」
「千歳もね」
「……」
そして、兄だけ部屋に残った。